「SHIROBAKO(TVアニメ動画)」

総合得点
91.4
感想・評価
3732
棚に入れた
15431
ランキング
33
★★★★★ 4.2 (3732)
物語
4.3
作画
4.2
声優
4.1
音楽
3.9
キャラ
4.2

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

アニメレビュアーの必履修作品

アニメーション制作のことはアニメーション制作会社がよく知っている────しかしその実情を語るにはあまりにも黒すぎて描くのが憚れる内容を可愛い女の子を中心にして全てぶちまけた本作は正に「発想の勝利」という言葉を与えるに相応しい。
普段、私たちはアニメというものをお手軽に視聴している。そして総集編や作画崩壊、シナリオの破綻があればSNS等でそれを指摘し監督や脚本家、制作会社などを批判する。“批判”自体は悪いことではない。しかしなぜそんな批判されるシーンが生まれてしまうのか。なぜアニメ業界には常にトラブルがつきまとうのか。ぶっちゃけ誰が悪いのか。本作を視聴しておくとその考えられる様々な“理由”を把握することができ、正しい批判が出来るに加えて少しだけアニメ作品に対して優しくなれるかもしれない。

【ココが面白い:制作進行の仕事風景】
主人公はアニメ制作会社・武蔵野アニメーション(以下、ムサニ)の【制作進行】という役職に就く新人OL・宮森あおい。制作進行はアニメの制作スケジュールを組み立てて人材の確保や原画の回収・配達を行う職業である。少し調べればわかるが無茶苦茶にハードな仕事であり、本作を観るだけでもそれがよく伝わってくる。そんな「ブラック度合い」を一種のギャグにしつつもアニメ会社の様々な部署を走り回る制作進行を主人公に据えるのは、アニメーション制作の全てを曝すのにはうっけつけだったようである。
当たり前だがアニメは人が作っているものだ。人が関わる以上、ミスやトラブルはどんな仕事にでも付きまとう。同僚のミスの皺寄せが頼りにしてたアニメーターの過労を招き、それをなんとか解決しても監督のちょっとしたこだわりで今までの作業が白紙に戻されてしまうことも────様々な人がアニメ制作に関わっているからこそ制作進行の組み上げたスケジュールは絶対に思うようにいかない。時間が削られ文字通り「1分1秒」を争う状況に追い込まれる様は独特の緊張感を視聴者に与えてくれる。

【ココも面白い:もはや業界あるある同然の生々しいトラブル】
1クール目はオリジナルアニメ、2クール目は人気マンガのアニメ化を描く本作。各々に違ったトラブルが舞い込むことで長尺ながら視聴者を飽きさせない作りになっている。
中でも一際面白いのが第14話のキャスティング会議だろう。
{netabare}純粋に声優としての実力や声質とキャラとの相性で選びたいムサニに対して「人気作品には知名度のある声優さんを使うのが鉄板でしょ」と言うゲームプロデューサーが1人。「歌えない声優は今時ありえない!」と言う音楽関係のスポンサーが1人。「今時と言うならルックスも重視しないと」と言うイベントプロデューサーが1人────この3人が語気と勢いだけで会議を散々に引っ掻き回す様子がゲス過ぎて笑えてしまう。
特に1人は子安武人だ(笑) 推すのは本職がグラビアアイドルの棒読み声優であり、アフレコ後の彼女との飲み会を楽しみにしている。棒読み声優が起用された理由を「枕営業じゃないか」と邪推するのが私たちレビュアーの御約束だが、「その通りです」と言っているようなものである(笑)
しかし、各々の立場も鑑みれば例え棒読み声優でも推してくる事情はよくわかる。円盤(Blu-ray/DVD)が売れる要素は1つでも多いに越したことはないのでネームバリューのある俳優を起用したい。キャラクターソングを売りたいから歌える娘を推したい。顔出しイベントを企画したいからスタイルの良い娘を使ってもらいたい。私たちにとってアニメというのは一種の芸術鑑賞なので何よりもクオリティーを重視してほしいところだが、制作側やスポンサーにとってはかけた予算を回収し利益を出したい“ビジネス”として1作品を扱うのである。{/netabare}
そんな赤裸々な制作事情をユーモアたっぷりに盛り込んだエピソードの数々が面白く、「よくこんな話が許されたな」と感心すら覚えてしまう。

【そしてココがすごい!:わずかな『虚構』で緩和されるストレス】
アニメ制作の生々しい風景を一部始終見せる本作であるが、その中にちょっとした「嘘」も混ぜている所がミソだ。
わかりやすいところなら会社の男女比率。明らかに女性が多く、全員可愛い。P.A.WORKSらしいつぶらな瞳を持った女の子たちに加えて、クール系なのに職場でもゴスロリ衣装を着こなす小笠原さん、切れ長でスタイル抜群な薄幸美人を醸し出す瀬川さんなど、こんな魅力的な女性が豊富な職場って現実じゃあり得ないよね(笑) そして────
「あの作品の中で起こるトラブルは割とリアル。でもあんなに綺麗に解決するのはファンタジー」(Twitter, 緒方てい, 2017)
これが2クールもあるSHIROBAKOという作品をサクサクと完走し「面白かった」「見てよかった」と思えた部分だと思う。
ハッキリ書いて本作のトラブル解決は理想でしかないパターンも多い。たまたま上手くいくのは正にアニメだけの話であり、本来なら様々なトラブルは解決されることなくスケジュールを圧迫し、納期を守りきれずに総集編を入れるか、クオリティを落として「作画崩壊だ」と叩かれる選択肢しか残されていかないだろう。
だがそこはアニメ。「万策尽きた」とはよく口にされるけどもその実、何かしらの策が用意されている。トラブル自体はリアルに生々しく描きながらも、それを理想的に解決する「夢」のような展開でトラブルの抑圧と解放による“爽快感”を生み出している。その夢に向かってムサニの社員が各々のスキルをいかんなく発揮するシーンにも見所がある。鼻持ちならないキャラクターに顔が曇る展開も多く描かれる本作だが、そんなストレスを長くても2話以内には解消するという構成が本当に非の打ち所がなく素晴らしい。
{netabare}個人的には萌え絵が描けず「会社のお荷物」と自嘲していた杉江さんが第12話で監督の無茶ぶりに唯一応えられ、八面六臂の活躍を見せる展開にとても感動した。いつどこで自分の能力が重宝されるかわからない。老人が現職に就き続けることを快く思わない人も少なくないが、彼からは愚直に仕事を続けることの大切さを学べた気がする。{/netabare}

【でもココがひどい?:専門用語の解説はほぼ無し】
欠点を挙げるなら、本作はアニメーション制作に関わる用語の説明などをあまりしないため、視る人がそれらの用語を知らないと楽しめない部分もある。やたらと出てくるのは「ラッシュ」「グロス」「クリンナップ」「ダビング」など。ダビングはアニメ用語だとコピーすることではないので注意。
調べればすぐに意味がわかる用語ではあるが、逆に言うと解説シーンがないので自分で調べないといつまでもわからない。2クール目に入ると新人の【制作進行】が入ることでようやく劇中の研修シーンを使って用語解説をしてくれるのだが、ほとんど「打ち=打ち合わせ」の解説ばかりでどうにも痒いところに手が届かないのである。
Bパート終了かエンディング終了後に用語の解説コーナーみたいなのがあっても良かったとは思う。本作を観終わってない人は事前に公式サイトの「Words」項目で用語を調べておくといいかも知れない。この手間隙を惜しく思わないほど本作は確かに面白い。

【主要キャラクター評価】
宮森あおい
「P.A.WORKSのお仕事アニメは曇る。『花咲くいろは』がそのいい例だ」と覚悟していたが、彼女の明るく前向きな性格、コロコロと変わる豊かな「表情」がそんな心配を緩和させてくれた。ありがとう、おいちゃん!
仕事ぶりも新人にしては有能で、例え業界の大御所にも物怖じせず、自らの意見をしっかりと述べる所が正に主人公。本作が描くアニメ業界がリアリティーに欠ける要因にもなっているが、彼女がいたからこそこのアニメを「萌えながら」完走できたと思う。個人的に宅配のお兄さんに泣き付いた時の顔がツボ

安原絵麻(やすはら えま)
中々、胃に来るシリアス話を担当してくれましたね……。
どんな仕事にも言えると思うが丁寧な仕事はスピードを犠牲にするし、だからといってスピード重視は雑な仕事になってしまう。「どっちをとればいいんだ!?」って社会人なら誰もが1度は悩んでいることだろう。勿論、両立できればそれに越したことはないが…。
この一生のテーマと言ってもいい悩みを次週には解決してしまうのは流石に御都合だなとは思いつつも、それがSHIROBAKOの強みだなとも感じる。リアルに潰れた原画マンなんてアニメで観たくないしねえ
2クール目からは可愛い仕草が倍増する。何度もジェットコースターに乗せられてグロッキー状態になった所が個人的なお気に入り。

木下誠一(きのした せいいち)
「男キャラで印象に残ったのは?」と訊かれたら、やはり監督は外せない。2作品とも「こだわり」という我々オタク目線な制作指示を出し、「こういう監督ばかりなら良いアニメも沢山出てくるのに」と思わせてくれる。
しかし作る側からすればそのスタイルがたまったものじゃないというのがまた面白い。時折やらかし作品である『ぷるんぷるん天国』を引き合いに出され「このデブ」「ぷる天野郎」と罵られる様に愛嬌を感じてしまう。

高梨太郎(たかなし たろう)
平岡大輔(ひらおか だいすけ)
女の子たちが優秀な分、男社員はダメダメだ。太郎は失敗ばかりするのに根拠の無い自身に満ち溢れていて序盤から目ざわり、大輔は杜撰な仕事と協調性の無さで要らないトラブルを生み出していく。
正直、ずっとイラッとさせられた。しかしそんなダメンズがバディ(太郎談)として組んだ20話以降から、急速に好感度が上がるようになっている。無茶苦茶に遅い。それでも2人の性格が歯車のように噛み合って本当に良い関係を見せてくれるのだ。
{netabare}日高……じゃなかった目高屋のサシ呑みのシーンは涙腺が弛む。女性社員に仕事ぶりを愚痴られているとはいざ知らず野望を語る太郎と壮絶な新人時代を打ち明ける大輔。大輔が自身の過去を宮森でも矢野ちゃんでもなく太郎にだけ話すというのが本当に良い。“男の心女知らず”とでも言うべきか、なんだか仕舞いには女子より男2人の方を応援したくなってしまった。{/netabare}
終盤というのがあまりにも勿体ないので、機会があればこの2人を主人公としたスピンオフも是非つくって欲しい。

【総評】
始めこそアニメ制作の裏側を知る“お勉強感覚”で観ていたが、そこを充たしつつ沢山の登場人物の葛藤と成長、衝突と友情がしっかりと描かれた気持ちの良い「青春」群像劇を拝むことができた。
本来、沢山の登場人物がいると名前の把握も難しく1人1人の掘り下げも浅くなってしまうものだが、逆に過度な掘り下げをせずに幅広い人物を物語に関わらせ続けることで、アニメ制作は沢山の人が動いて成り立っているんだというメッセージを感じ取ることができる。1人1人が然り気無くも印象深い「決め台詞」で爪痕を残していくことで少ない出番を補っているのが良い。
{netabare}北野さんは1回しか出てないが「上手くいかないことを人のせいにしているヤツは辞めちまえよ!」なんてグサッとくる強い台詞を吐いている。これで3Dに嫉妬していた遠藤さんの意識を劇的に変えるのだから、1度しか出ない彼もその話の立派な「キーパーソン」だ。{/netabare}
ストーリーの流れは「トラブルの発生と解決」の繰り返し。大枠で見ればシンプル──というよりもはや単純な構成なものの、その種類は多岐に渡るので飽きが来ない。むしろ度重なって舞い込むピンチに段々と「またかよ(笑)」という御約束を見せてもらったかのような喜びすら感じる。そんな波乱万丈なアニメ制作会社の様子の中に女の子の「萌え」もこれまた然り気無く織り交ぜられており、キービジュアルだけで抱くだろう期待を裏切らない内容にもなっていた。
本作を観ることで解る一番大事な点は「アニメ制作に『誰のせい』も『誰のおかげ』もない」ということだ。いや突き詰めればそれらは確かに存在するのだが、我々視聴者がたった1本の完成品を観て「話が面白くないのは脚本家のせいだ」「このキャラの顔が崩れているのは原画マンの○○のせいだ」と名指しで断言することはもう出来なくなる。
原画マンはそれで飯を食っていこうとするのだから絵は絶対に上手く描いてくれる、時間さえあれば。その時間を奪うのが制作進行のミスだったり監督の絵コンテが上がらなかったりなど様々な事情が混在している。脚本家もそうだ。私もちょっと前まで勘違いしていたのだが、脚本家の仕事は題材1つで自分好みのストーリーを作ることではなく「監督やクライアントの意向を文字に起こす」仕事だったのである。これが事実だと「このアニメがつまらないのは脚本家の○○のせいだ!」と言うのは非常に短絡的な論調と言える。
逆を書けば様々な好条件を揃え、アニメに関わる全員が一丸となれればアニメは際限なくより良いものになっていく。そんな大いなる「可能性」と本来ならアニメが失敗する生々しい「事例」を絶妙なバランスで描いた本作は最初から最後まで面白かったし、何よりも新米レビュアーとしてためになった。
仮にもここ「あにこれ」などで作品評価をしていくという人には本作は必履修科目ならぬ“必履修作品”だ。貴方はきっとこれからも色んな作品を好き勝手に称賛も批判もするだろう。それらが的外れにならないようアニメ制作の一端を知っておく必要がある。別に「製作陣に忖度しろ」「キツい批判を書くな」とは書かない。何より私も書いてるし。ただどれだけ扱き下ろせるような作品でもその裏には沢山の人の「仕事」や「青春」がある。そう考えると少なくとも口汚い言葉で過剰に罵ったり、良い点を全く挙げずに終わらせるような真似は出来なくなるのではないだろうか。

投稿 : 2021/11/24
閲覧 : 415
サンキュー:

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