フリ-クス さんの感想・評価
3.4
物語 : 4.0
作画 : 2.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
アニメ業界の悲哀が3DCGに詰まってますね
アニメ-タ-さんにしろ漫画家さんにしろ、
その作画技量を推し量る一つのバロメーターとして
眼が描けたら一人前
というのが挙げられると思います。
マジな話、一流のプロが描く『眼』というのは、ほんとうにすごいです。
戸惑い、憎悪、狂気、虚無、嫉妬、歓喜……
あらゆる感情が、台詞も前後関係もすっ飛ばしてびしびし伝わってきます。
僕がそれを初めて実感したのはずっと昔、
ちばてつや先生に『あしたのジョー』の生原稿を見せていただいた時のことです。
誇張でも何でもなく、生まれて初めて息をするのを忘れた。
芸術的感動なんかじゃなく、生理的な衝撃だった。
どんな人間がどんな精神状態になればこんなものが描けるのか想像もできなかった。
それ以来、なにかと『眼』の表現を気にしているワタクシです。
その観点から言うと、
3DCGというのはかなり分が悪い表現技法です。
だって、基本的な構造が鉄人28号にマブタ貼り付けたようなもんですから。
実際、いまのところ3DCGの『眼』を含んだ表情による感情表現は、
手書きに対して遠く及ばないというのが現実ではないかと。
(逆に、3DCGの方がまだマシ、というひどいアニメもありますが)
ただ、技術というのは日進月歩ですから、
近い将来「うおう」と思わされる映像が出てくるかも知れません。
どちらがどうだこうだみたいな二元論はあまり気にせず、
手書きアニメ-タ-さんと切磋琢磨し、
ジャパニメーションを盛り上げて欲しいものだと思っています。
さて、本作『ゾンビランドサガ』は、
基本手書きアニメでありながら
歌唱シ-ンを3DCGで表現することにチャレンジした意欲作です。
残念ながらその意欲はとんでもない実を結び、
正視に耐えないシロモノになっちゃったりしていますが、
まずは本編のお話から。
基本的なストーリーというのは、
企画時の仮タイトルが『アイドルゾンビ』であったことが示す通り、
様々な時代、様々な理由で死んだ女の子たちがゾンビとなり、
佐賀県を救うためアイドルグループとして活動するという、
極めてぶっ飛んだ、キワモノ感まるだしの構成になっています。
はぁ? アイドルもの? パスパス、そんなもんいらん。
そういう方はけっこういらっしゃると思いますし、
実は僕もその一人であったりするのですが
この作品はけっこう見れます。てか、正直面白かったです。
アイドルものに対する悪いイメージというのは僕が察するに
① 個々のキャラの性格がテンプレに塩ふった程度で、ないのも一緒。
② プロならあたりまえの努力を美談にするとか、物語がちゃち。
③ そもそも「アイドルになりたい」というのが自己顕示欲の表れで共感できない。
④ ファンがキモい。アキモト式詐欺まがい商法の被害者だけど同情できない。
⑤ 個々の曲が、物語と切り離したら箸にも棒にも掛からないほど凡庸。
みたいなところではないかと。
これをこの作品に当てはめてみると、
① 個々のキャラ立ちがすごい。ぶっ飛んでいる。
② そういう演出がないこともないけれど、{netabare}
とりわけ中盤まではガタリンピックとかドライブイン鳥とか、
コミック要素としてうまく取り入れている。 {/netabare}
③ 中盤まではバラバラのメンバーが無理やりやらされている感じ。
そもそもアイドルをやりたくて集まったメンツではなく、
夢見るユメ子ちゃんが憧れだけでアイドルを目指す話ではない。
④ これはしょうがない。ただ、そういう演出はかなり少なめです。
⑤ これもしょうがない。OP・EDはいいんだけどさ。
みたいな感じではないかと。
僕はどういう観方をしていたのかと言いますと、
みんなキャラ立ちしていたのと本渡楓さんの佐賀弁が可愛かったので、
コミカル部分なりドラマ部分を楽しんで、
アイドルライブのシーンはためいきついてよそ見していました。
それで充分に楽しめるぐらい出来がよかったしね。
{netabare}
佐賀のローカル・自虐ネタとゾンビネタがうまく絡んで笑えるし、
愛と純子のアイドル論なんかは一聴一考の価値アリ。
しおれたさくらと幸太郎のやりとりも、
ちゃんと『人のカタチをした』ドラマになっています。
よしおの下りは微妙だったけど、あれだけぶっ飛んでれば許容範囲内。
ゆうぎりねえさんとたえもいいキャラだし。
てか、三石琴乃さんがたえを演ってるということだけで笑えるかも。
系統は違うけれど『えびちゅ』を思い出させる攻めキャラです。
ひとつ残念だったのは、リーダーのサキが珍走団あがりだったこと。
そのことを悔いているとか恥じているならともかく、
全肯定、そのまんまの気質でいることには嫌悪感しかありませんでした。
世の中にむしゃくしゃする、単純にバイクが好き程度の理由で、
他人の安全走行を妨害したり騒音をまき散らしたり、
そんなことをする権利は誰にもありません。
珍走は、他人を全く顧みない身勝手な迷惑行為であり、
しかも第三者の命を危険にさらすこともある悪質な犯罪です。
実際、巻き込まれて大怪我をしたり、命まで失った方もいるわけで。
それを度胸がある、肝が据わっている、
そんなふうに変換する感性は、昭和で終わらせなきゃいけないのでは。
サキの設定は元格闘家とか女子プロレスラーにして欲しかったな、と。
ほんとうに他人を思いやれる人間は、
珍走団に入って迷惑をまき散らすような真似はしませんて。
{/netabare}
おすすめ度としては、かなり凹凸の激しい作品なのでB+です。
正統派アイドルものとは一線を画すぶっ飛んだ設定で、
非難を恐れずあえて言うならば、
あの『ゴクドルズ』の系譜に位置する作品かも。
テイストは回によってかなり変わるんですが、
基本的に、おバカ・コミカル7、シリアスが3ぐらいの配分なのかな。
人生における大切な何か、みたいなものは一切なく、
お気楽に見ていられる作品です。
そのわりにキャラがしっかり作り込まれていて、
シリアスなドラマ部分にも、とってつけた感がありません。
このあたりは、原作の縛りがない、オリジナル作品の強みですよね。
役者さんのお芝居も、本渡さん、種田さんは当然として、
まるっきり知らなかった役者さんたちも、しっかり役作りができてます。
やっぱ脚本がいいと役者もノれるんですよね。
アイドルものによくある音響監督の匙投げ姿勢もまったく感じられず、
この手の作品ではかなり高いクオリティなのではないかと。
いやそれにしても宮野さん楽しそう。
映像に関しては二段評価。
手書き部分はMAPPAさん制作だけあって、
基本的にはしっかり描けています。時々「はぁ?」とか思わされますが。
そして、歌唱部分の3DCGについては……
はっきり言って正視に耐えません。
直前の、あるいは間に挿入される手書きカットとならべると、
違和感というよりもまるで別もの。
日本の熟練作監と中国のわけわかんないアニメ-タ-が、
同じ話の原画をカットによってかわりばんこに描いているようなもので、
作品としてほとんど破綻しています。
最終話のステージなんか、本来は感動しなきゃいけないんだろうけど、
まったく品質の違う2Dと3Dがくりくり入れ替わり、
映像がチープすぎて
耳にもアタマにも心に触れるものが何一つとして入ってきませんでした。
眼なんか、鉄人28号に黒目入れてるだけじゃん。
僕は最初、製作委員会にCygamesが入っているので、
同社が制作に無理やり自社の3Dラインをねじ込んだのかと疑いました。
しかし、その後ネットなどで情報を調べるにつれ、
MAPPAさんが3DCGディレクターをきちんと立て、
自社主導でこれを制作していたことがわかり、ただただがっかり。
OA直後、ネット上でも非難・擁護の声が飛び交っていたけれど、
僕が偶然見つけたとある外国の方の意見、
日本のみんなはどうしてそんなに不寛容なんだい?
確かに出来はよくないけれど、全体の中でたかが一、二分じゃないか。
それさえ我慢すれば、二十分もの楽しいアニメが見られるんだ。
みんなもっと大きな心をもって応援してあげようよ。
みたいなところに収束していったのかな、と。
ここからちょっと厳しいビジネス論。
本編から少し離れてしまうので、
いつもどおりネタバレで隠しておきますね。
{netabare}
みなさんご存じの通り、アニメの制作環境はかなり厳しいものがあります。
日動協が発表している数字は事実そのもので、
ごく一部の例外を除き、現場は慢性的な資金不足にあえいでいます。
本作を制作したMAPPAさんですら、
元所属アニメ-タ-さんから「きつい・安すぎる」と告発されていますしね。
ただ、その告発で示された数字は世間の感覚として「安い」だけで、
たいていの制作現場の実情は「そんなもん」です。
少なくとも丸山さんは、他人から搾取して甘い汁を吸うような方ではありません。
要するに、全体の予算が低いんです。
だからアニメ-タ-に配分する原資が充分に捻出できない。
だったら全体予算を増やせばいいじゃないか、
たいていの部外者はそうおっしゃいます。
そんなもん、簡単に増やせるならとっくに増やしてますって。
いまでも、深夜枠1ク-ルを作るのには、
波代(放送枠提供料)と広宣費合わせて、ばくっと二億円ぐらいかかります。
そして、それだけの投資をして、大半の作品が『赤字』なんです。
正確な統計があるわけではないのですが、体感的に申し上げるなら、
なんとかトントンにできているのが二~三割ぐらい。
ちゃんと配分できる利益が出せる作品なんて一割に満たないぐらいです。
制作会社だけでなく、製作サイドもかつかつ以下なんです。
もしも制作会社が徒党を組んで、あるいは行政が介入するなどして、
現状の制作費を三割あげる、みたいなルールができたなら、
投資に見合う回収が見込めないということで、
製作されるアニメの数はひょっとすると半分以下になるかも知れません。
そして、そうなると中小のアニメ制作会社が次々倒産してしまいます。
むやみに最低賃金をあげたら人件費を払いきれない会社が続出し、
雇用が減って失業者が増えるのと同じ理屈です。
経済の原理原則は、アニメ業界にもそのまんま当てはまるんです。
ですから、いまある予算でなんとかやりくりするしかない。
品質が落ちることがわかっているのにアジア圏へ外注依頼をしたり、
デ-タを使い回せる3DCGに移行したりするのは、それが最大の理由です。
本作で言うならば、
『アイドルの歌唱シ-ン』なんてものは、動かさないわけにいきません。
同じアングルでだらだら流すわけにもいきませんし、
おまけに、七人のキャラをそれぞれ動かさなきゃいけない。
それだけ原画も動画も枚数がかかる、
つまり尺に対してカネが特別にかかってしまうシ-ンなんです。
だから、3DCGでやってみようかという話になるのは、
ある意味当然というか「仕方ない」ことだと僕は思います。
そのこと自体には、是も非もありません。
ただ、それは視聴者には『全く関係ないこと』なんです。
やると決めたんなら、視聴者に恥ずかしくないものを出さなきゃいけない。
それができないのなら、
そもそも最初の予算で制作を請けたこと自体が『間違い』なんです。
おそらく最初は『もっとマトモなもの』が創れると思って着手したのでしょう。
そして、あがってきたものを見て絶句した。
だけど手書きに戻すだけの予算もスケジュールも残ってない。
こりゃもう両目をつぶってバンザイアタックしかないだろ、みたいな話になった。
だいたいそんなところではないかと『強く』推認されます。
手書き2Dというのは3D視点だと『ウソばっか』なので、
それを違和感なく3Dで再現するのは、確かに大変なことなんです。
そのへんの事情を加味しているのか、
ネットでは3DCG部分を『ムリほめ』している記事も見受けられます。
ですが、それが何の慰めにもならないことぐらい
制作した側が一番わかっていると思います。てか思いたい。
かつてマッドハウスは予算度外視で品質を突き詰め、
それが故に制作赤字が次々発生して経営が立ち行かなくなりました。
だからMAPPAさんが『違うやり方』を模索するのは痛いほどわかります。
だけどその解答というのは、
みんな優しいから見逃してくれるだろうという見込みで、
自分でも納得できないものを人さまにお出しすることじゃないでしょう?
違いますか、丸山さん?
{/netabare}
ちなみに本作は、ご病気で長く休業していた種田梨沙さんの、
本格復帰二作目にあたります。
全然おちてないどころか、すごい表現力ですよね。
{netabare}
さくらが触発される「失敗を悪いことだと思ってない」という台詞なんか、
ふつうの若手が演るとペラペラの麗句にしかならないんですが、
種田さんの語りには一人の『生きざま』を聞く側に伝える言霊があります。
{/netabare}
いまのところ、本作とこれの二期以外、
メインキャストのお仕事は請けておられないようなので、
まだ万全じゃないのかな。
来年は『うたわれるもの』の続編もあり、
無理をせず、少しずつ活躍の場を広げていただきたいものです。
なお、種田さん全盛期にアンチが『枕営業疑惑』を流布してましたが、
100%、それはありえません。
だって疑惑の根拠が「同じ音監の出演作品が多い」だけなんですから。
そもそも音監というのは『キャスティングの決定権をもたない』んです。
原作者や製作からの横やりが入らない限り(けっこう入りますが)、
声と芝居が監督のイメージに合うかどうか以外に合否のカギはありません。
僕ごときの、業界の端っこをかじっただけでも簡単にわかる『ウソ』が、
いかにも事情通の話みたいに流通してしまう。
この業界、コスト面以外にも、まだまだ頭の痛いことだらけですねえ。