薄雪草 さんの感想・評価
3.6
物語 : 4.0
作画 : 3.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
なんだろう? このふしぎな余韻。
花火で招霊できると噂されるサマーゴーストと、キービジュアルの3人の少年少女の日常をエピソードにしたお話です。
小品ですが、テーマははっきりとしています。
シナリオは、観念めいたものがいくらか先走っていたように感じましたが、鑑賞するにはストーリーをそのまま辿ってもよいだろうと思いました。
いわゆるエンタメ性とか、ボーイミーツガールとか、セカイ系といった要素は見当たりませんので、そこは期待しないでくださいね。
なんなら "沈思黙考向き" というか、物事の本質を追求するかのようなジャンル?にカテゴライズできそうに感じました。
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根底に、ジュブナイル世代に特有の "生きにくさ" をどっかりと据えています。
その反面、3人のエピソードはかなり薄口で表現されています。
ですから、主人公らが口にするメッセージのパワーは、やや物足らないようにも感じました。
彼らが花火する背景には、心の深いところには激しいエナジーがたしかにあるのですが、どうしてなのか、かなり抑制された振る舞いとして表現されています。
ですから、感受する側(視聴者)のシンクロする針の振れ幅がとても小さくて、ともすると見逃してしまいそうになります。
でも、腹の底にあるマグマの熱量に思いを寄せられるなら、物語全体を俯瞰することができますし、通底する意味を汲み取れるようにも感じました。
というわけで、鑑賞においては解釈する余地が相当にあります。
受け止め次第で、重くも軽くもなる作風、といったところです。
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演出は、キャラの心情を、思うままストレートに切り出しています。
それは、つまり、稚拙とも、純朴とも言えるコトバなのですが、むしろ10代の等身大の姿なのかもしれないとも思いました。
それを補足する演出も最小限に絞られているものですから、つい、いつもの癖で、理屈で追いかけてしまいがちになります。
でも、そのやり方だと、なんだか望ましい受け止めができないような気がしました。
すべてのセリフが、多分に直情的というか、詩文的なものですので、どんなにこちらの感受性を高めても、なかなか真意が汲み取れません。
いつの間にか彼らの会話に付いていけなくなり、心象までに思い及べぬ "歯がゆさ" も感じてしまいました。
そんなふうでしたので、観終わったころには、小さな疲労感が残りました。
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作品がアプローチするのは、肉体に宿る魂魄の扱い方です。(たぶん、です。)
喜怒哀楽とかのメンタル・コントロールだったり、勇気や侮蔑へのフェア・パフォーマンスだったり。
魂の緊張は、日常に混在している生と死を、ときに鮮やかに浮き立たせ、意識下で旺盛にせめぎ合わせます。
まだ何ものとも知れない人生。
(自己への評価)。
どう価値づければよいか分からない社会。
(他者への処し方)。
そこには、滲むような死生観が見られました。
はかない花火に炙られるのは、憧憬と諦観。
落ちる火花に揺らめくのは、足掻きや懈怠。
煙火に目が沁みるのは、あと一歩が踏み出せないもどかしさ。
勉強アタマでは得られない、身体と魂魄とを合わせる難しさが描かれていたように感じます。
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もうひとりの女性。
それがサマーゴーストです。
彼女の取り扱いは、これまた繊細で微妙です。
幽玄で、深妙とさえ言えそうです。
彼女への心象は、線香花火のはじける華燭と消えゆく光跡に芽生えます。
懸命な燃焼が終わりを告げると、ささやかな寂寥が魂魄を微かに疼かせます。
それは、死の末路に標(しる)されたゴーストの囁きと、残された生への仄かな名残のようでした。
やがて訪れるだろう秋への揺らぐサイン。
葬送の儀式のあと、なぜか甘やかな残り香が感じられました。
もしかしたら、夏のほとぼりが4人の心を温めたのでしょうか。
つないできた熱い心根が、一つの気迫につき固められたかのようでした。
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もしも叶うなら、晩夏までに上映されると良かったのでは?と思います。
そうであれば、作品の訴求力がもう少し違った形で受け止められたのではないかなと感じます。
とは言え、この時季であることが、ふしぎな余韻を生み出しているのも事実なのです。
アニメーションとしては、やや粗削りな印象でした。
でも、イラストレーターたる作家性に思いをいたせば、その精気の源泉に触れられる作品のようにも感じました。
いくらかでも関心をお持ちであれば、覗いてみるのもいいかもしれません。
こわごわでも・・・ね。