ネムりん さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
考えさせられた完結編
『PSYCHO-PASS サイコパス3』の続編となる完結編。
話は3期からの引き続きになり、マネーゲームを主宰しシビュラのシステム開発に携わり、その盲点を突き富を得る目的で存在する組織「ビフロスト」と、シビュラの初期導入段階の不具合を修正するためのデバッグシステムである「ラウンドロビン」の扱いが結末へのエピローグとなり、シビュラがどのようにしてこれらと向き合っていくかが物語の焦点。
登場人物の格闘シーンや鑑識ドローン(ダンゴムシ)、プロトタイプのショットガン型ドミネーターなどを使ったアクションシーンが多かった印象の作品で、前作の伏線をある程度回収して今後の展開に含みを持たせたまま、難しく感じられた部分や不明だった部分を相当数クリアにして、3期からくる話の流れをしっかりと結末に集約して締めくくり、構成の巧さが感じられた。
『FIRST INSPECTOR』ではシビュラシステムの盲点を組織の解体(?)とラウンドロビンをシステムに取り込むことで解決を図っているが、シリーズを通して伝えたかったことはシステムが人を完全に理解し制御することはできないということで、あくまでも最終的に判断を下すのは人間であるということ。
つまりシンギュラリティ(技術的特異点)を持つシビュラシステムでさえも座標を示す指針にしか過ぎず、人間が全ての社会的責任を負って引き金を引く必然性があり、例え誤った方向に進んだとしても過去の過ちから修正を行い、進化した技術とともに歩むべき倫理を学び、システムに依存し過ぎない社会の包括的管理が必要になるという意味合い。
シビュラの一部である細呂木に代わり、法斑に局長の任が与えられたことにも隠喩がなされていて、このことを現代社会に当てはめれば、人間が作った法の欠陥は人でしか修正できないということが言え、常守朱が言っていたセリフで「法が人を守るんじゃない人が法を守るんです」というのはまさにこのことを指すんだと思いました。
作品のテーマとなったPSYCHO-PASSサイコパスシリーズ1期の免罪体質者としての「個」に対し、2期が「集団的サイコパス」の認識、3期が 「組織」としてのビフロストの論点。
共通するのは全てシビュラにその存在が認識されないということ。
免罪体質者の脳から構成されるシビュラシステムの一部になり得た槙島聖護はシビュラに取り込まれることを拒んだが、ファーストインスペクターである梓澤廣一はシビュラの一部になることを望みシビュラに拒まれた。
また複数の個体から構成される鹿矛囲桐斗はシビュラにその存在を認めさせ、自らの死を受け入れた。
要するにシビュラのような人間の規範となるスタンダードなものは、法の欠陥に相当するこれら認識されないものをクリアにするため、梓澤のケースのようにある程度の制限を設けたうえで、鹿矛囲のケースのように柔軟性を与え、槙島のケースのように選択の余地を残し、状況に応じて認識を改め常に成長していく姿が望ましいというのがシリーズ作品の趣旨だとすれば奥が深いと言える。
社会規範という枠組みの中で、固定概念に捉われがちな法に代わる手段として、人がシステムをどのように取扱いどう受け入れるのか、シビュラのような疑似的AIとの共存がテーマである現代社会においてとても考えさせられた作品。
サイコハザードを引き起こし犯罪基準を裁量により書きかえられるシステムを、可逆性を持つ人間が共存する形で補完する社会の在り方が問われ、形而上の正義や理念といったものに囚われずにパラダイムシフトすることが作品内容から見えた物語の結論。
慎導灼の父親の自殺や炯・ミハイル・イグナトフの兄の殺害、 常守朱が収監され課長補佐付執行官に任命されるまでの経緯、 コングレスマンの法斑静火がシビュラから局長に任命された真の狙いなど、未解決の部分を残したまま次回作は企業か国家単位での話が想定されるのか、今後の展開が期待できる作品でした。