薄雪草 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
アイは、 "愛" 、 "I" 、それとも・・・?
私のクラスにやってきた転校生。
どこかで見た顔だと思っていたら、AIの実用化に向けての {netabare}"実験機" {/netabare}だった。
学力優秀、運動性能は抜群。
歌って、踊って、人懐っこくて。
ところどころヌケてもいて。
それに、キスだって・・・。
タレントぶりがすごいんだけど、不思議と嫌味に感じないのは、どうして・・・?。
彼女の名前は、シオン。(公式)
たぶん、詩音。(私的には)。
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いきなり 私(サトミ)に馴れ馴れしく、「しあわせ?」なんて訊いてくる。
私は、シオンの正体は知っているけど、質問の意味も、意図もわからない。
この町はまるごと企業にコントロールされた世界。
社会生活そのものが大人たちの都合。
そして、クラスの謎ルール。
できること、できないこと。
知っていること、知らないこと。
やっていいこと、やってはいけないこと。
そんな気だるさに振りまわされ、板挟みにもなって、幸せなんて、考えること自体がバグみたいなもの・・・。
なのに、このAI。
わかったふうな顔して・・・。
~ ~ ~ ~ ~
勘違いしていたのは、私のほう。
彼女は、{netabare} 私が気づくずっと前から、私を見ていてくれてたんだ。
私の幸せを、私のために探していてくれてたんだ。
シオンには、待ちに待ったその瞬間。
そこには、ある愛の詩が込められていたんだ。{/netabare}
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AI特有の目的達成へのあくなき探究。
課された使命への自己覚知。
自己生成する可能性。
そんなファクターが、見事な演出で表現されていました。
特に秀逸に感じられたのは、AIを友情のベースに据え、日常のルーチンに落とし込んだシナリオ。
そして、5Gの先に見えるだろう未来の環境。
吉浦康裕氏が見せたい "期待感" なのだろうと思いました。
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「秘密はね、最後に明かされるんだよ♡」
この言葉が、あとでオチに効いてきます。
いいえ。
それは、一歩踏み出したい、友だち未満からのカミングアウト。
幸せを願う視点の逆転に、主客が入れ替わるハレーションなのです。
劇場の席を立つ私は、思わずくすりと微笑み、主題歌のメロディーを知らずとハミングしていました。
おまけ
{netabare}
舞台のモチーフは、佐渡島。
作風は、爽やかな青春群像劇。
テーマは、AIネットワークがつなげる人の幸せ。
そんなイメージボードから導き出した三つめの "アイ" 。
それは「あいの風」です。
古くは万葉集にもある由緒正しき "春の季語" で、「安由乃可是」と書き「あゆのかぜ」と読みます。
現代では、地域によって "あいの風、あゆの風、あえの風" とも呼ばれます。
漢字を当てれば "東風、鮎風、藍風" が多いようです。
韻で汲みとると "合い、間(あいさ)、肖(あやか)る" になろうかと思います。
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もしかしたら、日本海側(北海道から山陰までの沿岸部や港町)にお住まいの方は聞き覚えがあるかもしれません。
春から夏の間に、ゆるりと吹き寄せる、北寄り~東寄りの涼しい季節風です。
謂われをかいつまんで言うと、北海道を出港する北前船(帆船)がこの風を利用しました。
京都や博多に向かう際に "追い手に帆かける風=順風" です。
この海風の特徴は、新潟県あたりまでは北から南へと吹きますが、ちょうど佐渡島あたりから北東から徐々に東寄りに向きを変えることです。
佐渡島がターニングポイントになっているんですね。
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あいの風には二つの意味合いがあります。
一つは、海から幸せを運ぶ好ましい風(穏やかな風は漁には好都合)。
もう一つは、北前船のノボリの順風(京に向かうには上出来)。
この二つが定説です。
そう思うと、前述したイメージボードとぴたりと重なるように思うのです。
爽やかな青春群像劇は、才気煥発。
遠くに感じた友だちとの絆を結びつけるスプリングボード。
AIネットワークは、天壌無窮の可能性。
時空と次元を超えた価値観に触れたり、未来社会を予感したり。
人の幸せに肖(あやか)りたいアイの歌声もにぎやかに響いて・・・。
"肖る" は、似ていること、幸せをいただくこと、相乗りすることですので、アイの歌声と "あいのかぜ" はピッタリ符合するんですね。
吉浦監督が吹かせるAIの新しい風景です。
一度、ご覧になってみてはいかがでしょうか。
{/netabare}