キャポックちゃん さんの感想・評価
3.5
物語 : 4.0
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
不条理世界に適応した平穏な日常
【総合評価:☆☆☆】
学校ごと異世界に漂流した中学生36人のサバイバルを描いたアニメだが、元ネタとなる『漂流教室』(第1話で言及)とも『十五少年漂流記』(原題「二年間の休暇」が最終話のタイトルに)とも、テイストが全く異なる。クーデターや要人誘拐が起きているのにスイーツの話題ばかりが盛り上がるアニメ『ACCA13区監察課』の夏目真悟(監督・脚本)らしい、オフビートで象徴性の強い異色作である。
何と言っても、異世界の設定が独特。第3話で天の声が「不条理が支配する世界」と語ったように、現実と多くの共通項を持ちつつも、ひどくいびつな世界である。ネット通販の荷物をアニメ的デフォルメのないリアルな猫が運んできたり、誰も気がつかないうちに目立たない生徒が真っ黒な像に変貌していたり。いちばん不気味だったのは、第10話でパーティ会場の大皿に、なぜか殻のままの黒ウニが山盛りになっていたこと。モンスターの襲来などよりずっと怖かった。
{netabare} 回を重ねるにつれて、こうした異常さをもたらす原因が、個々の生徒(あるいは他の動物)に備わった超能力にあるらしいとわかってくる。ただし、この超能力は、SFやファンタジーに描かれる馴染みのものとは微妙に異なる。例えば、「リバース」は世界を元の状態にリセットする能力だが、その持ち主はなぜかコピーされて二人になっており、同時に能力を発揮するので結局何も変わらない。どんな泥水でもおいしく飲めるなんて、何と無意味な超能力があるのかと思っていると、第7話で住民が巨大なミミズや芋虫を美味しそうに食べており、ゾクリとさせられる。{/netabare}
興味深いのは、条理なき異世界なのに、ルールだけは厳格に定められていること。多くの中学生は、このルールに従って安定した日常を送ろうとする。「無償で手に入れたものは青い炎を上げて焼失する」というルールのある世界では、スマホ上でやりとりできる仮想通貨で擬似的な売買が行われる。ルールさえ守っていれば、生活に困ることはない。アニメで描かれるのは、そんな不条理世界に適応した日常である。
こうした異世界の有り様は、「現実」と呼ばれる世界とどこか似通っている。現実の中学生も、ルールに従って学校に通う限り、周囲が食事や住む家を用意してくれる。どちらの世界も、生きる上で不都合はないものの、どうにも息苦しい。作中、飛べない鳥の姿が何度も挿入されるが、それが現実にも異世界にも同じように現れるのは、何を暗示しているのだろうか?
かなり難解な上、登場人物が多く感情移入しにくいにもかかわらず、妙な魅力があり、独り静かに繰り返し見たくなる。オープニングがなく、エンディングでは字幕に重なって銀杏BOYZの歌が流れるだけだが、それがまた作品にフィットして快い。