芝生まじりの丘 さんの感想・評価
3.0
物語 : 3.0
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.0
状態:途中で断念した
アニメとしてよくできていて驚いた。
いわゆる今日のなろう系異世界転生アニメのテンプレとしてどんなものか知りたくて2話まで視聴、多分以降を視聴することはない。
小説家になろうで昔途中まで読んだことがあった。
小説家になろうの小説作品は2018年ごろから多少読んだことがあり、いわゆる異世界転生系というのもいくつか読んだことがある。Youtube等の動画コンテンツではアマチュアなりに独自の文化があったりしてコンテンツとして面白い物が多いだけに、Web小説という形態には期待もあったのだが、正直Web小説で本当に面白い小説を見つけるのは難しいというのが自分の感想。
「なろう系」という単語がぴったりハマるくらいに独自の文化が醸成されていて、戦隊ヒーローものとか時代劇みたいにというかそれ以上にテンプレが確立されている世界がある。バトルファンタジー系、現代知識とか工作スキルで無双系、悪役令嬢の宮廷での権謀術数ものなどジャンルはいくつかあるが、ジャンルの中の作品同士は驚くほど似通ったものが多い。
ハイファンタジー以外のジャンルの作品とか、その傾向と離れた作品ももちろんあるが正直出版作品の劣化版ばかりでオリジナリティと面白さを持っている作品は希少だ。どうせ質の低いものなら脳の負荷の少ないことを最適化できていて既存の小説と差別化可能なハイファンタジージャンルが流行るのは頷ける。
で、ハイファンタジー系なろう小説だが、これはB級青少年漫画と同じように次々と出来事が起き、レベルアップのインフレが続くので続きを読む気にはさせられるのだが、内容はゲームや他の作品で見たような展開に終始していて、全体としてのテーマだとか作者の見せたい独自の世界、価値観といったものはまったく存在しない。部分としては見れるのだが、結局何が言いたかったんだ?状態になる。ただ女を所有すること、他者から勝利すること、計画し、計画に基づいて行動し、成果をだすこと、他者に敬われること、成長すること、といった人間の本能的な欲求を延々と叶え続けることがこれらの作品の根源であり、あまりにもそれがあからさまだ。ライトノベル作品でももっと上品だったろう。エンターテインメントの魅力にはストーリー上のどんでん返しとか、斬新な社会設定とか、全体の構成美とか、色々あるが、そう言った点で勝負している作品の絶対数が少ない。
特に序盤にかろうじて存在するオリジナリティは物語が進むにつれ使い潰され、作品としての締まりは、話があっちへフラフラこっちへフラフラして脈絡もなく、どこに向かっているのかも判然としないものとなる。思考的負荷は低く、短い視野で見ると先を読ませるような展開はあるのだが、ある程度読み進めてから全体を俯瞰すると、最後まで読む必要性が全く見出せなくなる。
いくら無料でも情報量の多い今日の社会で、これだけ冗長で中身のないものを読む時間は流石に勿体なさすぎると理解する。
これは自分が「作品は完結して全体で評価するもの」という考えを持っていてそもそも長大な漫画作品とかが苦手なのも理由である。
加えて転生モノは「現代社会で負け犬だったが、それは本人ではなくて周囲の状況が不幸だったからだ。そんな自分でも望み通りの異世界についたらやりたい放題ができた」という考えを根底に持っていて、その欲求に素直すぎることを恥ずかしいとも思わせないのだ。転生モノはシンデレラストーリーと同じとも言われるが、シンデレラは「本当は美貌と良心を持っているのに周囲の不当な迫害を受けていた人間が報われる」という話だから許されるのだ。転生モノは「主人公は遅れているか、凡庸で、かつ異世界に転生したからといって人間的に成長もしていないけれど、多くの人に崇められていく」という話だ。これを見て勝ち得る快楽はあまりに虚しく感じられる。
いくつか他のなろう系転生の作品を読んでから「無職転生」とか「転生したらスライム」とか「蜘蛛だった」も有名なので何か独自性があるのだろうと読んだのだが、これらの作品は特に欲求に対して他の作品よりむしろかなり短絡的で陳腐なものだった(この3作品の中ではそれでも無職転生はマシな部類だろうが)。
まあそれは後続作品が徹底的にこれらの作品のオリジナリティを模倣し尽くしているからと言うのもあるかもしれない。幼少からの成長から描いているのが斬新だという意見があるが、キャラビルドで魔法やスキル開発のチートをする展開は昨今のなろう系では多く踏襲され尽くされている。
無職転生はアニメの一部に相当するあたりのエピソードは{netabare}学園編が始まると思ったら急に転移させられて魔界編みたいなのが始まってる部分に意外性があったりして{/netabare}悪くないのだが正直、(これは多分2部以降のネタバレ){netabare}あまりに主人公に都合の良すぎる一夫多妻制で美女と性行三昧と妄想的恋模様{/netabare}が続くあたりで冗長さとか以前にちょっと流石に恥ずかしくて見ていられなくなった。
それでアニメの方は見る気なかったんだけど最近異世界転生モノ増えてきたのでなろう系テンプレとして試しに見てみた。
正直全く期待してなかったので1話を見始めて出来の良さに驚いた。作画が良い、というところもあるけれど、Web小説界隈では著しく陳腐化された設定が、アニメではまだ斬新さを持っていると感じた。考えてみたら王道の中世RPG世界を舞台とした剣と魔法の王道冒険譚というジャンルがアニメ界隈には長らく空白だったのだ。単に中世RPG世界を描き、現代的な小道具を演出でスパイスに加えるだけで、なんだか斬新なアニメに見えてくる。剣と魔法の使える世界、という夢物語を夢見せてくれること自体は古今共通する人間の夢であり、それを映像で改めて描いてくれるのは良いことだと思う。アニメだと、映像で遊べば原始的なストーリーでも心情に訴えることができるし、設定が緩い分演出の自由度は高まる、素朴な転生なろう系とアニメは案外相性が良いのかもしれない。
まあどんなアニメも序盤が一番面白くて力が入っているというのはありがちだしSAAOも序盤は面白いと思ったので、まあ多分最後までみたらつまらないって思うんだろうな。
ただ、アニメの世界も魔法少女!、バトルロワイヤル!、刑事サスペンス!とか随分マンネリズムに侵されているので新しい価値観を与える上ではなろう系も意味があるんじゃないかなと思う。