蒼い✨️ さんの感想・評価
2.9
物語 : 3.5
作画 : 2.5
声優 : 4.0
音楽 : 2.0
キャラ : 2.5
状態:観終わった
社会が違えば、価値観も変わる。
【概要】
アニメーション制作:Studio Dadashow
日本では2017年9月30日に公開された92分間の劇場版アニメ。
監督は、ヨン・サンホ。
【あらすじ】
夕暮れのソウル駅の外で一人の老人が首から血を流しながら徘徊していた。
老人を気にかけて声をかけようとする男たちもいたが、
近づいて悪臭から老人がホームレスだとわかると、
男たちはそのホームレス老人を見下す言葉を発して放置して去っていった。
通りすがりの中年男が、怪我をして息も絶え絶えで寝そべってる老人を見つけると、
助けようと奔走するのだが、医療施設では病床が空いてなく、
看護師は話を聞いて対処してくれたのだが、
帰宅を促された健康そうなのにベッドを占拠しているガラの悪い男たちに脅されて、
中年男は、屈してしまうのだった。
駅の職員(警察?)は助けてくれずに、老人を連れての退去を命じてくる。
中年男が鎮痛剤と栄養ドリンクを買って戻ると老人は息絶えていた。
中年男が駅の職員(警察?)の詰所に泣きながら、
「お前らが相手にしなかったせいだ!」
と詰め寄ると、職員(?)たちが遺体のある現場に確認しに行ったのだが、
血の跡だけで老人の遺体はどこにもなかった。イタズラだとおもった職員(?)は、
中年男に、「迷惑なホームレスだ!」と吐き捨てていった。
同じ頃、元風俗嬢のヘソンは、同棲している恋人でヒモのキウンが、
自分は働かないうえに売春サイトにヘソンの写真を勝手にアップロードして、
恋人の身体を売った稼ぎを生活費にしようとしていたことに怒り、
キウンが以前にも何度も同じことをしたことで喧嘩状態になり別々に行動していた。
そして、売春サイトでヘソンの写真を見つけた男から、
ヘソンの父親と思しき中年男性のソッキュに連絡が入る。
ソッキュはヘソンを連れ戻すべく客を装って直接会って、キウンを問い詰める。
その頃、重大な異変が起きていた。先程の絶命した老人などがゾンビ化して、
人を襲い食べている。噛まれた人間もまたゾンビ化してゾンビの数が急激に増大。
恐怖でゾンビから逃げる市民。
警察や軍隊はそれを暴動とみなして逃げる市民を鎮圧するために攻撃。
ソウルの混乱は拡大の一途をたどっていた。
【感想】
人間の情愛や人を思う慈しむ心、世代を超えた心のつながりを、
しぐさや目線・表情、切り取った背景などなどで極限までに描ききった名作が、
『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』であるならば、
こちらは、ヨン・サンホ監督がソウル駅でのホームレス老人に関する実体験を元に、
社会の格差問題や貧困や差別、荒みきった人の心の醜さを描いた社会派?作品。
こちらでの表情や仕草、躁鬱激しい台詞回しや会話のテンポなどが、
日本産アニメでは見られない代物ということで新鮮ではありました。
映像の雰囲気は「日本沈没2020」がこれに酷似しているのですが、
日本人の物語を無理やり海外アニメの書式で同一視すれば、
違和感を得た視聴者から日本人をバカにするな!と反発食らうのは、あり得る話。
ヒロインのヘソンがパンツを見せまくってるのですが、
それを見て喜ぶ視聴者はないんだろうなと、
萌えなんて必要ない!と言わんばかりの作画で、
某国社会の下層に住まう人々の行き詰まった現実と悲哀を見せつけているところは、
ヨン・サンホ監督が今敏監督の影響を大きく受けていそうですね。
だいたいがゾンビ映画の定番展開のオンパレードなのですが、
善人ほど報われず、仏心を出して人助けをすれば自分が犠牲になり、
たまに優しい人もいますが、出てくる人間は身勝手で他人に冷たいロクデナシが殆ど。
しかしながら、不快感を覚えずに露悪を娯楽として鑑賞できたのは、
この作品の登場人物の誰にも彼にも端っから善意や人間性に期待してなかったから。
外国を舞台にした話で、日本人を毀損されてるわけではない、
との安心感が自分の心のどこかであったのでしょうね。
物語の最後に、叙述トリックを用いたどんでん返しで酷いエンディングを迎えるのですが、
まあ、あの国ならこうなるよね?と自分に先入観があるためか納得して、
終始、ブラックなコメディとして楽しめました。
ゾンビ要素は必要あったっけ?と思わないでもないですが、
監督が祖国に抱いた、どうしようもない現実や閉塞感に対する怒りとして、
その社会をぶっ壊すカタルシスとしての、ゾンビたちによる公権力や富裕層への復讐。
それがヨン・サンホ監督がこのアニメで描きたいことだったのでしょうね。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。