ナルユキ さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
観る作品ではなく聴く作品
だと思われる。「アニメなのに何言ってんだ?」と思われるかも知れないが、ここまで声優の声の力、そして言葉の“韻”を活かした作品は他に無く、故に本来のクオリティーに見合わず本作の知名度は未だに高い。
制作のシャフトさんには申し訳ないが聴いて楽しい作品であって映像は添え物に感じた。只それはシャフトさん自身もわかっているようで、映像を観れば遊んでいるかのような、はたまた実験しているかのような様々な試み───現在で言う「シャフ度」等の1アニメ制作会社としては色の濃い演出をふんだんに使っている。そして整合性は破綻しっぱなしだ。
そんな自由奔放な映像を楽しめる人は楽しんで、そうでない人も音や声を聞くだけで話を理解することができる、非常に合理的な作品である。
【ココがすごい!:西尾維新の言葉遊びが生み出した新たなる「怪異」】
「新たなる」と言っても本作はもう10年以上前になるが……(汗 少なくとも劇中に登場する「怪異」は『ゲゲゲの鬼太郎』や『夏目友人帳』では決して拝むことのできない、原作者にして小説家・西尾維新氏が生み出したオリジナル妖怪だ。
{netabare}トップバッターは「想いし神」であり「重いしがらみ」でもある「おもし蟹」。韻を踏むことで3つの特性を持ちうる蟹はメインヒロインの1人、戦場ヶ原ひたぎ(せんじょうがはら ー )の体重を僅か5kgにまで減らしてしまう。それは彼女のある“想い”を取り去ったから“重い”も一緒に取り払われてしまったという一種の言葉遊びが招いた副作用である。彼女が重さを取り戻すには、おもし蟹に押しつけてしまった辛い想い出に再び向き合わなくてはならない────というのが第1・2話の「ひたぎクラブ」という話だ。{/netabare}
本作はこんな一風変わった怪異と少女たちを5つずつ取り扱ったオムニバス風味な作品である。主人公は阿良々木暦(あららぎ こよみ)で一貫しているが、その彼が毎度、彼女を取っ替え引っ替えしてるかのようにメインヒロインが規則的に切り替わり、さらにOPも切り替わる。視聴者の中ではひたぎクラブが刺さらなくても「まよいマイマイ」が、まよいマイマイが刺さらなくても「するがモンキー」が本作の象徴として残っていくのかも知れない。
【ココが面白い:会話劇】
この作品は主に“会話”で構成されている。まるで原作小説をそのまま読んでいるかのような主人公による語りの多さは本作の特徴の1つでもある。
そして主人公・阿良々木とメインヒロインの長くまどろっこしい台詞の応酬はそんじょそこらの朗読会では聴けやしない。
「そこまでは言ってないんだが…」
「顔に書いてある」
「いや書いてない」
「そう言うだろうと思って予め書いておいたわ」
「そんな手回しがあり得るか!」
このようなしつこいくらいの小ボケと揚げ足取りをヒロインが行い、その都度主人公が切り返す。話が進む頃には大分、尺を使ってしまっているのが本作の御約束だ。
そこに「素人童貞」の視線のように舐め回すようなカメラアングル、意味ありげな背景や文字・実写などの演出の数々が加わることで、只でさえ癖のある会話劇が観ても癖のある画にもなっている。怪奇モノに合った少し不気味なBGMも加わり、本作ならではの雰囲気づくりがシャフトによって奇しくも成功している。
キャラクターを演じている声優さんたちも実力派ばかりだ、本作は会話劇故にセリフ量が多く、台詞自体も長い。他作品より明らかに面倒くさい仕様に声優は感情を込めて命を吹き込まなければならない。だからこそ神谷浩史や斎藤千和、加藤英美里に沢城みゆき、そして花澤香菜と堀江由衣という豪華声優陣が各キャラを演じることによりキャラクターの魅力がより際立っている。
【キャラクター評価】
阿良々木暦
様々なヒロインとその怪異にエンカウントする本作の主人公。物語シリーズは「阿良々木」と「ヒロイン」と「怪異」の3つの要素で構成されているので、喋りがウザかろうがハーレムしてるのがムカつこうが無くてはならない存在だ(笑)
総合的には一般人だが、吸血鬼ルーツの再生能力を保持している。その能力で時に怪異と身体を張って対峙することがあり、そこが本作の数少ないアクションシーンとなる。
再生能力があるからこそ彼の身体は容赦なくグチャグチャにされてしまい、その鮮烈さ極まる戦闘描写は拙いながらも魅力を感じさせる。そのノウハウが後作『魔法少女まどか☆マギカ』の戦闘シーン等にも活かされているのかも知れない。
戦場ヶ原ひたぎ
第1・2話「ひたぎクラブ」のメインヒロイン。
出番は少ないように思われたが、後の話で阿良々木と恋人同士となり「するがモンキー」や「つばさキャット」の重要な要素にもなる。
毒舌家の反面、デレる時は本当に可愛くデレてくれるしスタイルも良い。「阿良々木には勿体ない!」と思うかもしれないが、このカップルの会話こそ本作最大の特徴であり見所、いや“聞き所”であり面白い。いくらでもその痴話に尺を使ってくださいという気分にさせてくれる。
八九寺真宵(はちくじ まよい)
第3~5話「まよいマイマイ」のメインヒロイン。会話の属性は“言い間違い”であり、そこに阿良々木がツッコみ続けることで本筋が蛇行してしまうのだが、面白いので赦す。
{netabare}「まよいマイマイ」は、ぶっちゃけ迷子の彼女を家に送り届けるだけの話なのだが、実は怪異に困っているのではなく彼女こそ怪異「蝸牛(まよいうし)」であるというどんでん返しにはやられてしまった。ひたぎさん、見えてるフリ上手すぎッスよ(笑) {/netabare}
神原駿河(かんばる するが)
第6~8話「するがモンキー」のメインヒロイン。ヒロインの中では唯一、阿良々木を買い被る形で会話する希有な存在である。
{netabare}左手が願いを歪んだ形で叶える「猿の手」と同化しているとされていたが、これもまた実は宿主の心の奥底にある願いを忠実に叶えようとする「悪魔の腕」だった──というどんでん返しが続いており面白い。そしてそれ以上に「レズビアンでひたぎが好き」というカミングアウト、そこから発展する三角関係のような七面倒くさい状況をいかに収めるかが気になる話だった。 {/netabare}
千石撫子(せんごく なでこ)
第9・10話「なでこスネイク」のメインヒロイン。真宵といい、ロリ枠は話がシンプルで軽めな印象(本人は大変な目に遭ってるが)。
{netabare}しかし伏兵ならぬ“伏蛇”が怪異の解決を困難にさせる展開にハラハラし、癖の強いヒロインたちの中で撫子だけは癖のない可愛さを持つ、〈物語〉シリーズ初心者がハマる切欠になりやすいストーリーだ。{/netabare}
そして撫子用OP「恋愛サーキュレーション」のあざとい仕草が1周で2回しか観れないのが非常に口惜しい。
羽川翼
第11~15話「つばさキャット」のメインヒロイン。委員長であり外見・性格も委員長という感じだが、会話の癖の強さは毒舌家のひたぎに並ぶ。ついでにボディも。
彼女の怪異は、そう呼ぶよりは“心の病”というものに近い。{netabare}彼女は阿良々木に恋心を抱いていたが、その彼がひたぎと結ばれることで「障り猫」に侵された狂暴な人格が甦る。
主人格は優しい。2人を祝福し応援しようとする。しかし心の奥底では阿良々木を自分の物にしたいという欲望で渦巻いていた。主人格の出来ないことを猫の人格が発散しようと暴走する。三角関係に加えていかに羽川のストレスを取り除くか。阿良々木の漢の選択の連続に目を見張る。 {/netabare}
【総評】
『化物語』は{netabare}言葉の韻から生み出した「おもし蟹」、蝸牛(かたつむり)の「蝸」をもじりまくった「まよい牛」、見た目からかの有名な猿の手に誤認させる「レイニーデビル」など、視覚的又は聴覚的にアッと言わせる秀逸なオリジナル怪異・妖怪が特徴的。これらを使い{/netabare}ホラーではなく少女の内面にある闇とそれを払おうと奮起する主人公という男女の青春劇を描いた“青春怪異”の代表作だ。
そんな原作の雰囲気とシャフトの癖の強い作風が絶妙にマッチしており、個人的な評価は低めな会社だが、これと『さよなら絶望先生』のアニメ化はシャフトによる大成功作と言っていいだろう。
キャラクターデザインも珍しく注力されており、ニヒルで奥手な阿良々木を誘惑するに相応しい端正な顔立ちに扇情的な肢体を持ったヒロインが5人、各々サービスシーンも多い。
それでも映像が添え物に感じてしまうのは会話劇を中心にしてる関係で動きや場面転換が少ないこと、「齣」や「シャフ度」といった自社の斬新さをアピールするかのような演出をくどいくらいに入れる所など、シャフトが現在も引き摺る悪癖が本作にも如実に表れてしまっているからである。たまたま上手くいったからいいものの本来、原作付きのアニメにあそこまで思いつきの演出を入れるのはよろしくない。
やはり1番の武器は豪華声優陣による各キャラの演技だ。神谷浩史×女性声優のテンポの良い掛け合い、センス溢れる言葉のチョイスが本当に面白く聞き惚れてしまう。この配役なくして『化物語』の原作再現は叶わなかったと言える。
あらすじだけでは内容がつかめず観始めても癖の強さに顔をしかめるかもしれない。しかし完走した暁には、内面も外面もレベルの高いヒロインたちの中に、きっと貴方のお気に入りとなる彼女が心に住まうことだろう。