蒼い✨️ さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
感動するには、ちょっとね?
【概要】
アニメーション制作:P.A.WORKS
2010年4月2日 - 6月25日に放映された全13話+特別編2話のTVアニメ。
監督は、岸誠二。
【あらすじ】
主人公の音無が目を覚ますと、見知らぬ学校の敷地にいて真夜中だった。
「ようこそ、死んでたまるか戦線へ」
そこにはライフルを構える少女・仲村ゆりがいた。
ゆりの説明によると、ここは死後の世界で何もしなければ神様に消される。
だから、その神様に逆らう武装組織“死んだ世界戦線”が活動しているとのこと。
そして、新たにこの世界に迷い込んだ音無を戦線に勧誘するのだった。
話が荒唐無稽過ぎて信用しなかった音無は無関心に校庭に立ち去ると、
仲村ゆりにライフルで狙われていた、“天使”と呼ばれる少女に話しかけた。
彼女が言うには、
・自分は天使ではなくて生徒会長。
・この世界の人間は全員死んでる。
皆グルになって自分をからかっていると苛立った音無が証明を求めると、
生徒会長は突如右手に剣を出して音無の心臓の位置を突き刺した。
次に音無が目覚めると空は明るく、保健室のベットの上。
血まみれで穴の空いたシャツがあり、確かに刺されたのだが無傷。
実際には肉体は損傷するし苦痛もあるのだが時間が経てば元通り。
本当にここは、既に死んでるから人間がそこから死ぬことがない世界だった。
なりゆきから音無は戦線に入り、授業を受けるなど学園生活を送りながら、
この世界の摂理を司る神の手下だと思われる天使(=生徒会長)を相手に、
戦うことになるのだった。
【感想】
2000年代前半に数多くのアダルトゲームファンを泣かせた、
麻枝准による原作・脚本のオリジナルアニメ。
後に全年齢を対象としたゲームが発売されています。
最新作アニメの「神様になった日」が不評ですが、
過去作のABは、あにこれ基準ですと“泣ける”“笑える”という、
極めて高評価の名作扱いですので観てみました。
戦線のリーダーである仲村ゆりは、
SOS団の団長の涼宮ハルヒのオマージュキャラに見えますし、
(綾波レイとホシノ・ルリ程度の類似性)
“天使”のキャラ付けは長門有希に若干似ている。
他にもガールズバンド要素を入れてみたり、
時代に合わせて過去にやってなかったことを取り入れながら、
ヒット作を生み出したいという意欲が見られますね。
第1話といえば、どんなアニメでも作中でも指折りのクオリティになるのが普通ですが、
このアニメでは原画マン50人以上つぎ込んだのは正気じゃないな…?
ガルデモのライブシーンなどのクオリティを出すのに、
どれだけお金かけてるんだろ?と不安になるレベルですね。
ただ、TVアニメでは原画人数の多さは、
タスク管理が腐ってる証明にしかならない一面があります。
「ああ…間に合わなかったんだな…って察せられるよね…」
初っ端から綱渡り的なPAの制作現場が目に浮かぶようですね。
このアニメは死後の世界の学園を舞台にしたモラトリウムに浸ったギャグまみれの日常。
膨大なおバカなキャラによるワチャワチャとした賑やかさが好きな人は好きでしょうが、
つまらないネタを絶叫とノリツッコミの勢いで押し切ってる気がして、
個人的には全く笑えなかったり。
特に、目的達成のためにの生徒会長に全教科0点を取らせるための答案すり替え話。
体当たりコントというのでしょうか?
「CLANNAD」の春原陽平が大量増殖したような笑いのノリが個人的には凄く苦手。
ていうか自分は麻枝准のギャグで笑ったことが一度もありません。
「神様になった日」の麻雀回で笑える人なら毎回が爆笑の渦でしょうけどね。
更には特別篇の 「Hell's Kitchen」 では死んでも死なない世界とはいえ、
ギャグまじりに人間にガソリンぶっかけて火を点けて粉々になるシーンがあって、
あの事件の影響で自分がセンシティブ過ぎるのかもですが、
死をネタにした不謹慎ギャグの見せ方の一部に、いい気持ちが全くしませんな。
皆でワイワイ無茶苦茶をやっているのが楽しい、所謂雰囲気で笑うものかもですけどね、
そのしょーもないギャグ(主観)と対になってるのが泣けると評判のシリアスパート。
難病、障害、悲劇などで生前に散々を理不尽を舐めさせられた死者たちの物語。
彼ら彼女らの心のドラマが視聴者の心を鷲掴みにした感じですかな。
でも、自分は泣けませんでした。
死者の世界という物語の性質上、成仏がテーマになってますから、
その未練として不幸な人生が不可欠な設定であり、
高校生くらいには理不尽に抗うキャラの心が美しくて心に刺さるのでしょうが、
成人しちゃっているとちょっときつい。
未練を浮き彫りにして自分の心を満足させるという内向きの話になっていまして、
コミュニケーションという点では誰かと誰かの心が触れ合ってこうなったという話が、
麻枝准のシナリオがエロゲ構文から離れてないですね。
主人公の行動の選択が世界を変えるトリガーで、各キャラの不幸はイベント。
例えば、ゆりの生前の家族は不幸を助長するためのイベントキャラでありますし、
別の話では相変わらず美少女を車椅子に乗せて男が介護しているカットがある。
あ、これ?CLANNADで見た話の焼き直しだぞ!などなど、
こうすれば、哀れんで感動するだろういう作為がパターン化していて、
それぞれが提供された情報からふくらませる余地がなかったり、
また既視感で没入できないのですよね。
更には、1クールで全部を片付けるにはコントに尺を取りすぎた上に、
扱う人数が多すぎるために過去も語られないままに、顛末が雑に処理されたキャラが殆ど。
各キャラの人生も感情もシナリオの装置なんですよね。
有名な、「俺が結婚してやんよ!」にしても伏線と呼べるものがなく、
唐突感の強さに、感動するよりは字面の酷さに笑いどころになってしまいました。
他にも、話に決着をつけるために終盤に伏線もなく急展開にしてボスキャラを片付けるなど、
麻枝准はエロゲのシナリオライターとしては通用していても、
TVシリーズをやり遂げるには、ペースの配分が上手くなく粗さが目立ち、
自分の作家性とは別に、脚本家として技術的に学ぶ部分があるのではないか?
11年前の作品に対して言うのもおかしいことですが、そう思いました。
CLANNADとの違いはシナリオの質ではなくて、
沢山のキャラクターの話を話数かけて全部詰め込みきれたかどうかですけどね。
泣けるアニメと泣けないアニメの違い。
個人的には、登場人物を理解して自分の人生と重ねて共感できる部分があると泣けます。
それが、このアニメでは家族を守れなかった後悔だの普遍的でない悲劇の上に、
その悲劇が見世物となって物語が成り立っていますね。
それでもそれを見世物ではなくて人間の物語として肉付けるのを可能にするのは、
観た者の心に喜怒哀楽のキャラの感情を刻みつける作画芝居の表現力かな。
このアニメに関しては表情などはテンプレの域を出てなかったかと思います。
作中で最も重い話である、音無の死に際を描いた9話にしても、
音無と一緒に電車のトンネル崩落事故に巻き込まれて、
救助を待つ乗客の心の変化を目や表情で丁寧に描いていれば、
話の最後の行動だけでなく心で感動シーンを盛り上げれていたものの、
そこまでの表現技術力が無かったのが残念かなと思いました。
シーンごとに見ると歌や台詞などで感動できるようになっているのですが、
全体で見るとバカとシリアスと振れ幅が両極端で等価でごちゃごちゃしていたり、
また、自分は登場人物が死ぬ物語に忌避感は無いのですがそれも描き方次第であり、
生命の喜びや精神的なつながりを丁寧に描くものを好む傾向がありますので
こちらは個人的には感動作品としてそれほど刺さらないアニメではありました。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。