ナルユキ さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
あぁ^~ボクもお偉いさん殴って田舎に左遷させられたいんじゃぁ^~~
これはいい癒し系。田舎の島を舞台とした、のんびりした空気感と温かい登場人物たちが『のんのんびより』と同じく視聴者の心の内にあるノスタルジーな部分を刺激してくれる。
そんな田舎で暮らすことになったのが小野大輔さん演じる半田清舟(はんだ せいしゅう)。暴力行為で現代版島流しを喰らってしまい、ふてくされていた彼だったが────
【ココが面白い:気難しい書道家と島の住人たちによるスローライフ(1)】
半田という男の厄介さは冒頭からよくわかる。書道家としてのアーティスト気質に他者の批判を許さない傲慢な性格。目上の者に手を上げてしまった精神的未熟者が、それらを全く変える気もなく長崎県は五島に越してくる。
なぜ自分がこの島に送られたのかわからない。なぜ自分の字があそこまで酷評されなければならなかったのか、わからない。
そんな苛立ちを募らせる主人公の態度が、果たして単なる田舎暮らしで軟化するのか。不穏に近い心境で物語の口火が切られる。
しかし安心してほしい。この島には優秀なセラピストがいる。それは“悪ガキ”だ。
小学1年生の少女・琴石なる(こといし - )は典型的な「田舎のパワフルガール」であり、気難しい半田の心の壁、広く取られたパーソナルスペースを一切無視して彼との交流に先陣を切っていく特攻持ちである。
「この壁乗り越えんば、なんも見えんぞ?」
半田が憎んでいた館長の酷評を、なるが同じニュアンスで復唱することで初めてスッと受け入れる様が面白い。勿論なるに半田を諌めるつもりは更々なく、都会から来た人と一緒に遊びたいだけだ。そんな幼女の突拍子もない行動が、己の書道に行き詰まる男の背中を上手い具合に押してくれる。田舎の子供は正に天然のセラピストなのだ。
【ココが面白い:気難しい書道家と島の住人たちによるスローライフ(2)】
この作品はジャンル分けするならば「日常系」と呼んで差し支えない。ただし昨今の美少女しか登場しないものとは違う、ある種“本物の日常系”とはこれなんだと説いてくるような、老若男女さまざまな特性を持った大勢のキャラクターで構成されている。そんなキャラクターたちを使った唐突なギャグには大分笑わせてもらった。
{netabare}第1話は勿論、先陣を切ったなるとの交流によるネタが中心なのだがこの作品、若い男女よりもおじさんおばさんの動きがアグレッシブでそちらの方が面白く感じる。例えば2話冒頭では半田への差し入れを渋るヒロシに対して母親が肘鉄をかまし、「先生の世話を焼くことが今の私の生きがいなんだ」と夫の目の前でくどくどと説く。落ち着いて息子をたしなめるべきだろう所をいきなりエルボーという絵面を見せられたら笑わずにはいられない。このくらいの破壊力あるギャグが作中に多く散りばめられている。{/netabare}
そして島の住人は皆、温かい。都会から来た所謂「よそ者」である半田に対して、ぶっきらぼうで訛りのキツい喋り方で“近付いて”くれる。見返りを求めず食べ物を差し入れてくれる所は正に理想の田舎の風景だ。半田も貰いっぱなしではと書道家ならではの仕事や依頼を受けたり、悪ガキたちの遊びに付き添ったりしていく。こうして主人公・半田と田舎の住人たちの繋がりが太くなっていく様は観てて感銘を受ける。
ギャグと田舎の島特有の日常をきっちりと1シーン1シーン丁寧に描いており、制作側の「面白くしよう」という意気込みをしっかり感じ取ることができる。
【ココがすごい!:侮れない子役たちの演技力】
本作の子供キャラクターに命を吹き込むのは、なんと全員子役。大胆なキャスティングである。なるを演じているのも当時9歳の原涼子ちゃんであり、この作品に欠かせない“プライドの高い主人公”に対する“無邪気な少女”という役を素晴らしい演技で演じてくれた。
長崎弁はよく知らないが方言も喋り慣れてる感じを受ける。本作の声優陣では山本美和役の古木のぞみさんが五島出身ということで方言の監修を兼ねたらしい。一声優にして八面六臂の大活躍である(笑)
子供特有の少し耳障りな甲高い声と演技なくしてこの作品の雰囲気は生まれなかっただろう。特に終盤の電話のシーンは寂しそうな子供の声を子供が演ずる、単純な無垢さでも淡々と喋っているのでもないきっちりとした9歳の子供の演技力を感じ取れる。
【キャラクター評価】
半田清舟
本作はこの書道家の青年の更生と成長の物語でもある。始めは真面目な字、型にはまった字を書き続け、「基本に忠実で何が悪い」と開き直っていた。そんなプライドの高さと相まってメンタルは弱く、すぐ落ち込むので本作の数少ないシリアス担当でもある。
そんな彼がなるたち島の住人と島の自然に触れることで改心し、冒頭の「楽」のようなアート書道に目覚めていく。その後の字の迫力は、多くが書道の素人である私たち視聴者にもハッキリと伝わってくる凄い字だ。「星」や「石垣」はこんな文章では絶対に凄みが伝わらないので是非とも観てほしい。
【総評】
日常コメディであり、主人公の成長物語でもある本作。田舎という舞台を最大限に活かし、未熟者であった主人公・半田の成長を少しずつ描いて書道家としても人格者としても完成形に近づけていっている。そんな半田の回りに集う、田舎特有の鬱陶しさと温かさ、そしてギャグセンスが混在したキャラクターたちには魅力が溢れており、そんなキャラクターたちと接するからこそ半田の心情描写が強調されてより魅力的に映る。小野大輔さんの演技と原作の良さがマッチした愛すべき主人公に仕上がった。
半田の成長という形で日常系である本作は徐々に「ストーリー」が進んでいく。日常系は変わらない日常に尊さを見出だすものだが、それとは別に少しずつ変換していく日常もまた趣があることをこの作品で知ることができるだろう。
{netabare}そんなストーリー展開がある本作の終盤。半田は殴ってしまった館長に謝罪するために東京へ帰る。未熟者だった彼が館長という“老人”を見て気遣うシーンが最も彼の成長を感じ取ることができる。そして再び五島に赴くかどうか迷っていた時の五島からの電話のシーン……感動するしかない!! 半田は五島の日常を再び選び、島に“帰ってくる”ことで本作は終幕となる。{/netabare}
完結してるとはいえない、だが2期が無くても問題のないストーリーの締め方は1つの作品として素晴らしい点睛といえるだろう。最終話の最後の1シーンまで頬が綻ぶ。そんな作品である。
これを「男が主人公だから」と敬遠するのは非常によろしくない(かつての私だ笑)。老若男女様々なキャラクターが彩る日常は美少女だらけの日常とはまた違った尊さがあるし、なんなら半田も可愛いところがある(笑)そして半田のように何かに行き詰まりを感じる人ほどその共感力が凄まじいものになる筈だ。そして行き詰まって誰かに先を越されそうになった時、このアニメを観てれば心に余裕をもって相手にこう言うことができるようになる。
「お先にどうぞ」