栞織 さんの感想・評価
3.3
物語 : 3.0
作画 : 4.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
匿名性と自分らしさ
最近はやりのVtuberなどはまったく知らない年寄りなので、ぱっと見た感想です。
まずネットでの匿名性がテーマになっていると思いました。誰もがアバターを持っている時代です。それが暴かれても、ネット上で無事にいられる。このあたりの描写は、「おまえも顔出しのアイドルになってみろ」みたいなメッセージに取れて、今ひとつ納得できませんでした。あのオチ以外になかったのかと。しかしあれ以上に事件を解決する手段は、私も思いつきませんので、仕方がないのだと思います。しかし後味が悪いシーンでした。そう思いつつも、感動的な音楽とカット割りで涙は出ましたです。それはベルと竜が虚空で抱き合う場面でもそうでしたね。映像の力だと思います。しかしそれは、情に流された涙で、自分で論理的に納得して流れたものではなかったです。そういう、古臭い「情」に訴える映画だったと思います。
ひとつひっかかった事は、はじめに鈴がベルのアバターを作った時に、ルカの写真を切り抜いてアバター指定していた事です。要するに、あのベルのアバターは、彼女自身のルカへのコンプレックスから作られたものだという事です。最近読んだ本で「純喫茶トルンカ」という作品に、死んだ姉の着ていた服ばかり着て、姉の恋人だった男と会う高校生の話がありました。その子はふられるわけですが、やはり忍のようなボーイフレンドからたしなめられて、我に返るという話でした。何かこの映画とそっくりだと思いました。最近読んだ新書で「無理ゲー社会」という本で、現代人は「自分らしく生きられない」という事が呪縛になっているという話がありました。自分らしさ、という文句自体がすでに私には古い感じがするのですが、一面の真理だと思うし、この映画も底流にそれがあります。要するに最後に忍から鈴がおまえらしくなった、というようなセリフを言われるのは、まさにその意味なのです。
しかし言っていいでしょうか、非常にその考え方が表面的すぎて、深く描かれていないように思いました。全体的に洋画風になっていて、しかし深い洋画のいい部分がなくて、見終わった後も、いわゆる人情話をひとつ聞かせてもらったみたいな感想しか出てこなかったです。もちろん家庭内暴力については、深刻な問題で、この映画で取り上げられたのはいい事だと思います。しかし、途中までミスリードで竜は忍の事ではないかという予想は見事に裏切られたし、まったくの見ず知らずの兄弟を助ける、いや助けになっていないかもしれない場面で終わるのは、はっきり言って納得ができなかったです。ネットはそれほど遠くの人間と結び付けられるという事を示したかったのかもしれせんが、作劇上盛り上がりに欠けてしまいました。
苦言ばかり呈しましたが、Uの世界は魅力的だったし、アニメート的にいろんな作風の作画が見られたのは楽しかったです。ベルの顔も動いていたら、それほどぎょっとしない顔に思いました。停まった絵では魚みたいな顔だと思ったのですが。あの顔をヒロインにした勇気は、ほめられていい事かもしれません。劇中の音楽については非常によかったです。