どどる さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
家に帰るまでが修学旅行です
装甲娘戦記は、いまそこに迫る危機、女の子たちのゆるふわ生活、この2つが並行して提示されている貴重な、優れた作品です。
世界がピンチだからって、そこで生活している人間が緊迫感を持ち続けているわけがないリアリティ。
装甲娘戦記はフィクションからフィクションへの再生産だけでなく、現実からの抽出を行おうとしているように思えます。
世界と5人娘が連動しないこともそうですし(世界の情勢と連動する人間など本当はほとんどいない)、元気印のユイが場所を変えればみそっかすなのもそのように思えます。
とはいえ、前半に持っていた感想は、「人がけっこう死んでるのに気楽なノリで、良い感じだなあ」くらいでした。
恥ずかしながら、3話でキョウカが人の直接的死因になることを速断するシーンでも、なんか良いなあくらいのフワっとした感覚でした。
その瞬間の葛藤、決定的な選択をした理由。
それを必ずしも描写しないアニメであることには、気がついていませんでした。
もうこの世界に持っていかれてしまった、というのは7話です。
{netabare}
スズノが、「わたしは皆と仲良くなりたいと思っていない」という選択を提示する回。
これは、本当に特筆するべき回です。
女の子5人組の1人だけが「機能集団で良い。仲良くなりたいとは思っていない」という発言をすること。
また、作品自体は弛緩したふんいきを持っていること。
直近でこれに近い空気を持っていたアニメは、ゆるキャン△でしょうか。
仲良しグループのあの輪に加わりたい、いっぱい仲良くなりたいと、ほとんど皆は思っている。
でも、そういう人間ばかりではない、という当然あって良いリアリティ。
5人組のムードメーカーとなっていたリコが「みんなで仲良くなりたいな」と思っていた感覚が、自分の独善的なルールであったことに、7話終盤で気がつく。
社会的に当然良いことだと思われることが、万人にとってそうではない。
この年でそこに気がつくの頭が良すぎる。
スズノは一般的なアニメなら「仲良くなりたいけど一歩を踏み出せない」という配置のキャラです。
作中で最終的に仲良くはなりますが、基本的態度がなんとか仲良くなりたいと思っている気弱な子でなく、もう人付き合いを割り切ろうとしていたのは、現代的な描写だと思えます。
進学して、就職転職して、もう直に接する人と深い仲になること自体をあきらめること。
ストーリーベースでなく、キャラクターベースで話を考えていなければ、なければなかなか出てこないリアリティです。
{/netabare}
また、この作品を真に名作たらしめたのが最終回。
{netabare}
ラストシーン。
ほとんど唐突に、元いた世界に帰ってきている。
装甲娘戦記の全編を貫くリアリズムが、最後になってもっとも強力に発揮された瞬間だと言えます。
エンディングが流れた部分で時空の狭間を描くことも出来たはずです。
時空の流れに飲まれ、離れ離れになっていく5人がお互いの名前を叫ぶ。みんなー!と叫んで次の瞬間、ラストシーン。
このようなことは、あえて描写されません。
もはや、リコが知りえないことは、視聴者に対しても公開されません。
元いた世界に帰ってきた? あの時空震で? みんなは? あっちの世界は?
リコが当然思っているはずのことを、視聴者も追って考えるようになっています。
セリフがないのに、キャラクターが何を考えているか我がことのように分かる瞬間。これはアニメのカタルシスの最たるものの一つでしょう。
最後にリコの知ってる情報以外をシャットダウンすること、次元の狭間での別れを描かなかったことは完全に連動した演出になっているため、意図的なもののはずです。
別れだった日を、その瞬間には別れだと認識できない。
それを時間が経ってから、あの時だったと思い返す。
普遍的なリアリズムです。
{/netabare}
ただ問題点としては、最初に5人一気に出てくるので個人を認識しづらかったり、3話でキョウカがトドメを速断するシーンも普通でない感はビシビシ来てましたが、まだ具体的なエピソードがないのでインパクトをスルーしてしまう可能性はありそうです。
さらにパターンを外してくるため、パターン芸を楽しむタイプの人は乗りにくいかもしれません。
タイトルやデザインからはパターン芸の空気が濃厚なだけに、ここのすり合わせミスはありそうです
あと第10話は要らんかったかも。
制作の事情だけはひしひしと感じたのと、それ以降につながるので無駄ではないんですが、女の子要素が消えてたのは良くない。
あとついでに問題となるユイ。
{netabare}
ユイの問題は解決しませんでした。
私は、意図的のような気がします。
理由の1つは、ユイの持つ悩みがあまりに普遍的な、アニメや映画だけでなく、児童文学などでもひんぱんに扱われるものだからです。
現実にうまく馴染めなかった子が、異世界に飛ばされるとそこでは大活躍! でも、最後には現実に戻らなければならない…。
あまりに多く描写されてきたことで、これには決まったパターンがあります。
荒々しい異世界で生き抜いた主人公は、現実世界でも図太く生きていける自信を身に着けた。
きっと未来は明るいはずだ、というもの。
最終回の爽やかさは、少なくとも私をその方向へ誘導することに成功しました。
{/netabare}