esm24722 さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
1回目より2回目、2回目より3回目、楽しみがいがある傑作
正直アニメ映画では5本の指に入る傑作です。
私は同監督の攻殻機動隊SACシリーズよりも身の丈に合った作品として、より自然でスムーズな表現の発露という点で高く評価します。特殊部隊や正義の設定が無いので無駄に格好つけたり構えた雰囲気が無く、クールに見える作品ではありませんが、とても地に足の着いた落ち着いた作風に感じます。
評価点としてまず圧倒的に冴えたアニメーション表現があります。
人物の所作のアニメーション、二次元作画の頂点に近いレベルがここにあります。どう考えても並大抵の作品が到達できる域を超えてアニメーションが動きます。あまりにも上手いのである種の色気を帯びていて、恍惚とした気分になれるとしたらそれはもう立派な作オタでありましょうか。体重移動等すごいので必見です。作画だけでなく演出意図を最後まで隙なく作り込む執念さは流石職人集団のアニメーションという感じで恐れ入ります。具体的な話はというと、ハッキリ言って全ての画面がパーフェクトに近いので物語を理解すればするほど凄みが理解できます。
評価点2つ目
素晴らしい物語です。とても上手い筋運びで圧巻です。これ程複雑な物語を駆動させ、最後まで完璧にこぎつける才能はアニメ業界の中でも屈指の才能です。あまりに上手過ぎて舌を巻きます。この物語は寓話であり、ミステリアスな探偵ものであり、家族愛の話であり、そこに収まらない社会全体を巻き込む大きな重たい話に繋がるこの連結力、構成力が異常に高いです。読解力に不安がない人ならば、もしくは、サインを読み取ることに慣れてる人ならば、各パートで展開されては回収され、連結されていくヒッチコックの手法の手練れだと気付くでしょう。これをアニメで仕掛けるのが本当に凄い。大変過ぎる工数が容易に想像できます。二項対立に終わらない見事な決着の仕方、自然な成り行きも評価が高いです。とても感動的で、納得感があります。
評価点3つ目
キャラクターの素晴らしさ。脇役、主役とあらゆる年齢層、立場の人間が登場しますが、アニメらしい抑揚は大分抑えられています。しかしどの人物も人間味があり、柔らかで、深く、丹念に作り込まれていることが分かります。キャラクターデザインの上手さも有ります。絶妙な表情の作画ができます。顔全体、身体全体を柔らかく温かみを持って抜群の演技プランで表現させるのです。モモタロウ側の人物造形が好きですが、自動車会社のおっさん達も中々のおじさんサラリーマンぶりを見せてくれます。
この映画を1度目で完璧に理解するのは無理です。とても丁寧に作り込まれており誘導の仕方も上手いですが、後から見直して理解して楽しむ余地もある程多くのミステリアスな要素を仕掛けてくれているからです。それだけ多くの情報が映画1本に積み込まれているという傑作の証なのです。数回見れば貴方の脳内でもバッチバッチに化学反応が起き、全てのアニメーションに込められた意味に気付くでしょう。見返せば普通に気付けるレベルの難易度なので普通の作品です。しかしこの作品を1見で酷評してしまうのはあまりに愚かな態度なので、普通に見返す分ぐらいには作り込まれているよと書いておきましょう。こういう作り込み方をしている作品は近年あまり無いのでテンパってしまうのは仕方ないでしょう。それぐらい貴重な才能なのです。