蒼い✨️ さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
京アニの魂。
【概要】
アニメーション制作:京都アニメーション
2021年7月7日 - 2021年9月22日に放映された全12話(+未放送1話)のTVアニメ。
原作は、漫画家・クール教信者によって『月刊アクション』で連載中の漫画作品。
監督は、石原立也。シリーズ監督は、武本康弘。
【あらすじ】
ドラゴンのトールは神との戦いで瀕死の状態で人間の世界に落ち延びたところを、
出会った人間の小林さんが酔っ払ったままにトールの身体に突き刺さった神剣を引き抜いたことで、
助けられた恩とともに小林さんへの愛情が芽生えてしまった。
トールは金髪の女性の姿に変身することが出来、メイド好きの小林さんに合わせて、
小林さんのメイドとして一緒に暮らし始めたのだった。
そして、同じくドラゴンであるカンナ、ルコア、ファフニール、エルマらも人間の世界に来て、
ドラゴンたちは人間と交わり学んでいく(=異種間コミュニケーション)。
トールは大好きな小林さんと子供のドラゴンのカンナと楽しい日常を過ごしていのだが、
そこに新しく赤毛の少女に扮したドラゴンが現れて街を破壊しようとしているのに遭遇し、
それを阻止するべくドラゴン同士での戦闘になるのだった。
【感想】
animation(アニメーション)とは、ラテン語で霊魂を意味するanima(アニマ)に由来しており、
生命のない動かないものに命を与えて動かすことを意味する。
(出典元:wikipedia)
京都アニメーションが目指したアニメの形とは、たとえ台詞をすべて無くしたとしても、
豊かな表情や仕草の数々からキャラクターの心情を察することが出来るというもの。
延々と会話だけが続く紙芝居を作りたいのではなくて、
『トムとジェリー』のようなアメリカの古い時代のカートゥンスタイルを、
日本人向けにローカライズしたとしたというべきなのでしょうか。
アニメの精密さは、会社の育成方針でもあるアニメーターひとりひとりが役者の視点をもって、
連続したポージングを構築して出力する京アニプロ養成塾で課せられた訓練の成果。
塾生のブログなどを見るに、絵を描けない者は演出家志望であろうと入社が許可されないのです。
『誓いのフィナーレ』の公式パンフレットで石原立也監督が証言していましたが、
演奏シーンで絵コンテでそこまで細かく指示していないのに、
原画スタッフが描いたレイアウトを見たら後ろの方のキャラがきちんと動いていると言い、
「作打ちで監督から指示があったと思ってた!」
と、『響け!ユーフォニアム』のキャラクターデザインと総作画監督の池田晶子さんの言葉に、
「原画スタッフはみんな真面目なので、こちらから指示してなくても、
自分で考えて動かしてくれますので。ありがたいです。」
と感謝を示した石原監督。
高度な技術を持ったアニメーターのひとりひとりが意識的にキャラ目線で演出仕事をしていて、
相互の強い信頼のうえで作品を作っていく。同時にアニメーターだけでなく、
美術や仕上げなどのエキスパートも地道な仕事をやり甲斐を持ってひとつひとつ積み上げていく。
それは、京アニの技術と美術を惜しみなく注ぎ込んだ、
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の監督である石立太一氏のように、
人気ある作品の監督であろうと例外ではなく、
一人の原画マンとして『メイドラゴンS』に参加していることから、
むしろ、演出家こそ現場で絵を描く作業から自分の引き出しを増やしていけという発想。
学びの精神・協調性・たゆまない努力の連携の結果に生まれるクオリティの高い作品の数々。
京アニの屋台骨であった大ベテランの木上益治氏が、
多くの優れたアニメーターを育成しながらの演出家業と並行して、
原画アニメーターとして机を並べてお手本を見せ続けた精神は、
彼が育てたり共に仕事をした多くの後輩に受け継がれていき、
そのなかでも石立監督や北之原氏ら数々の現役の京アニスタッフが木上氏を倣って講師陣として、
夢を持って京アニの門を叩いて選別され入塾を許された若者たちに技術を継承していくのです。
また、TVアニメでは作画監督6人以上で第二原画も含めて原画マンが30人以上になるという、
制作現場のぐだぐだが常態化している今のアニメ業界で、
作画監督1~2人と原画クレジットが基本5~9人で圧倒的なクオリティを維持し続けているのは、
京アニの人材育成と組織作りと工程のマネージメントが飛び抜けているからに違いないでしょう。
技術は作品を裏切らない。基本の積み上げの上に初めて独自性が許される。
口先だけで能力も仕事にかける実直さも情熱もない人間には仕事を任せられないし社員になれない。
その京アニの精神は、このアニメ作品でも受け継がれていて、
今日培ったことは5年後、10年後、更に先の京アニへと続いていくのです。
それがわかっているからこそファンは作品のみならず京都アニメーションに声援を送り、
全くわからない者は「作画だけでつまらん会社」と、くだらない感想を吐き捨てたりしていますね。
動画よりも言葉や文章の方がはるかに早く理解できるし効率がよいと考えるタイプの人にとって、
動画による丁寧な演出や説明は情報過多だの言って作画による細かい演技が苦痛かもしれませんね。
さて、2期の発表があってから2年弱。制作スタジオが変更も危ぶまれていたところ、
20年12月25日にトール、カンナ、ルコア、エルマキャラクターPV(素材は1期のもの)で
京アニでメイドラゴンの続きが見られることに、twitterでは歓喜の声があがりましたね。
そして翌21年2月23日に雀の鳴き声で始まるラップのリズムに乗せた新規PV公開。
1期に劣らぬ映像。イメージ通りのイルルの声。ショートアニメのミニドラの毎週水曜日配信。
そして、7月7日深夜(8日)の放送開始。
過去作の『日常』の前期OPを思い出させながら立体的に動くダンスOPアニメーション。
何故寄せたかというと、共に仕事をしたアニメーターらに向けたオマージュ的な意味があるかな?
踊るキャラクターたちの表情の優しさが好き。
前年の『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』にて既に充分な賛辞を得ていたものの、
やはりTVシリーズで京アニの新作が再び見られたことに感慨がひとしお。
花や草木にも生命が宿る件の劇場アニメよりも今作は表情も動作もコミカルではありますが、
それは作品のカラーに合わせた結果。『Free!』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』などの、
ドラマ調の作品では控えてきた漫画的な演出が顕著であり作品のTPOに手法を合わせるのが京アニ。
コミカルと言っても、描写のひとつひとつにも手を抜かない。
街ゆく通行人たちの人の流れにここまで動かすか?と驚かされることもあれば、
子供たちの微笑ましい遊び、ドラゴン同士のバトルなど動きのひとつひとつに気合が入ってる。
なかでも子供の背丈や目線では見える世界が大人と違っているのをカンナらの動きで表現している。
それが最も顕著に出たのは、小川太一さんが絵コンテと演出を担当した第10話。
カンナが自分の背丈では高い郵便受けに背伸びして右手を突っ込んで、
手探りで郵便物を確認する動き。子供ならそうするよね!と観察眼に敬服します。
それらはスタッフに子を持つ母親が少なからぬ京アニで、
表現してるものは妄想や全くの絵空事でもなく、
親が子供に持つ愛情をアニメに盛り込んで子供を表現している。
それは武本さんが我が子を観察してカンナを描いた意気を受け継いだスタッフの心の現れですね。
このアニメには心がある。
それと同時にSになって1期と比較すれば、お色気とシリアスとバトルが多めになっていますが、
小林さんが男にされて悶々とするのも1期と比べてシリアス成分が強いのも原作通りですね。
おっぱい大好きなクール教信者の性癖あってのメイドラゴン。
もちろん原作自体が魅力的な作品ではありますが。そのクール教信者が描きたいように描いた、
カンナのパンツやイルルやルコアらの全裸を出している原作と比較すれば、
その原作の特色を消さない程度に見せ方を変えて工夫して、
TV放送での視聴に耐えうるようにアニメではエロを抑えている方。
これ以上変えるなら原作の展開を無かったことにするしかないでしょうね。
コメディと並行してシリアスもバトルも原作由来の作品の持ち味には違いないです。
しかしながらアニメ版で一番印象に残ったのは平和な日常ですね。
6話のカンナと才川の川沿いのウォーキング。7話の小学生だけで図工準備室に忍び込む話。
そして、10話の小林さんとカンナのお出かけで雨に見舞われる話。
(そういや、蜂須賀・黒田・倉本の小学生トリオは原作にはいない?)
どちらかという台詞が長くなりがちであったり、
アブノーマルなネタ的な意味合いのある原作に対して、
心温まる日常を加味することで、
これらのアニオリパートが人間が住むこの世界を素晴らしいものとして描く。
そこに『この世界の片隅に』などで有名なコトリンゴさんの音楽が流れると、しんみりとする。
私が音楽評価を5にしてるのは9割はコトリンゴさんが理由です。
きちんと原作を理解して用いたうえで、原作にない部分も不自然にならずに世界観を深めている。
その結果として、
「小林さんちのメイドラゴンSは私も原作者ながら最高に楽しませて頂きました!
関わった全ての方に感謝!」
と原作者からメッセージを送られ、ファンは満足してメイドラゴンロス状態。
これはもう!3期をやるしかないでしょうね。今回はカンナのあの長編を敢えてやってないですし。
最終回の翌週に放送された1期の未放送話のエンドで書かれた、
「メイドラゴンは終わらない!」の言葉を信じてまた気長に待とうと思いました。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。