「小林さんちのメイドラゴンS(第2期)(TVアニメ動画)」

総合得点
83.9
感想・評価
560
棚に入れた
2108
ランキング
308
★★★★☆ 4.0 (560)
物語
3.8
作画
4.2
声優
4.0
音楽
3.9
キャラ
4.1

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

“1期と同じ”という素晴らしさ

最高峰の世話焼きホームコメディ第2弾。事前に『ミニドラ』を配信しているからか始まりはスピーディかつカオスである。
前期のおさらいや人物紹介も程々に、小林さんちのメイドラゴン・トールが新しく出来たメイド喫茶に殴り込みをかけたり、新しく来たドラゴンとガチ戦闘をしたり、小林さんにアレが生えたり!?etc. 新展開を加えつつもコメディ・ファンタジー・そして『異種間交流』を忘れない、メイドラゴンらしい第1話でファンに安心と「感動」を与えることに成功している。
あの痛ましい放火殺人事件を乗り越えながら京都アニメーションが完成させた、今は亡きスタッフやアニメーターの魂も篭った傑作。とくに武本監督の名前がクレジットに出た時には思わず涙が滲んでしまいましたね……。

【ココが面白い:イルル襲来!そして小林家へ……】
本作では「イルル」という新しいドラゴン(娘)がやって来る。彼女には容姿も性格も奇をてらわれており、カンナとトールの中間くらいの背格好にはあのルコアを凌ぐほどの「爆乳」が付けられている。そのアンバランスさには大きな胸が好きな私でも若干、引いてしまう。原作者の性癖、限界突破しちゃってるんじゃないの……?
この展開を敢えて心ない言葉で表すならば“テコ入れ”と呼ぶのだろう。新キャラの彼女には様々な役割が与えられており、1期で構築された世界観をさらに味わい深くしている。
その1つが「ドラゴンの勢力の明確化」。トールが『混沌勢』でありながらその恐ろしさを示すことが少なかったため、過激派の彼女を登場させたと考えることができる。破壊と殺戮を好む勢力がどんな経緯でそれらを求め、神や人間と対立するようになったのか。イルルの過去から推察することも出来るだろう。
もう1つがこの作品独特のテーマである『異種間交流』。こちらもトールが1期での日常と最終回の出来事を踏まえてこちらの人間界(小林さん)に帰属することを選び抜いたため、2期となる本作ではもう彼女が人間の文化に対して驚いたりケチをつけることは無くなってしまう(独自解釈がすごかったり小林愛が暴走するのは健在だが笑)。なので毛色が違う新キャラが嘗てのトールと同じような道を歩むというのは、真新しさと同時に1期のような物語を求めて本作を視聴する「ファン」にきちんと応えた証なのである。
「アダルトチルドレン」という属性の作用も中々、涙腺に来るものがあった。混沌勢の教えを徹底的に叩き込まれていたイルル。しかし彼女の本心は────

{netabare}『私は人間と共存する竜なんて認めない。人間とうまくいくはずがない。だってうまくいってしまったら……私は今までどうして……』

《上位の存在であるドラゴンが人間と慣れ合うなんて恥だ》
『本当は…』

《いろんな悲劇だって起こった。和解はありえない》
『本当はね…』

《人間は敵だ》
『もっと…もっとね…』

『本当はもっと遊んでいたかったんだ!!』

{/netabare}
肉体的にはトールと同じ「成竜」なのに精神的にはカンナと同じ「幼竜」並み。心も身体もちぐはぐでアンバランスな新キャラ・イルル。そのバランスを矯正するにしてもしないにしても、彼女のいるべき場所もまた、ドラゴンの世界ではなく私たち人間の世界であることがよくわかる。
彼女を迎え入れた小林家の新しくもいつも通りな日常で、本作は序盤を飾っている。

【変わらない魅力:各々の異種間コミュニケーション】
イルルが落ち着いた序中盤からは平常運転────1期と同じ様な日常ファンタジーコメディを展開していく。とくに初登場が遅かった故に主役回の少なかったエルマと、あざといスタイルでは釣らずに子供らしさを前面に推し出すことで多くの視聴者から人気を得たカンナを中心としたエピソードが多分に占めており、とりわけその2匹(?)のファンのニヤニヤが止まらない構成となっている。
ファフニールがルコアをモデルに謎の同人誌を制作したり、カンナと小林だけで父娘のようなある夏の1日を通して描くなど、既存のキャラでの珍妙な組み合わせやシチュエーションも多々お送りすることでマンネリ化防止に成功している。
{netabare}
『なんだそのポーズは……ふざけているのか!? もっと目から血を垂れ流して首を360°ねじれ! 腕を乱回転させへし折りながら空を飛べ! 胸と尻を3つに割れ!! こんな器用な真似はお前にしか頼めんのだ!』

ファフニールの放送禁止級の要求に見事、簡単に応えてしまうのが神に近いドラゴン・ルコアのすごいところだ。映像化されているかどうかは是非、ご自身の目で確かめて頂きたい(笑){/netabare}
他キャラの出番が増えた分、トールと小林の関係描写は割を喰っているように感じてしまうかも知れない。しかし11・最終話での独占率を鑑みると、2人の関係は1期より濃密に描かれており、それは「不変である」と言うよりも互いにその不変を選び取ったかのような趣のあるエピソード構成で〆られている。
{netabare}ドラゴンの力で大抵のことを上出来にこなすトールは人間界に馴染んだことでより完璧となった。本来は小林がやるべきご近所付き合いも代行し、いつの間にやら町内の人気者。不良からも畏怖と尊敬の対象となり、人間社会を壊さず治安維持に貢献している。彼女に感化されて同じ異世界のドラゴンも続々と人間社会へ交わっていけば、その先駆者として人間界の常識を説くことも出来るようになった。
──トールは私がいなくても、上手く人間社会でやっていけるんじゃないだろうか。
そう考える自分の気持ちは嫉妬か、はたまた寂しさなのか。
しかし、そもそも自分はトールに慕われるほど、“できた”人間なのだろうか。
自分がトールといる理由を、様々な思考を巡らせ探すのが達観している小林らしい。そして思考を巡らせた末に『めんどくせえ、このままこのまま』と放棄したのは、言葉通りの意味以上に「自分がトールと一緒にいたい」という気持ちに正直になれた証ではないだろうか。
今までは理屈っぽい言葉で飾っていたところ、飽くまで「主人とメイド」というソサエティから始まった小林とトールの付き合いが、互いにとってかけがえのないものになっている。それを今さら何人たりとも壊すことは出来ないんだという彼女の帰結を1期以上にエモーショナルに描いているのである。
そんな小林の小さな感情の破裂が夏祭り、皆と合流しようとするトールの手を引き、2人きりで屋台を回り、思いを打ち明け共に花火を見る────そういった所に表れているのかと思うと非常に尊い。{/netabare}

【総評】
安定の2期────と書くのは些か過小評価にも聴こえるが、ひとまずはそう評することができるだろう。
そもそも『メイドラゴン』シリーズのアニメは1期から高品質だ。作画は一般的な萌えアニメに迎合しているように見えて、どの場面を細かく観察しても一切の手抜きが見られない。可愛い場面は観ただけでやられてしまい、日常コメディなのになぜかちょくちょく入るバトルシーンは真面目なバトル作品に勝るとも劣らない大迫力。心情に訴えかけてくる場面でも、より深く刺さるように描かれてきた。
そんな作品も件の事件で大きく品質を落とさざるを得ない────と思われていただけに、それを全く落とさずに製作・放映まで成し遂げたのだから本当にすごい。要所によっては戦闘シーンの作画は1期よりも迫力が増しているようにも見え、相変わらず何気ない水の揺らめきやメインサブ問わず人物の細かな仕草まで余念なく注力されている。
内容も原作漫画時点で良好なので当然、高得点。2期になると大量に新キャラが追加されて1期のキャラが空気のような扱いになる作品も多い中、本作はイルルと会田タケト(CV:下野紘)の追加のみに絞っている。
イルルは小林家を通してじっくりと腰を据えた掘り下げ描写がされており、さらには前回のトールとエルマ、今回のルコア翔太、ファフ滝谷、カンナ才川のような、既存キャラの掘り下げ描写にもしっかりと尺を割き、自然と笑みが溢れる展開が充実している。何でもありなファンタジー要素を依存することなく効果的に日常コメディに落とし込んでおり、「1期で気に入ったキャラクター達のエピソードをもっと見たい」というファンの好みと期待に応えた、大変ありがたい続編だ。
「変わらない」という言葉は批判的な意味に聴こえ、事実そっちの方に使われがちだが、実はとてもすごいことなのだと思う。1度途切れてしまったものを元に戻すには相当な努力が必要な筈だ。
1人の狂人の手で69名もの死傷者を出した『京都アニメーション放火事件』。その暗い過去や再起の痕跡を敢えて視聴者に感じさせることはない。そういったところもまた、プロフェッショナルの仕事なのだなと敬服させられる。

投稿 : 2024/04/21
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サンキュー:

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