「BLACKFOX(アニメ映画)」

総合得点
66.2
感想・評価
63
棚に入れた
250
ランキング
2990
★★★★☆ 3.4 (63)
物語
3.1
作画
3.7
声優
3.5
音楽
3.3
キャラ
3.4

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.6
物語 : 3.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 3.0 状態:観終わった

なぜ劇場アニメにしたし

くノ一を主人公に据えながら舞台は英字の看板が並ぶニューヨークのような異国情緒ある“シティ”。まるでMarvel作品を彷彿とさせるが歴とした日本のアニメーションだ。
主人公・石動律花(いするぎ りっか)の披露する忍者アクションは小気味よくきびきびと動き、見ていて楽しい。そんなアニメーションとしての面白さを冒頭からひしひしと感じさせてくれる。

【ココがすごい!:祖父の忍術、父の発明を継いだくノ一によるハイテクメカ忍術!】
本作は幼少の頃の律花から描写を始めて彼女の能力や家族愛を丁寧に描いている。ちょっと時系列が飛び飛びになって交友関係が一新されるところもあるが、押さえる点は彼女が祖父から忍術を叩き込まれてること、父の発明「アニマルドローン」に触れ続けたこと、そして復讐のためにそれら全てを活かすようになったことの3点だ。
パルクールに剣術、手裏剣やクナイの投擲術など忍者の基本はお手のもの。加えて父や自身の発明品を使って透明の術や空蝉の術などフィクションの領域にあった忍術の実用化に成功している。絶妙にフィクションとリアリティーの境目を突いて強い現代忍者像を描いているのが魅力的。まるでスーパーパワーは無いが様々なガジェットを用いて戦う『バットマン』のようである。
律花は祖父と父を殺した大企業に復讐を誓い、過去と名前を捨てて「リリィ」と名乗る。ちょうどテレビアニメの第1話のような内容が冒頭の30分ほどで描かれる。やや淡々とした部分はあるものの、海外のアメコミヒーローのような過去やストーリー展開は王道の面白さを感じさせる。

【ココがつまらない?:結構巻き気味】
ただ本作、1本の劇場アニメという体が祟って結構巻き気味である。本来はリリィと敵対する少女・ミアがもっと仲良くなるような描写を入れて、そこから敵対を経て後に共闘という山場を作るのが筋だが、90分しか尺がないせいか、リリィとミアの交流はチェスをしたのと律花の同居人・メリッサも交えて食事を共にしたシーンしかない。その希薄な関係で家族殺しに荷担していたミアの殺害を最終的には諦めてしまうという流れは説得力に欠けているようにも思える。まあリリィ本来の気質や、人工知能を搭載することて自我を持ったアニマルドローンたちの説得もあるだろうが。
またリリィは小山力也演じるハロルドという男の探偵事務所で働くのだが、そのエピソードも殆ど描かれずハロルドとの絡みも無いに等しい。これが劇場アニメではなくテレビアニメなら、一見何でもない依頼を引き受けたら復讐対象の大企業に繋がった──というありがちでも複雑なシナリオに持っていけるだろうに、本作では街を縦横無尽に駆け回るアニマルドローンが関係者を見つけ出すまでの暇潰しかのように、リリィは本筋とは無関係な依頼をこなしている。
全体的にストーリーがテレビアニメの劇場版化のようなダイジェスト風味になってしまっていて、話が盛り上がるようでいまいち盛り上がらないのである。

【でもココが面白い:悲劇のサイキッカー・ミアと復讐の父・ローレン】
ただ他がおざなりな分、今回の敵であるミアとローレンの掘り下げは深い。
小学生の頃から超能力を持っていたミア。しかしそれが不気味がられていじめを受けていることを父・ローレンに告白する。研究者でもあるローレンは娘の超能力の証明=人間の潜在能力の覚醒実験に心血を注いでいく。しかし大企業・グラズヘイムは超能力なんてふわっとしたものを認めることはなかったようだ。
社は現在もローレンの同期でありリリィの亡き父でもある石動アレンの発明「アニマルドローン」の軍事利用に御執心だ。自分は評価されないのに同期は殺害された後もその界隈で脚光を浴び続ける。ローレンは石動への嫉妬で精神を病んでしまい、いつの間にか娘のための研究は石動アレンを潰すための手段に成り下がっていく。
愛娘であるはずのミアの扱いも下衆の極みだ。何度も騙し、自我を封じて兵器化し、石動家の断絶に荷担させる。望まない戦いを強いられるミアを、リリィは復讐を捨てて救いの手を差し伸べることができるのか────。
お約束なシナリオではあるものの、悪の科学者の傀儡となった超能力少女と現代のくノ一の戦いが本作を「日本版Marvel」と言わしめる部分だ。

【総評】
全体的に見てこの作品を構成する要素は面白くなりそうな期待感がある。忍術を嗜む女性主人公が家族を殺され復讐を誓い、敵とは知らず少女と仲良くなりつつ家族の仇を討つために街を奔走するというアメコミヒーローのような世界観とストーリーは王道で悪くなく、序盤の剣戟アクションもカッコいいし女性キャラクターも可愛い。しかし問題は王道が“ありきたり”という評価を受けやすい上、圧倒的な尺不足が欠点だ。
{netabare}確かにミアとローレンとの決着は着けた物語の節目ではあるのだが、リリィの復讐対象である大企業・グラズヘイムはシティ全体をも牛耳る巨悪であり、その社長・ブラッドもリリィの父の同期で研究成果を奪い取った裏切り者でもある。そいつが序盤にも出ておきながら再登場は終盤も終盤に劇中事件の揉み消しにちょっと現れただけであり、石動律花=リリィの戦いはまだまだ続くように見せかけて、本作は俺たたエンドならぬ“わたたたエンド”で幕を降ろしている。 {/netabare}
{netabare}同居人・メリッサも謎が多い。彼女の写真を見てブラッドは「AMD00」と呼称する。これはリリィが父から受け継いだ3体のアニマルドローンの個体識別番号「AMD01~03」と呼び方が酷似している。メリッサは劇中では癒し系というべきか、正直活躍の場は無いに等しい。しかしそんな大きな設定を持っているとしたら尚更テレビアニメ枠を入手して彼女の話もじっくり見せてくれてもいいのではないだろうか。 {/netabare}
1本の映画というよりは2クール(24話)のテレビアニメから5話だけ抜き出して先行上映したかのようなストーリーになっており、ここから話が盛り上がりそうなところで終わってしまっている。続編も音沙汰がなく、なぜそんな序盤だけを劇場アニメにしてしまったのかが謎である。

投稿 : 2021/09/28
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サンキュー:

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