ナルユキ さんの感想・評価
3.5
物語 : 2.0
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
序盤の路線を大事にしてほしかった
本作は『ストライクウィッチーズ』と同じく海上を主なバトルフィールドとしたヒロインアクションアニメであり、あちらと同じく女性の肢体、とくにお尻のアップが多いムフフな作品だ。
変身スーツは一見、音楽隊のようでいてスーツの各所にライダー要素(バックル、フォトンストリーム)やウィッチーズ要素(足裏のジェットで空を飛ぶ)が散りばめられており、清楚かつスタイリッシュ、そしてセクシーさも併せ持った見てて飽きない衣装である。
【ココが面白い:いいからドッキングだ!】
最大の特徴はメインヒロイン同士が合体して1人の強力な戦士になる「ドッキング」にあり、そのプロセスとして「でこちゅー(額にキス)」が使われている。何となくいかがわしさを感じる用語と露骨な百合描写に嗜好家は大感激である。
合体パターンは4話までで3種類用意され、それら全て片方を主人公・一色あかねが受け持つ。2~4話は天真爛漫な彼女のアプローチにほだされて3人の少女が心を開き、次々と戦士化・あかねとの合体を見せてくれる。人によっては「会って1日しか経っていない娘と合体(でこちゅー)までいけるか!」なんて初心なツッコミをする人もいるが、2話は1話の持ち越し戦闘も兼ねた二葉あおい回、3話は三枝わかば回、4話は四宮ひまわり回という風に1話丸々使ってキャラクターを掘り下げつつ、あかねとの確かな友情を築いている。その無駄のないテンポはむしろ称賛に値するのではないだろうか。
じゃあお前は友達にでこちゅーできるかって?男同士は気持ち悪いけど、女同士なら普通でしょ(百合厨)
ストーリーは美少女変身ヒロインの王道展開を軸としており、Aパートに日常シーン、Bパートで新エネルギー炉を狙う巨大な敵・アローンを迎撃するといったパターン。これは私の好きな作品である『結城友奈は勇者である』にかなり近い。放映年を考えたら正に“先輩”と言える。
惜しむらくはアクションシーン。どんな敵にも先ずは各々の武器で攻撃して、フィニッシュにドッキングを持ってくるという単調なパターンが続く。ただ、それを崩した第8話のバトルは胸熱だ。
【ココがつまらない:レイちゃん不遇問題】
第5話からは黒騎 零(くろき れい)という少女も本格的にストーリーに関わってくるのだが、このキャラクター、裏主人公的ポジションながら劇中での扱いがやや悪い。
{netabare}レイは人間でありながらアローンを強化支援する明確な敵であり、その正体を隠してあかねたちの学校に潜入している。この立場を終盤まで頑なに貫くため、あかねたちとの関係は友達ともライバルとも言えない状況が続いた。敵対してるならしてるで堂々と面を割って争う方が対人戦も入ってより面白いアクションシーンを描けた筈なのだが。
本作はレイとあかねが真の友情を築いて敵を倒すことで物語が締め括られる。そこまでの実に6話もの間はあかねが手を差し伸べてはレイが払い除ける、レイの目的をビビッド戦士が意図せず妨害してしまう、という展開を描くことになった。あかねさんよぉ、1話でわかばやひまわりを攻略したあの手腕は何処にやってしまったんだい?
そんなにレイの心の闇が深いのかと考えたが、正直に書いて浅い。彼女の過去は非常に簡素な描写しかされず、飽くまでも喪われた自分の世界を取り戻したいという“設定・情報”としてしか彼女の譲れない想いとやらを知ることが出来ない。ダークな設定の割にはその凄惨さを欠いており感情移入することは難しく、かつ本作が序盤に培ったライトな友情物語と相反してしまっているのである。
カラスがレイに課している「人との交流は禁ずるが、学校には行かねばならない」という命令もよくわからない。ダブルスタンダードではないだろうか。そのことをレイが言及しても無視したり、或いは謎の力でお仕置きされる。この無意味な枷のせいで彼女は心から日常を謳歌することは許されず、与えられた力は戦闘向けではないので前線にも出られない、このジャンルにおいては非常に中途半端な立場に置かれてしまった。 {/netabare}
【そしてココがひどい:友情が負の連鎖を生む10話・11話】
{netabare}これでも第9話までは好意的に観ていたが、10話以降でそろそろ庇い立てが出来なくなってきた。いよいよレイとあかねたちは互いに正体を知り合うのだが、それで怒るのはレイの方だった。
「ずっと私の邪魔してきた敵だったくせに、そんなあなたの何を信じろっていうのよ!?」
お互い様だろう、という話である。それにあかねに人を騙すなんて器用な真似ができないこと、これまでの関わりで理解できていないのかとガッカリした。ひまわりちゃんは1話ですぐアホだと気づいたぞ!(笑)
間もなくレイは連合防衛軍に拘束されるものの、それまでに放たれた「嘘つき」などの毒のある言葉をあかねたちは引き摺る。レイの誤解を解くため、ひいてはレイとちゃんと話をしたいが為にあかねたちはビビッド戦士の力で味方だった連合防衛軍に殴り込みをかけてしまうのだ。この作品の“友情”というワードが時折、安っぽく見られるのはこの「友達のためなら何をしてもいいのか」という倫理観の欠如が詰まったシーンを話のクライマックスに持っていったことが最大の要因だと考えられる。
あかねたちの起こした混乱に乗じてかカラスも隔離施設に出現、レイに与えたアローン強化の力を回収するためレイごと丸呑みにしてしまう。この事態を引き起こしたのは防衛軍を襲撃した挙げ句レイを閉じ込めてた強化ガラスを割ったあかねにもあることに気付いてしまうと、友情とは時として人を盲目にしてしまう悪しき感情なのかなとも考えてしまえる。 {/netabare}
【ここもひどい:敵の設定がテキトー】
カラスが語るアローンや高次元存在についてもどこか要領を得られない。その時はもう11話なので言わば種明かしないしネタばらし的に詳しく話すべき場面なのだが。
{netabare}アローンは『始まりと終わりの狭間に存在するもの』という者が、人類が新エネルギーを扱うに値するか試すために送り込んだ存在であったことが明かされる。しかし何故アローンを倒す力があればその資格があると見なすのか。そもそも人類のどんな間違いを危惧してアローンを送り込む試練を課すに至ったのかまでは語られない。「事故や暴走が怖いなら高次元存在の『始まりと終わりの狭間に存在するもの』がその運用を監督してくれればいいんじゃないの?高次元存在なんでしょ?」とシナリオの根幹にツッコミを入れてしまう。
てか『始まりと終わりの狭間に存在するもの』って名前なげーな!5文字以内で名前つけろよ(笑)
そんな目的もカラスにはどうでもよくて、試練抜きに「下等生物の人類が新エネルギーを持つべきではない」と決めつけている。1クールの11話にしてアローン側も一枚岩ではなかったという複雑な勢力図、今さら要らないだろう。
そしてレイの力を取り込んだカラスはそのままラスボスとなり新エネルギー炉の破壊へ飛び立つ。その圧倒的なパワーが数値に現れると一色健次郎ら大人たちは「もう人類に打つ手はない」と諦念を抱いてしまうのだが、いざあかねたちがドッキングで戦うと、全然いい勝負をする(笑) カラスは今までアローンを一撃で倒すことの多かったドッキングを連続使用しなければならないほどの強敵として描かれてはいるものの、あの絶望ムードは一体何だったのかわからなくなるくらいビビッドチームが優勢に戦うので「こんなものが高次元存在を名乗っていたのか…」という呆れた感情が最終話の感動を上回ってしまった。 {/netabare}
【他キャラ評価】
二葉あおい
初めからあかねの親友として登場。だからこそ出来ていた心の壁がドッキング失敗に繋がる展開は中々に興味深い。
{netabare}しかしまさか「トマト嫌いなのにあかねからもらったトマトを『美味しかった』と嘘をついていた」ことが負い目とは……聴いた直後はズコーとなったが、それだけあかねとの関係を大事にしたいんだなという彼女の心情は中々深く理解できる。
それ以降は少し地味だが、第8話にあかねの武器を背負って共に戦う姿は正に主人公が欠けたときのサブリーダーらしい格好よさが見えた。 {/netabare}
三枝わかば
通称「会って1日ででこちゅーまで行ける女」。まあそんな細かいことまで気にするな!
人物像としては典型的な剣道少女でやや斬新さに欠けるが、ひまわりの加入後は彼女とのカップリング描写が映える。「わかばとひまわりでドッキング出来ないのか!?」と悔やまれるのも第9話を観てよくわかった。
やや声が気になったが中の人は本作より前に『ゆるゆり』の歳納京子なども演じていた大坪由佳さんなんだよなぁ、当時の経験不足を差し引いても下手な筈はないのだが。
四宮ひまわり
通称「会って1日で(ry
でも人間不信だった娘が主人公に出会ってそこまで絆されるのって、ええやん?
無口で気だるげ、だが機械となるとテンションが上がるオタク少女、そしてトランジスタグラマーと属性増々だ。本作自体の人気はともかく、この娘が劇中最人気のメインヒロインであることに間違いはない。
【総評】
高水準な衣装デザインに数種類のキャラクターソングを始めとする豊富な楽曲、ありきたりだが王道ともいえる『友情』をテーマとしたシナリオの序中盤を観て「どうしてこんな良いアニメが2期も作られずに埋もれてしまってるんだ!?」とある種、世間の冷たさに怒りながら楽しんで観ていたのだが、終盤を観て納得した(笑) 物語の後半をしっかり考えてなかったんだな、と今ではよくわかる。
序盤の展開は確かに軽い。只でさえ現れる敵は2人で対処可能だったのに、さらに2人も増やして優勢に進めてばかりなので、戦いに緊張感がなくこの時点で批判があるのは理解できる。しかし本作もまた「拠点防衛型」の変身ヒロインアニメということで、近未来の伊豆大島を舞台にした“東京でもあり田舎でもある”という独特な日常描写に「遊んでる場合?」なんてつまらない疑問を挟む余地がないのが素晴らしい。メインヒロイン同士の仲が良いからこそ「ドッキングは強い」という図式が成り立っている。
その話にそのままレイを放り込めば良かったのに、難攻不落な彼女の心情や設定が絞りきろうとしたターゲッティングを無理やり広げたことは感心しない。勿論、彼女に『魔法少女まどか☆マギカ』の暁美ほむらのような重厚な設定があれば「ここからはダークファンタジーの時間だ」と納得できたのだが、出番の割にはそこまで深い描写はされなかった。
{netabare}終盤のストーリー展開は本当にひどい。レイの逆ギレ勘違いに、あかねたちの“友情”が一般倫理を超越しての防衛軍襲撃、敵の設定を全部フイにしかねないカラスの暴走、しかし全然苦戦しないラスボス。そしてダメ押しのご都合主義。ある種、この作品のダメなところ全てが集約されている。
新エネルギー炉の暴走で喪われたというレイの世界が『始まりと(ry』の裁量で「よかったね!全部もとに戻してくれるって!」となった時はもう勘弁してほしかった。他作品でも物語をハッピーエンドで締め括るデウス・エクス・マキナはとかく批判されがちだが、本作より精彩を欠いているものはそうそうないだろう。{/netabare}
やはり並行世界だの次元の高低差だのといったSF設定は脚本家や監督の頭が良くなければダメだ。そして上手く扱えなければ早々に諦めて序盤の路線を大事にした方がもっと本作を支持する人は増えていたんじゃないかと思う。私みたいにあーだこーだ酷評する人でも「あおいとわかばのドッキングが見たかった」とか「ももちゃんがビビッド戦士にならないのは何故?」など、劇中で披露することのなかった“IF”を要望として織り混ぜている評価も多いのが証拠だ。