「シリアルエクスペリメンツ・レイン[serial experiments lain](TVアニメ動画)」

総合得点
77.0
感想・評価
884
棚に入れた
3915
ランキング
655
★★★★☆ 3.7 (884)
物語
3.9
作画
3.6
声優
3.5
音楽
3.9
キャラ
3.7

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ひろたん さんの感想・評価

★★★★★ 4.3
物語 : 5.0 作画 : 3.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

オンラインの中の幻影少女のとても切ない物語(現代版「風の又三郎」!?)

とある事件をきっかけにNAVI(パソコン)を手に入れワイヤード(ネットワークで人々がつながっている世界)に飛び込んだ14歳の少女・玲音の物語です。
ハンドルネームは、lain。

面白いのは、あっちの世界に行ったきりの話ではなく、リアルワールド(現実世界)とワイヤードの両方をいったりきたりしながら話が進んでいくところです。
もっと言えば、その境目は曖昧だと言うことです。


現代ネットワーク社会の中に生きる人々は、多かれ少なかれ自分の行動が記録として残っています。
それは、自分がそこにいたという痕跡が残っているということです。
しかし、その痕跡は、メール、SNS、ブログ、掲示板等にバラバラに偏在しています。
逆にそのネットワーク上に散らばった痕跡をかき集め1つにつなげていくと、その痕跡を残していった人物像が見えてきます。

しかし、果たしてそれは実在する人物なのでしょうか?

ネットワーク上では、その記録を見ている人たちがいるので、確かにそう言う人物がいたと他者からは認識されます。
しかし、それはあくまでも他者から認識された自分であって、自分が認識している自分ではありません。


「serial experiments lain」は、直訳すれば「連続実験lain」です。
話の内容も確かにそんな感じの部分はあります。
自分は、ちょっと違った解釈をしてみました。

この話では、玲音がワイヤードでいろいろな試み(experiments)をしていきます。
それは、次第にネットワーク上のいろいろな人に認識されるところとなります。
今度は、逆にネットワーク上に散らばったその試みの断片をかき集め、1つにつなぎ合わせていく(serial化する)と、1人の人物(lain)が浮かび上がってくると言うことです。

しかし、それはlainであって玲音ではありません。

では、玲音はいったいどこにいるのでしょうか?
本人もそれがだんだん分からなくなってくるのです。

これが、リアルワールドとワイヤードの境目が曖昧な怖さです。
当たり前だと思っていた自分と言う存在について、「それはだれか?」と自分自身で問わなければいけないのです。
それだけに怖いものを感じます。


この作品は、1998年の作品です。
SNSなんてものが無い時代に、これほどまでに今のネットワーク社会の本質を突いた作品を世に送り出せたのはすごいなと思いました。


この作品は、最初からずっと陰鬱とした不気味な雰囲気が続きます。
みんなが観て楽しいアニメかって言われるとちょと疑問です。
正直、前半なんて分かりにくいし、この雰囲気いつまで続くのって思います。
しかし、後半、玲音の置かれた状況が分かってくると背筋に寒いものを感じます。
話自体も意外とシンプルで分かりやすいものだったと言うことも分かってきます。
それと同時に玲音へ同情せずにはいられなくなるほど切なくなります。


*********

それにしても、どうもこの作品を観終えた後の感覚が昔読んだ何かに似ていると思いました。

宮沢賢治の「風の又三郎」です。

ちょっとあらすじを。
ある風の強い日、赤い髪の不思議な少年高田三郎が転校してきます。
その子がいると風が吹いたり、ふと姿が見えなくなったりするので他の子たちは「風の又三郎(風の神の子)」ではないかという疑念を抱きつつも、その子を受け入れていきます。
そして、一緒にはちゃめちゃな体験をしていくなかで三郎に惹かれていきます。
いつしか、その子は、みんなの中ではいなくてはならない絶対的な存在になっていました。

しかし、ある風の強い朝、その子は突然転校していなくなっていたことを知ります。

はたして三郎と言う人物は実在したのか。
それとも、みんなの記憶の中だけの又三郎だったのか。
結局、子供たちには分かりませんでした。

つまり、みんなの無意識が1人の存在(人物像)を作り上げていたかもしれないと言う話です。

この話は、他の子たちの視点で又三郎のことを語っています。
そのため、又三郎とはいったいなんだったのかを最後まではっきりさせることができずに話が終わるので、不思議な余韻を読者に残します。

*********

この「風の又三郎」は、まるでlainを観ている側の視点のような話です。

アニメでは、視聴者がまるでlainを見ているような感覚になる演出がなされます。
そして、lainは、すぐそばにいるのでいつでも会えると言うのです。
そのため、lainを観た人の心の中には、最終回の後もずっとlainが居続けることになるのです。
これが、20年以上たった今でもこの物語が話題になる秘密なんだと思います。


それでは、最後に。
みんなが知っているあなたは、あなたですか?
ネットワークとリアルワールドの曖昧な境界線にご注意を・・・。

投稿 : 2021/09/08
閲覧 : 274
サンキュー:

10

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