薄雪草 さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
思いもかけぬ良作でした。
原作は柏葉幸子さん(児童文学作家)。
メインターゲットは子どもたちと思いきや、封切りは8月27日!
夏休みの宿題をやり終えたご褒美?だとしても、このタイミングはそれぞれに悲喜こもごもですね。
脚本は吉田玲子さん(ヴァイオレットエヴァーガーデンなど)。
遠野の隅々に語られる古い妖怪たち(本作では "ふしぎっこ" というそうです)と、身の置き所のない理不尽に傷ついた現代っ子らを、マヨイガという一つの舞台に出会わせて、とても丁寧に綴ってくれています。
マヨイガは「遠野物語」に登場する有名な伝承で、柳田國男の編纂によるものです。
もともとは佐々木喜善(鏡石)という人の口伝を書きとめたもので、明治42年といいますから、今では112年も前のことになります。
初本は "マヨヒガ" と表記されていますので "迷い家" は今風な当て字なのかもしれません。
こうしたお話は、かつてはマタギたちの口で山や谷を越えていったのでしょう。
いつともしれずに木地師たちの手によって形を整えられ、やがては古老の優しい眼差しに語り継がれたのなら、きっと飽きることなく、ずっと聞いていられそうですね。
マヨイガは同名のお話が二篇(六三番め、六四番め)収められていて、本作は第一篇(六三)のコンセプトを基調にし、時代性(津波災害や家族離反)を加味することで、最新版にブラッシュアップし、視聴者のエンパシーを高めています。
本作内で第一篇(六三)がほぼ形を変えずに紹介されています。
吉田さんの妙ですね。温故知新がきちんと押さえられています。
伝承だと "欲張らない素直さで得られる成功譚" がその主旨ですが、やや説諭的なニュアンスが感じられます。
家父長制の下での女性の振る舞い方だったり、棚ぼたチックな幸福論だったりです。
再構成された本作のテーマは "やれることを精一杯の力でやりきる" に置きかえられていて、自己変革への指向性が打ち出されているのが特徴でしょう。
見ず知らずの女性3人であっても、それぞれの主体性が輝くことで、強い絆が生まれるなど、新たな家族像の提案だとも感じます。
目前のハイ・プレッシャーに圧されて、傍観者として座しているだけならそれは何も変えられません。
伝承やお祭りにはいろんな教訓や知恵が語られています。
まずは触れてみるところから始めて、どんな形でもいいので取り組んでみよう。形を守りつつアレンジを加え、自分なりのものにしてみよう。
そういう導きをソフトに打ち出している印象です。
平成・令和の子どもたちに、古き伝統に触れることで、新しい発想力を生みだしていく、そういう学びの気づきの大切さを、表現し伝えようとしているみたいです。
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本作のテーマの魅力は、人と妖、正と邪、悲しみと歓びなど、それぞれの素性の違いを、アタマでは認めがたくても、そのままを受け入れるココロの寛容さを、強くは語らずに描いているところにもあります。
幸せの種はそうした土壌に根付き、花を咲かせ、実を生らせるというメッセージがあるように感じられました。
でも、もしかしたらそれは、人生一度きりのワンチャンスなのかもしれません。
万一、気づかなければ、見出せなければ、フワリと身体をかすめて消えてしまうのかも・・・。
というのも、遠野の伝承によれば、マヨイガに辿りつけるのは一生にただ一度のこと。
ふたたび見つけることは決して叶わないとされている "神夢" なのだそうです。
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そんな感じなので、壮大なバトルシーンとか派手なアクションとかは全くなくって、なにかの刺激を期待しているのなら、モノノ怪に化かされたような肩透かしに、がっかりするかもしれません。
でも、3人の女性たちの得も言われぬ心づかいの優しさだったり、暮らしの真ん中に置かれている平穏無事な安堵感だったりは、たっぷりと感じとれると思いますので、醍醐味とすべきならそういった演出なのかもしれません。
ハッとしたのは、たとえ邪悪な敵役であったとしても、同じ土地に棲むものとして、已むに已まれぬ思いがあったのだろうとして敬い、神として祀り、朝礼夕拝のしきたりに思いを馳せる懐の深さの描き方です。
あまりに敬虔で、慎み深くて、高尚な文化性。
しっかり絆されてしまいました。
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「遠野物語」自体は、多様な媒体で展開されていますので、読むことにそれほど難しさはないと思います。
原文は旧仮名文体なので手こずるでしょうが、現代口語の訳本なら十分に理解できるでしょうし、深い考察を助けてくれる解説本もありますので、案外と気軽に東北の文化を吸収できそうです。
マヨイガであれば、どなたにも、ものの1分で読み終えられます。
全体でも119話ですので、いつか手に取ってお読みいただければと思います。
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本作は、フジテレビの「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」の企画の一つでもあるそうです。
今後、「フラ・フラダンス」、「バクテン!!」など、東北の若者たちを描く劇場アニメが上映される予定とのこと。
身近な劇場に足を伸ばすことで、東北の復興に寄与できそうですし、地元の方々のがんばる姿にも、たしかな共感を深められる一石二鳥の取り組みになっているのですね。
そうした心構えで、全国から応援させていただけるなら嬉しいことですね。