蒼い✨️ さんの感想・評価
3.2
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 1.5
音楽 : 4.0
キャラ : 2.5
状態:観終わった
展覧会の絵のような芸術作品。
【概要】
アニメーション制作:STUDIO 4℃
2019年6月7日に公開された111分間の劇場版アニメ。
原作は、『月刊IKKI』に連載されていた五十嵐大介による漫画作品。
監督は、渡辺歩。
【あらすじ】
女子中学生の安海琉花(あずみるか)はハンドボール部に所属しているが、
ケガをさせるトラブルメーカーとして問題視されていた。
夏休みの初期に不和でチームメイトに病院に行く怪我をさせた上に謝罪しなかったことで、
部員「足をかけられたとはいえ、やりすぎ」
顧問「夏休み中、練習に来なくていい」
と言われて部活禁止で夏休みがポッカリと開いてしまった。
自分の感情を上手く人に伝えることの出来ない琉花は心のモヤモヤを抱えたまま、
別居中の父親が勤務している、幼いときに大好きだった東京の水族館に行き、
そこで不思議な少年、海と出会う。父親が言うには海はジュゴンに育てられたという。
夕暮れの海岸で琉花は、海の双子の兄の空とも出会う。
海と空のペースに巻き込まれながらも琉花は二人と交流を深めていく。
一方で、海に隕石が落下したり世界各地では魚が光となって消えたりと、
不思議な現象が起きていた。
【感想】
原作全5巻も読んでみました。
これがどんなアニメかというと、地球をひとつの生命体としてなぞらえているガイア理論、
更には星星もありとあらゆる生命も広大な宇宙の体内の微粒子レベルな一部であるという設定で、
人類の常識では測れない宇宙や生命の神秘を表現するために作られた、
このアニメスタジオの限界まで挑んだ映像と久石譲による劇伴で彩られた、
生命賛歌を五感で感じてもらおうという大変に意欲的な映像作品ですね。
絵画的な美しさを持つ緻密なタッチの海洋や夜空、
クジラなどの多種の海の生物の姿が素晴らしいと言えばそうなのですが、
人間の描き方、まつげを細かく描写したりアニメらしくない鼻にこだわったりしてるのですが、
作画芝居が大人しすぎてキャラの存在感が映像の質に負けていると思いました。
「魔女」なども共通して五十嵐大介氏の漫画は登場人物の感情の起伏の表現に乏しいですので、
原作の雰囲気を壊すこと無く映像で再現しようとすると、そこは仕方ないのですが。
また、高品質な映像と比較して実写畑の役者たちのキャラクターの声の演技が平坦であるがために、
登場人物の感情や行動に関心を引き込む力が無いですね。
これがキャラアニメでないにせよ登場人物に生命を吹き込むには作画と同じく演技が重要です。
抑揚を強調した声優の演技のほうが台詞の一つ一つが聴いていて頭に入りやすいのですが、
TVドラマや邦画でありがちなボソボソとした長回しの芝居を採用しているのが原因でしょうか。
出演した俳優たちはプロの声優のように感情を乗せて声で伝える仕様になっていませんね。
声優の演技は大袈裟でリアルでない!とか言って徹底的に声優を起用しないクリエイターもいますが、
実写には実写の、アニメにはアニメの、メディアごとに培ってきたやりかたがあるはずです。
実際に演者の全員が声優で、観た人からは絶賛されている映像に相応しいレベルの演技を見せて、
その相乗効果で観客の感情をぐいぐい引き寄せた人気のあるアニメ映画がありますので、
宣伝上の都合で芸能人を使う事情や声優を使わない言い訳には忖度したくないですね。
(その作品の主役を演じた声優は、第15回声優アワードにて主演女優賞を受賞しています)
唯一、琉花役の芦田愛菜の演技は出演者の中では相対的には悪くはなかったですけどね。
海・空の兄弟や学者たちが延々と哲学を語ってるシナリオはキャラクターが世界観の解説役であり、
語り口調に抑揚がなくて気障なポエムのような説明台詞が並ぶのは本当に退屈でしたし、
生命の息吹と神秘的なロマンスにどれだけ没頭できるかで感動の度合いが変わりますが、
前述の声の問題でマイナスに見てしまうせいか作品が自分には向いてなかったようです。
原作にある母親になって海に生きている大人になった未来の琉花の姿がアニメ映画版では無し。
代わりとして、別居していた琉花の両親がよりを戻しているのが原作より強調されていたり、
終盤に琉花の心に変化が起きている演出やシーンがオリジナルで差し込まれていたりで、
命をつなぐ海の神秘の原作の物語だけでは気障とか意識高い系であるとしてなのか、
ひと夏の経験で精神的な成長を遂げた少女のジュブナイルとしての帰結を強調。
人間関係の再生物語としての補完や変更が必要であると監督や脚本家らが思ったのでしょうか?
そこらの是非は視聴者ひとりひとりの解釈でしょうけどね。
このアニメに関しては、自分としては院展で足を止めて絵画をじっと眺めるように、
美しくて壮大感のある映像を感性のままに楽しめれば良いと思います。
惜しむべくは自分は映画館では観ていませんのでこのアニメの映像世界を、
怒涛の迫力で圧倒される大画面と音響の洪水のフルスペックで体感していないということ。
理屈ではなくて感覚で味わうタイプのアニメーションとしては視聴環境は大切だなと思いました。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。