ナルユキ さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
競馬を知ってても知らなくても楽しめる物語
1期から注目していたトウカイテイオーが主人公に抜擢され、その時点で「あ、これは1期超えてくるな」と確信(笑) スペよりテイオーの方が好きなんだよね。小柄でボクっ娘、台詞や所作に至るまで常にバイタリティに溢れており、観ているこちらまで元気をもらえるような可愛いウマ娘だ。
そんな彼女の山あり谷ありな人生はきっと涙なしでは見届けられない……その予想がドンピシャリと当たった素晴らしいスポ根アニメだった。
【変わらない魅力:競馬を知ってても知らなくても楽しめる物語(1)】
私がどんな立場から本作を語るかというと、競馬ミリしら勢です(笑) 馬が好きだからではなくウマ娘が可愛かったのが決め手で前作から興味を持ったし、されどアプリゲームが中々リリースされなかった間は他の有象無象に混じって小バカにもしていた大バカ者でございます。そんなバカ者でも楽しめるよう、実際に活躍した競走馬を擬人化するだけでなく、擬人化した馬の実際の史実をこれでもかと物語に取り入れてドラマチックに仕立てているのがこの『ウマ娘』シリーズである。
{netabare}現実のトウカイテイオーは骨折により、走らずして三冠馬の称号を得ることが出来なかった悲劇の競走馬だ。しかし馬にとっては骨折でレースに出られなくても恐らく「悔しい」とも「悲しい」とも思わない。次のレースに早く復帰できるようおとなしく身体を労ることもなかっただろう。それらは人間の感情・思考であり、競馬をよく知るテイオーのファンが現実のテイオーに押し付けてしまっていた“イメージ”である。そのイメージ────キャラクター性を希望通りに再現していくのがトウカイテイオー(ウマ娘)と彼女を主役とする物語だ。{/netabare}
テイオー自身が無敗で三冠馬になることを望んでいる。どんなレースも全力で走ることを望んでいる。そのために自身で挑戦し、努力し、決意を表明する。1頭の競走馬を「1人のアスリート」に見立てることで、競馬ファンを中心とする視聴者が観たかったものを魅せることに成功している。
【変わらない魅力:競馬を知ってても知らなくても楽しめる物語(2)】
競馬の歴史を知らない者は、トウカイテイオー(ウマ娘)の波瀾万丈なアスリート人生を初見で味わえるというメリットがある。しかしそれは決して華々しい凱旋ばかりではない。
{netabare}先ずは彼女の夢が序盤で潰える。この絶望と悲嘆は1期から競馬ミリしらを続けてきた猛者にしか味わえない感動でもある。{/netabare}
テイオーがずっと口にしてきた『無敗の三冠ウマ娘』とは、その世界でも一生に1度しか出られない『皐月賞』『日本ダービー』『菊花賞』の3レースに無敗で出場し、1着制覇したウマ娘に与えられる称号だ。この称号を持つ1人であるシンボリルドルフに憧れ、同じ学園に通い、並び立とうとするのが1期でも描かれたトウカイテイオーというウマ娘なのである。
そして第1話では皐月賞と日本ダービーを制して6戦6勝の二冠、夢を現実にする王手をかけたところまでを描くのだが、『ウイニングライブ』でのわずかな足取りの乱れから、トレーナーは彼女を病院で受診させることにする。その鋭い読みは彼女の選手生命を守ったに違いないが、医者が診断した骨折の全治期間は半年。5ヶ月後の菊花賞に間に合わない日数だったのだ。
競馬を知らなかったからこそ、この「全治6ヶ月」の壁に挑むテイオーを純粋に応援できた。1期でも骨折したウマ娘は描かれていたが、皆揃って俯きがちでどんよりとした姿であった。しかし彼女は明るくめげない。悲壮感に囚われず、トレーナーに菊花賞に出場する決意を伝えて協力を仰ぐ。そしてトレーナーの指示にきちんと従い適切なリハビリを行っていく様を第2話で魅せてくれる。ちょっとばかしギャグ描写も入るけどもウマ娘シリーズではご愛敬だ。
【変わらない魅力:競馬を知ってても知らなくても楽しめる物語(3)】
退院し、松葉杖を置き、ギプスを取り去るトウカイテイオー。この高い回復力の描写から、競馬ファンももしかしたらこの作品では「もしトウカイテイオーが菊花賞に出ていたら」というIFストーリーをやってくれるのか?と期待に胸膨らませたのではないだろうか。
{netabare}だがそんなご都合主義を易々と見せてくれる作品ではない。元々のモチーフが「競走馬」であるこの作品で「骨折」というものを軽々しく扱う筈がない。これは少し調べれば誰でも直ぐにわかる競馬の「現実」だ。
擬人化ならではの魅せ方をしている。10月半ば、テイオー自身が医者を受診し、その帰り道を走ってみせる。そして車に────追い抜かれる。時速70kmに到達するウマ娘の足が車より遅いということは、テイオーの足が完治していないという何よりの証拠であった。
トウカイテイオーが菊花賞に出場する。そう信じて全力のトレーニングに打ち込むナイスネイチャらライバルたちに、不眠不休で自身の復帰プランを練り続けてくれるトレーナー────全てを確かと受け止めて、“テイオー自身”が決断する。{/netabare}
{netabare}「約束、守らなきゃね。『ギリギリまで粘る。でもその時に医者に止められたら止める』だったよね。ボク、菊花賞──」
「まだだ!まだ諦めるのは早い!何かきっと方法があるはずだ!テイオー!俺が絶対お前を無敗の三冠ウマ馬にしてみせる!!」
いつの間にかトレーナーの方が諦めが悪くなっているのが良い。トレーナーというキャラは後のゲーム版の、プレイヤーの分身になるポジションなので個性が与えられているのを疑問視する意見もあるのだが、“ツボ”を外さない間はそれも正義である。今この時だけは「トウカイテイオーのトレーナー」だからこそテイオーの夢────テイオーファンの夢の丈を代弁してくれる良キャラとなっている。
しかし、テイオー自身が諦めた。その理由が本当に良い子で、スポーツマンシップに則っており感動する。{/netabare}
{netabare}「まだ全力で走れない。なのに無理矢理菊花賞に出て全力のみんなと戦うなんて、ボクにはできない」
「……………………」
「ありがとね、いろいろ」
「……………………」
「もう、なんて顔してんのさ」
「…………すまん」
「もういいってば~」
こうして菊花賞を断念したテイオーは観覧場でライバルたちの走りを見届ける。{/netabare}
【変わらない魅力:競馬を知ってても知らなくても楽しめる物語(4)】
{netabare}ファンファーレが鳴り響き、各ウマ娘たちがゲートに入っていくところから、いよいよテイオーの夢が終わっていく。レースの始まりが彼女の夢の終わりであることを決定的な瞬間として描く。その音が遠ざかっていく音響の使い方もとても効果的だ。
遠ざかっていく夢を見ながら、テイオーは自分だったらどうするのか、というイメージをレースに重ねていく。リハビリ序盤にトレーナーから、復帰のためのイメージ作りをメニューに組み込まれた伏線がここに活きてくる。そしてそのイメージこそが「テイオーが菊花賞に出ていたら」というIFであり、そのイメージで自分がトップに立つ瞬間を見ることで、苦渋の決断にも涙は見せなかったテイオーがついに涙を流すという演出組み立てが本当に見事である。ここで個人的にはもう目頭が熱いのだが、ここでは終わらない。{/netabare}
{netabare}(言わせない言わせない言わせない言わせない!テイオーが出ていればなんて絶対言わせない!!)
主人公不在のレースはとても熱かった。
ライバルたちは、テイオー不在で安心してレースに臨んでいたわけじゃない。悔しかったのだ。この場にいないテイオーになお注目する実況解説や観客。そんなテイオーより自分が速いんだと証明出来ない現実。だからこそ彼女らは走って魅せる。「自分たちの方が上なんだ」と。そんな意地と涙の疾走がテイオーのイメージを突き破る演出。ライバルたちは彼女の予想よりもずっと成長していた。
「ずるいよ、みんな。かっこよくなっちゃってさ」
今までシンボリルドルフだけの背中を見ていたテイオーに、ライバルたちの姿がくっきりと浮かび上がった瞬間。溢れだしたかのような自然な声援と可愛げある悪口。これは唯の戦わずして夢破れた菊花賞ではない。その時のライバルと走れない悔しさと、そのライバルたちに一馬身置いていかれたような寂しさも合わさった苦い「不戦敗」である。その描き方が本当に見事であり、これまでキャラクターの死や別れでしか泣けなかった私がボロボロと涙を流す、至高の感動が第2話という序盤から芸術的に盛り込まれている。{/netabare}
【他キャラ評価】
メジロマックイーン
テイオーのライバルであり同じチーム『スピカ』所属。3話からは彼女とテイオーが同じレースに出走する『TM対決』を描く。
彼女もまた史実通り『天皇賞』を制し、その連覇を目標に掲げていた。どちらかが勝つとき、どちらかが負けて目標を見失う。このジレンマな展開を描くために1期でマックを加入させたのかと考えると制作陣の計画力に脱帽してしまう。
1期よりも落ち着いた印象があるのはスピカに馴染んだ証かな。「お嬢様」という恵まれた環境を独占したりひれらかしたりするのではなく自身のライバルであり本作の主人公・テイオーのためにも惜しみ無く提供する……そういった展開がレース外の日常に彩りを与えており、時たまのギャグも面白い(主治医とか)。
{netabare}TM対決を制したのは長距離に適正のあったマックイーン。無敗も三冠も失ったテイオーは燃え尽き症候群に陥る。そんな彼女を療養所に呼び出し、語らいの中で出た台詞が本当に尊い。
「これからは私があなたの目標に。走る理由になって差し上げます」
ここからEDの一枚絵が、シンボリルドルフを追いかけるテイオーから手を差し伸べるマックイーンに変わるのが粋である。{/netabare}
ミホノブルボン
史実の特異な調教エピソードから「サイボーグ」のような無感情でストイックな面を推し出し登場したウマ娘。トレーナーを「マスター」と呼び、テイオーと同じく『無敗の三冠ウマ娘』を目指す理由を「マスターの指示なので」と言ってのける様は『Fate』シリーズのサーヴァントのようでもある(笑)
{netabare}そんなメカメカしい彼女が第7話で感情を剥き出しにする。ライスシャワーに敗れ、マスターとの約束の三冠を奪われた。だからこそ、今後の彼女の走る理由はライスシャワーにある。本作のウマ娘は「大記録」を掲げた夢を喪い、されど「ライバル」の存在によってまた走り出す。
「あなたはヒールじゃない、ヒーローなんです!私より強いウマ娘であることを、レースに出て証明しなさい!」
命令なようで1人のファンによる切実な願い。その願いだけを支えにライスもまた再び走る覚悟を定める。{/netabare}
ライスシャワー
うーん、やっぱり元ネタは競馬だからね。いつでも1着を取った子を讃えてウイニングライブを盛り上げる行儀の良い世界ではないのは納得いくのだけれど……ライスはなぁ、守護らねばなぁ!
{netabare}観客の期待とは違う結果をもたらしたウマ娘にはときにブーイングや陰口に晒されることもある。ミホノブルボンの三冠、マックイーンの天皇賞3連覇────そんな「大記録」だけを阻んできた彼女に付けられた二つ名は“黒い刺客”。完全なる悪役扱いだった。
自分が走ることで他者の夢が壊れるのならば、いっそ走らない方が良いのかも知れない。
そんな葛藤を幼女的なキャラ付けを施されたウマ娘にさせることで反則的な愛おしさを生み出している。{/netabare}
ツインターボ
「幼女的」と言えばもう一人、このツインターボ師匠である。
{netabare}序中盤、チーム『カノープス』を捲き込んでずっと見せてきた「アホの娘」によるコメディリリーフが第10話に効いてくる。駄々っ子当然だからこそ、レース界隈に漂う「テイオーの引退」ムードに真っ向から立ち向かい、心の折れたテイオーに「諦めない心」を自らの走りで伝える姿に、まさかまさかで泣かされてしまった。そりゃあ皆から師匠と呼ばれるでしょうよ(涙){/netabare}
{netabare}師匠が伝えた諦めない心がテイオーに伝わり、そのテイオーが不治の病で苦しむマックイーンを勇気づけるべく有馬記念に向けて立ち上がることになるため、ツインターボ師匠は、主役のさらなる成長と勇気を与えた非常に重要度の高いキャラクターだったと言える。{/netabare}
【総評】
素晴らしい出来映えをした2期である。どうしてもウマ娘のいる世界観説明もしなければならなかった1期と比べて話の厚みが圧倒的に増しており、史実そのものに大きなドラマ性のあるトウカイテイオーを主人公にしたからこそ、期待と不安、希望と絶望を繰り返しながら最後には奇跡を魅せて、視聴者を感動の渦に巻き込む物語となっていた。上記で私が語った部分は1クールのほんの序盤でしかない。3話目以降もウマ娘の様々な苦楽と努力────アスリートによるスポーツ根性モノの醍醐味が詰められている。たった2話であれだけ語れるのだから、本作の物語の部分は濃密以外の何物でもないことはよくわかっていただけるだろう。
主役はテイオーでありストーリー展開も彼女の元ネタに則って描写しているものの、擬人化したことにより加わった独自解釈に他のウマ娘のストーリーが絡み合って影響し、馬ではなく“ウマ娘”である彼女の成長や勇気に繋がるようプロットが組み立てられており秀逸。とくにメジロマックイーンとはライバルであり親友でもあるという関係で描くことで、5話のような激走から6話や11話のような尊いシチュエーションまで幅広く親密な2頭?を描いており非常に眼福である。
あまりに感動回が多すぎて少し押し付けがましく感じてしまう人もいるかもしれないが、このシリーズは他作と違ってコミカルな描写にも余念がなく、レギュラーキャラからモブキャラに至るまで非常にオタクのツボを心得たギャグもかましてくれるので、決して「泣くため」だけに観る作品ではないというのもまたすごいところだ。
とりわけ競馬に詳しい人であればあるほど何気無いところに盛り込んだ競馬の史実ネタに気づくことができるので、その筋の人にとってはさながら「宝さがし」のような気分で本作を何度も見返すこともできるだろう。
作画も1期よりクオリティーが上がっている。
ルーズの部分では露骨に3DCGを使っていたり、簡単に結果のみを流すレースでは棒人間ならぬ棒ウマ娘を描くなど、手を抜くところは抜いているのだが、その分アップになったときの細かな表情、スパートをかける際に踏みこむ脚の伸び具合などはより彼女たちがレースに挑む際の「感情」を見ている側に感じさせてくれる。『アップとルーズで伝える』とは正にこのことだ。
変わらない部分としてはやはり、普通なら前につんのめって転んでしまいそうな彼女たちの前傾姿勢の走りが可愛くも美しく、そしてカッコいい。トップを争う2頭?のウマ娘には毎度、息を呑む迫力がある。2回しかないがウイニングライブもそこらのアイドルアニメに見習ってほしいくらいのクオリティーだ。
音楽も声優演技も見事。Machicoさんは歌手でもありながらテイオーの天真爛漫なキャラを印象付けるとても可愛いアニメ声で吹き込んでくれているし、大西沙織さんも本作では少し落ち着いたメジロマックイーンを難なく演じている。そんな2人が各々のキャラとして歌うED『木漏れ日のエール』は様々なウマ娘の苦楽を描く本作をしっとりと〆る味わい深い良曲だ。話に応じて1枚絵を新規に差し替えたり、歌のパートを入れ替えたりする細かな気配りで視聴者にさらなる感動を一塩、与えることにも成功している。
アニメとして総合的に完成度が高く、競馬ミリしらの私でも楽しめた。競走馬を知らない人とよく知っている人、各々違った観方を交えつつ両者が楽しみ感動に涙できるウマ娘シリーズ屈指の名作と言えるだろう。