ostrich さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.0
作画 : 3.0
声優 : 3.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
第1話は神回
タイトルに書いたことがすべてだ。
一応、全話鑑賞した後、第1話だけを何回も観ている。
これは原作についても同じだ。
私は原作をリアルタイムで読んでいて、アニメ(本作)で言うところの2話目以降も読んでいるが、結局、第1話が最も面白かったし、読み返したのも第1話だけだった。
原作を読んでいた当時は気が付いていなかったのだけど、今、改めて本作で物語を振り返ると、第1話はほとんど村上春樹の短編だ。そして、私は村上春樹の短編が大好きなのだ。
どの程度認知されているのかわからないが、村上春樹はラノベの始祖という言説があって、個人的にはそれほど腑に落ちるものではないのだけど、本作の第1話についてはバッチリ当てはまる。むしろ、その言説における「ラノベ」とは本作の第1話とそのフォロワーのことじゃねえの?と思うほどだ。
ただ、この相似は原作者が村上春樹に影響を受けているとかいないとか以前に(もちろん、影響を受けていないわけはないとは思うが)、作法的な部分が大きいと思う。
村上春樹は自らの小説の作法として「一度、事細かに最後まで書いて、その後、エピソードを削っていく」と語っている(それをしないと小説にならないとまで語っている)のだけど、本作の第1話も後続の物語まで書いた後に、再構成した結果、相似が生じたのではないだろうか。
では、この作法がどのような効果をもたらすのか?
実は私は本作の第2話以降も読み物として(何ならラノベ、アニメ等のオタクカルチャーとして、と言い換えてもいい)はかなり面白いと思ってはいる。だが、正直なところ、読み進める間、第1話で私が想像力を働かせていた部分に余計な解説を加えられているという感覚もあった。
そこから逆説的に言えば、村上春樹の作法(かつ、おそらく本作第1話の作法)は受け手の想像力を喚起するためのものということになるだろう。だからこそ、彼は「それをしないと小説にならない」と語っているのだ。
さて、小説の話ばかりになってしまったが、ここからはアニメ(本作)の第1話について語ってみたい。
評価そのものはタイトルと冒頭に書いた通りなのだが、何より原作第1話のテイストを深く理解して作っていることに好感を持った。そして、それが最も顕著に表れているのは、シナリオや作画や演出よりも牛尾憲輔の音楽だと感じた。
彼の音楽もまた受け手の想像力を喚起する。だからこそ、「リズと青い鳥」のように受け手の想像力が必要となる作品の劇伴に選ばれる。
彼を指名した時点で本作の第1話の成功は保証されたようなものだったろうし、彼を指名したこと自体、本作の作り手たちが原作を深く理解していた証だと思う。そこは最大限に評価したい。
結局、私としてはシリーズ全般での評価に意味を見出せないほど、第1話が刺さったのだけど、こういう作品は他に思い浮かばない。
もちろん、面白い第1話、印象的な第1話はいくらでも思い浮かぶ。
だが本作の第1話はそれらとは趣が違う。シリーズものでありつつ、完全に独立した物語として成立しているのだ。ゆえに、たとえば、ブギーポップの「(敵は)人を食うものだ」というセリフひとつとっても、前フリとしてではなく(実際は前フリなのだが)、独立したメタファーとして機能してしまう。これはかなりの離れ業だ。
そして、そこに牛尾憲輔の音楽が鳴る。
ああ、もう、オレも放課後の屋上でブギーポップと語らいたい。
{netabare}自分が知らないうちに世界の危機が来て、去っていったことに唖然としたい。{/netabare}
そんなわけのわからない気分にさせられる。
改めて言おう。本作の第1話は神回だ。