薄雪草 さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
戦争の帰結するもの。
世界の片隅。それは、わたしが住むこの街のこと。
浦野すずは、ランドセルを背負った "あの童女"。
北條すずは、スーパーで買い物する "あの婦人"。
戦時下の女は、同調圧力に抗うことなど知る由もない。
戦争は、男たちの職業であり、道具であり、手段である。
が、母を、姉妹を、娘を、守れず、遠つ国で落命していった。
遺骨は、「大日本帝国」の捨て石と朽ち落ちていく。
遺影は、寡黙にして「太平洋戦争」の語ることはしない。
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当時、15歳の少年兵でも、今年で91歳です。
終戦80年を数える頃には、ご存命ではないかもしれません。
あにこれを楽しむ方は「戦争を知らない子供たち」。
すっかり大人になって、ご自身なりの評価をなさっていらっしゃるでしょう。
お亡くなりになった軍人さんは230万人にのぼります。
日本の国外で亡くなった民間人は30万人以上だそう。
空襲などで亡くなられた国内民間人は50万人にもなります。
そして、日本傷痍軍人会は当初35万人もの戦傷軍人がいました。
しかし、民間人の戦傷病者数は、実はよく分かっていません。
そもそも統計が取れているのか、残っているのかさえ分かりません。
そして、軍人さんには恩給の支給がありますが、
当時のすずさんのような民間人には、適用されません。
例えば、片手親指の欠損は、恩給だと240万円/年(階級にもよるのだそうです)。
現行の障害年金ですと、片腕の欠損は、約78万円/年です。
片手の親指の欠損でしたら・・・0円です。
(数字にはうといので、誤りがありましたら教えてくださいね。)
制度設計にはいろんな物差しがあるので、一概に平等公平とはいきません。
だけれど、すずさんは、ただ日常を過ごしているだけなのに、
機銃掃射で殺されそうになり、投下爆弾で右腕を失ってしまいます。
ひたすら勝つことだけを教えられ、信じ込んだすずさん。
負けようなどとは露とも思わないし、考えてもいけなかった。
絵筆を右手に取ることが永遠にできなくなってしまっても、呉港に浮かぶやまとの必勝を、なお、夢に見ていたのです。
青空市で、あの "ごった煮" を口にするその瞬間までは。
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今年も終戦記念日を迎えました。
テレビでよく見たあの日の場面から76年になります。
原爆ドームが映しだされると、広島の方はどんな思いをして暮らしていらっしゃったかと思いを馳せます。
戦争の惨禍と、身に起きた不幸と、"過ちは繰返しませぬから" を、どう受け止めてきたのだろうかと訊いてみたくなるのです。
本作に感化されて「昭和天皇実録」を図書館で借りるようになりました。
25歳で即位されたのち44歳に至る戦時下のご苦労をしのび、
戦後は日本の象徴として尽力なさった姿がそこに読み取れます。
すずさんにも、天皇にも、等しく「日常」がありました。
それをよく知ることは、同時代に生きる者にできることなのです。
いつか、東京九段の "しょうけい館" にも行ってみたく思います。
それぞれの足跡を、それぞれに辿ってみたい。
あの暗い時代を、もう一度見つめ直すことで、明るい未来を、両の腕であたためてみたくなったのです。