nyaro さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
本作は既に古典になりました。面白くはないです。
この映画そのものが既に過去のものになった気がします。令和の人間が、スマホやウォシュレットどころか、水洗トイレもインターネットも無い時代に戻りたいと思うか。物を持つ豊かさ、から、生活の質の豊かさに変わった時消費社会に変容したのでしょう。昭和の何もない時代には憧れないと思います。
ノスタルジーとはその時代が良かったという思い出に支えられています。しかし、子供の頃は幸せだったという世代は終わりました。スクールカースト、裏サイト、孤独やイジメへの恐怖、中学受験そういう子供時代を過ごした人間にとって、過去はもはや戻りたい時間ではありません。親の加護のもと、無条件の子供の幸せを享受できるのは、長くて幼稚園までです。むしろ、大人になってから子供時代にやりたくてやれなかった秘めた憧れを楽しむ時代になりました。
コミュニティが崩壊したこともその要素になるでしょう。商店街での井戸端会議は無くなりました。人のつながりはもはやスマホになったわけで、スマホが無い時代を懐かしむ人は相当な年齢ということです。
本作が名作だという世代は恐らく1955年から85年くらいまでに子供時代を過ごした人たちでしょう。1985年から95年に、小学校時代にバブルだった世代では、なんとなく理解できる。それより後になると、この三丁目の夕日的なノスタルジーは理解できないでしょう(ただし、地方ではタイムラグはあるかもしれません)。本作の公開が2001年ですから、その時点での小学生前後の世代はしんのすけ側なのではないでしょうか。
本作をどちら側で見るかは年齢の問題ではないという事です。今の30代の人にはもはや本作の昭和懐古主義的な感性はわからないと思います。
これは日本の経済成長とも符合します。働けば報われた時代が終わったということでもあります。
つまり、本作は既に古典だ、ということです。
さて、アニメの話ですが、特筆すべきは、ケンとチャコの魅力です。悪役でない悪役。冷静な態度。諦めの良さ。服装といい髪型といい、ジョンとヨーコなんでしょう。確信犯…つまり狂気ではありますが、自らの思想に殉じようとした姿勢には共感できるキャラでした。チャコがメチャメチャ美人で魅力的でした。
匂い…時代の匂いに注目したのもいいですね。まさに、時代は匂い、言葉では表現しずらいけど明確にかぎ分けられる…という感性です。
また、何が正しいかという解答は明示できない、というのも良かったと思います。
ただ、です。面白くはなかったです。クレヨンしんちゃん映画に求める活劇的な要素がやはり圧倒的に不足していました。作家性が出すぎて、エンタメではなくなってしまいました。
では文学としてはどうか。先ほど述べた通り、本作は古典です。クラッシックは時代の検証を経て、生き残るかどうかが決まります。本作でのノスタルジーは時代を超えた普遍性を持つでしょうか。