ナルユキ さんの感想・評価
3.0
物語 : 2.5
作画 : 3.5
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
先ずは1本のアニメとして完成させよう
15分アニメとして成立しているものの、その後の実写パート『やくもの放課後』は決して少なくない人が拒否反応を見せてしまっている。
昨今のバラエティ番組を見るに世で活躍する多くの大人が勘違いしているようだが、私たちアニメオタクが声優の顔出しも好きだというケースはそこまで多くはない。いい歳してアニメを観てるということは性嗜好すら二次元に向けてしまっており、キャラクターに命を吹き込む声優さんたちを尊敬してはいても、三次元である彼女らのご尊顔まではまるで求めていないのである。
そこを考慮できていればAパートはアニメ、Bパートは実写なんて無謀な構成にはしなかったと思うが、その是非は……?
【ココがつまらない:知らない娘たちの無難な女子旅】
予め書いておくが、私は実写パートを全否定するつもりはなく、偏見もない。アニメとキャラクターがいればその中の人に興味を向ける層は必ずいるし、私も他作品では『22/7 検算中』というアイドル兼声優によるバラエティ番組を楽しく観ていたこともある。それに本作の最大の目的は「陶芸の町・岐阜県多治見市のPR」だということも理解している。そのためにアニメだけでなく実際の多治見市を写して紹介していく番組を挿入するというのは妙案だと思う。
しかし、最初から入れていくのは勇み足というものだ。
本作には原作マンガがあるが、その知名度はお世辞にも高いとは言えない。出版はプラネット?悪いが聞いたことのない会社だ。フリーペーパーなんて粋な計らいも見せているが、それ故か単行本が書店の「や」の棚に並んでいるところは見たことがない。
つまりこの作品、テレビ放映と配信を機にようやく全国の目に触れ始め、私のようにアニメから入った視聴者が大半を占めると考えていい。そんな視聴者層が第1話15分のみを試聴した状態なのに、のっけから中の人たちが「ここが姫乃ちゃんの家のモデルとなった喫茶店で~す♪」と聖地を紹介していく。これを第1話で流すのは時期尚早ではないだろうか。
失礼ながら、メイン声優の知名度もそれほど高くない。出演はプリキュアシリーズやプリティーシリーズなどの女児向けアニメが主で、そちらを趣味とする“プリキュアおじさん”とか“アイカツおじさん”以外の層は存じ上げないだろう。そんな彼女らの顔出しの需要はまだまだ低い。
{netabare}そして企画に面白味がなかったのが実写パート最大の問題だ。
無名のキャストでも面白い企画に則ってハジけてしまえばそこから名を上げる切欠にもなる。『水曜どうでしょう』の大泉洋がそうだろう。
しかし本作の実写パートは局地的にしか人気のないキャストでお送りするコロナ禍版『なりゆき街道旅』。多治見市の美味しい御飯処や体験工房、アニメの聖地(予定)や市の名所を巡っていく内容にまるで独創性が感じられない。陶芸体験でろくろを回してたら形が大崩壊!なんてベタベタなハプニングしか見せてくれないのだ。{/netabare}
ハッキリ書いて出演する声優が好きでないと真剣に観ることができない内容だ。これを円盤の特典映像などにするでなく、30分枠の尺埋めに使ってしまったことで「○○切り」の要因になってしまっただろう。
【ココもつまらない:焼き物ラップ】
実写パートに足を引っ張られたアニメも特段、素晴らしい出来とは言いがたい。既刊33巻の原作から選出されたエピソード集にしては微妙なものが全話の3分の1くらいの割合で点在している。
{netabare}序盤は2話と3話がハズレだ。とくに第2話は茶碗の各部名称や全国各地の焼き物の名称・地名・特徴を連々と言い並べるだけで趣がない。「4拍子で覚えましょう」というのも即興ラップのお粗末感が出ていて非常に聞き苦しい。やるなら本気で作詞作曲に取り組んで、ミニモニ。の『ロックンロール県庁所在地』くらいのものを用意すべきだろう。総じて、焼き物に対して逆に取っつきにくく感じた回だった。{/netabare}
{netabare}4話では主人公の豊川姫乃(とよかわひめの)と先輩の青木十子(あおきとおこ)との実力差が茶漬け茶碗を通じて描かれており、姫乃はジェラシーを抱きつつも十子に向けて「もっと焼き物が上手くなりたいです」と奮起する──という序盤、唯一の良回。
只、2020―21年現在がコロナ禍で過敏な状態にあるからかも知れないが、他人が口を付けること前提で茶碗を貸したり返したりするものなのかどうか疑問に感じた。私だったらどんなに良い物でも茶碗は貸すのではなくあげてしまうのだが(鑑賞目的なら別)。{/netabare}
【でもココが熱い!:姫乃、父のために頑張る】
{netabare}中盤、迫る美濃焼きコンテストに向けて姫乃が作るのはなんと陶器の座布団。日干しした座布団は熱すぎてすぐには使えないことに着目した彼女は、干す必要がない夏用のひんやりとした座布団を父のために作ろうと考えたのだ。
題材にしてはかなりインパクトのある展開で、「そんなものが本当に作れるのか?」と初めてこの作品の陶芸描写に興味が湧いてくる。その関心を裏切らず、姫乃はいかにして座っても割れない耐久性を作り出すか。座り心地の良い柔らかさを作り出すか。色はどうするかのヒントを日常から得て試行錯誤する──文化部モノらしい王道的な展開と姫乃の父・刻四郎に「喜んでほしい」という想いが合わさって、序盤とは打って変わった芯のあるストーリーを最終話まで見せてくれる。{/netabare}
【他キャラ評】
久々梨 三華(くくり みか)
みんなウザいウザい言ってて可哀想だなー、テンション高い女の子の魅力わからないかなー、と思って最初は観ていたけども……確かにウザい(笑) 流石に精神年齢が幼すぎるのではないか。件の焼き物ラップの発起人でもある。
{netabare}天才肌であり美濃焼きコンテストでも作品が賞を受けているが、「アイデアの神様が降りるまで~」と部室でだらけていたりふざけていたり、それを部長の十子に叱られると逆ギレして出ていってしまうなど、普段の素行からは納得がいかない。{/netabare}
登場人物が全員良い娘というのはつまらないかも知れないが、作品を通して多治見市や陶芸の魅力を伝えるには彼女の性格は余計なノイズのようにも感じた。
成瀬 直子(なるせ なおこ)
部室に入り浸ってるけど部員ではない。この設定は他の日常モノでもありがちだが、本作ではあまりその距離感を活かしきれてない。結局部活動に参加することが多いのなら部に入ってもいいのに、と思うのが現状。もちろん何か入らない理由があるのだろうから2期に期待する。
距離が近いからこそ主人公・姫乃を常に観察しており(なんと日記もつけている)、だからこそ彼女の心の異変をいち早く追及できる、割りと良い理解者なだけにますます距離感が勿体ない。
豊川 刻四郎(とよかわ ときしろう)
このジャンルでは珍しい男性のキーパーソン。彼を喜ばせるというのが娘・姫乃の目標。
{netabare}というのもこの父、娘には当然気遣って感謝を述べるものの、本当に良いものにしか自然な笑みを見せてくれない。陶芸を始めたばかりの姫乃の作品ではその笑顔を引き出せないのである。
そんな態度が隠せていないところや父親役初挑戦の石川さんの演技、リストラからの脱サラという設定もあってあまり完成された大人には見えない。そこが妙にリアルにも感じられ、人気こそ得られないだろうが私は嫌いじゃない。{/netabare}
【総評】
中~終盤に見所があったアニメパートだが、30分アニメの構成なら終盤の展開を5~6話の中盤に持っていくことも可能だったと考えると、やはり毎話後半に入る企画力のない実写パートは大失敗だったと言える。他の日常系アニメは15分1エピソードでもそれを2本ずつ流して1話としているのに対し、本作は実写パートに寛容でなければ単純に尺が半分しかない。同じ年に2期が放映できるならその内容を本作に回せたのではないのか?その可能性を追及せずにはいられない。
内容が濃ければ15分1エピソード1本でも赦したしそこを全力でプッシュしたいところだけども、残念ながらハズレ回も多い。作画や音楽も他の有名どころと比べて勝る部分もなし、1話を観た満足度に大きく欠けている。
アニメにしても実写にしても、ご当地アニメ狙いの悪いところがあからさまに出てしまってもいた。実写は言わずもがな、アニメパートも町や名所、水着回への繰り出し方が強引だったし、何よりも女子高生たちによる日常・青春系アニメの筈なのに日常会話が焼き物の知識をひれらかしたり多治見の特色を紹介するものばかりでなんだか女子高生らしくない。
あからさまと言えば、時折メインキャラ同士が絡み合う時に「ポロロン♪」という安っぽい効果音が鳴っていたが、あれでわかる。製作陣が日常系が好きな人に対して「百合っぽい所見せれば喜ぶんでしょ?」と思っていることを。
なんて酷い振興だ。岐阜県多治見市がどれほど追い詰められているのか図りかねるが、振興の手段として女子学生の日常漫画を作り、アニメ化し、その萌えに便乗して陶芸の町をアピールするという魂胆が透けて見えてしまってるのである。その熱意が過剰だからこそ劇中の会話や展開が不自然、ご当地や題材である焼き物を見せるばかりで面白くない序盤になってしまった。それらの目的が一段落したからこそ、中盤から漸く軸のあるストーリーが展開されたのだろう。しかし全体的なわざとらしさはクライマックスになるまで続く。
「女子に○○させる」系のアニメがうんざりされることもあるのはこういった作品が世に出てしまうからだ。本作の誕生経緯からしてご当地推し・題材推しは避けては通れない描写だったのかも知れないが、そこを抑えて女子学生らしい描写とバランスよく描いて1本の作品として完成させなければ、熱意ある多治見アピールも観る人は決して増えない。終盤が悪くなかったからこそ、予定調和の2期放映があるからこそ、その点は厳しく批判する。