「翠星のガルガンティア(TVアニメ動画)」

総合得点
88.0
感想・評価
2871
棚に入れた
14411
ランキング
135
★★★★☆ 3.9 (2871)
物語
4.0
作画
4.0
声優
3.8
音楽
3.7
キャラ
3.9

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.0 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

面白いけど設定がやや勿体無い

ハイクオリティなSFアニメーションがウリの『Production I.G.』の手がけということもあり、開始冒頭の宇宙での戦闘シーンにまずは驚いた。当時としてはどこよりも上手く3DCGを使いこなしており、ヒディアーズと呼ばれる怪物やマシンキャリバーと呼ばれるロボットの重量感が損なわれておらず、通常アニメとの調和や壮大な宇宙を描写した美術背景も素晴らしい。
そんな劇的な宇宙戦争の最中、主人公・レドとマシンキャリバー・チェインバーは時空の歪みに巻き込まれて友軍と離ればなれになってしまう。

【ココが面白い:翠星となった地球という独特で美しい世界観】
レドとチェインバーが漂着した地球は、かつてあった陸地と文明が海の底に沈んだ水の星となっていた。青い海はあっても白い砂浜はない。見渡す限りの海、海、海……常夏のパラダイスのようでいてどうもそんな気分にはなれない異質な景色が、チェインバーの分析によって地球だと判明するまでの幕引き……第1話としての掴みはバッチリだと評する。
大地の代わりに巨大な船に足を踏みしめる地球人の代表──ガルガンティア船団員──の姿や暮らしは、現代から1、2歩後退しつつも海上に特化した独自の文明を築き上げている。その世界観がよく練られていて非常に興味深い。きっと主人公のレドと一緒に驚きの仕掛けや風習にドギマギすることだろう。
ただレドというキャラクターも中々の曲者だ。兵士として宇宙生物を殺すことを義務づけられていた少年に常識的な倫理観は持ち合わせてなかったのである。

【ココがひどい?:レド(宇宙軍人)と地球人の価値観の違い】
宇宙の軍人であるレドと船団員の少女・エイミーとでは先ず「やっつける」の意味合いが異なっていた。
{netabare}エイミーは「やっつけて」と頼めばレドがチェインバーを使って人質を救出し海賊を追い払ってくれると思っていた。しかしレドはチェインバーの超武装で海賊を1人逃さず殺してしまうのである。
確かに海賊は悪だ。人質には傷ひとつ付けずにそれを全て滅したことは、見方によっては称賛に値する。だが塵も残さず蒸発させるというまた凄惨な殺害描写を見せられたら普通の感覚ではこう思うだろう、「やり過ぎだ」と。
自分がレドに頼んでしまったことで悪人とはいえ決して少なくない人の命が摘み取られてしまった。この結果にエイミーは大きなショックを受けてしまう。海賊側も報復としてさらに大人数を送るという事態の悪化も招いてしまい、実に賛否両論が出そうなシーンだった。
レドの蛮行はこれだけに留まらない。病人の前で「なぜ弱い者は処分されないのか」と真顔で問いかけてきたり、遊ぶ子供を見て「この船に規律はないのか」と顔をしかめたり、チェインバーを働かせて自分はその監視以外何もしなかったり────海の上で平和で自由に、かつ忙しなく暮らす船団員とは相容れるのが難しい機械的な思考、効率重視の観点からくる批判や行動に角が立ってしまう。{/netabare}
だが見限ってはならない。物語を通してレドの価値観は徐々に変化していく。

【でもココが面白い!:レド(宇宙軍人)と地球人の異文化交流】
戦うことでしか存在意義を見出だしていなかったレドが、船団員との交流を通じて「生活」というものを学び、人間性を呼び覚ましていく。
“働く”って何だろう?“お金”ってどうしてあるんだろう?当たり前すぎて逆に言葉で説明しづらいものを感覚で、試行錯誤して掴んでいくレドの様子がなんだか可愛くて面白い。そしてその根本であり、各人によって様々に存在する“欲”を海中への探求心やエイミーへの恋慕として見出だしていくのである。{netabare}後半はクジライカをヒディアーズと同一視して船団を離れてしまうものの、その真意は「エイミーや船団を守ることにつながる」とあり、いつの間にか所属する人類銀河同盟よりもガルガンティア船団を心の拠り所とし、軍規を捨てて自分の感情で動ける人間に成長したところを見せてくれるのだ。{/netabare}

【他キャラ評】
チェインバー
マシンキャリバーと呼ばれるロボットにして、パイロットであるレドの啓発支援としてのAIを持つ彼もまた立派なキャラクターだ。ポジションとしては正に“相棒”と言ったところ。
第1話にして「生殖の自由」など固い表現を使えば言っていい言葉なのか疑わしい発言を杉田ボイスで多々するので必聴の価値がある。
{netabare}ベタベタではあるが、シンギュラリティを超えてレドを救う展開は大抵の人が目を潤ませるだろう。{/netabare}

エイミー
本作のヒロイン。小麦色の肌にバランスの良い肢体、ヘソ出し民族衣装と良属性マシマシ。
{netabare}特使という役を与えられたとはいえ、かなり根気強くレドとの交流を重ねており、健気である。
印象に残ったのは魚の干物を食べるところをレドに見せて安全なものだと教えるところ。一応チェインバーが翻訳機能を使って通訳を努めるが、序盤のレドと地球人には言葉の壁があり、それを打破する有効かつ大胆不敵な手段に押しの強さが伺える。
個人的にかなり好みな女性キャラクターだ。{/netabare}

ピニオン
{netabare}小心者な不良から一転、後半ではレドを唆して共にガルガンティア船団を離れてしまうなど物語を良い意味でかき乱してくれる。
本作も女性比が圧倒してるものの、こういった男性キャラにも一定の活躍があり、悪い意味で中途半端だけども様々な層にオススメしやすい。{/netabare}

【総評】
ジャンルへのこだわりを捨ててフラットな目線に立てば、序盤からかなり面白いと評せる作品。ロボットアニメとして観てしまうとユンボロという地球産のロボットが低スペック過ぎて、ほぼチェインバーの無双シーンしか見られず不満足になる。地球にとってマシンキャリバーはオーバーテクノロジーそのもの。それでモブロボをちぎっては投げる様は展開的に“なろう”に近いと言ってもいい。
しかし宇宙からやって来た少年と常夏の世となった地球の少女たちで織り成すSFヒューマンドラマ──とりわけジュブナイルとして見れば中々の出来だ。そしてそのジャンルとしてはやはりチェインバーに大きなオリジナリティを感じる。
男性(アンドロイド)でも女性(ガイノイド)でもない正に“機械”という第3の性別を持ち、レドとエイミーの両者を通訳で繋げる。軍機としてのお堅さが時としてコミカルにも描かれており、観てて飽きが来ない。数少ない戦闘シーンも全て映えている。本作には欠かせない存在だ。
終盤のシナリオは“虚淵”節がよく効いている。{netabare}『魔法少女まどか☆マギカ』や『仮面ライダー鎧武』でもあった“化け物の正体は人間である”展開。亡くなった人材にいかにして代わるか頭を悩ます鬱要素。そして功利主義の枠組みを強引に当てはめようとする強敵が登場し、文明を衰えさせた地球人を“支配”するか“共存”するかの価値観が衝突する──虚淵氏らしい目を見張る展開がSFを題材に広げられている。これらが好みでもあり、最後まで楽しめた。{/netabare}
ただ虚淵氏が手がけ、宇宙での戦いを最初に描写した割には結末含めて地球のある大海原で起きた話──と小さくまとめてしまったのは勿体無さを覚える。
{netabare}人類が2つの生存戦略を練って宇宙に進出したという壮大なSF設定が大きくは活かされておらず、とくにヒディアーズと人類銀河同盟の宇宙戦争は最後まで描かれることはない。つまり序盤でスペースオペラも匂わせておきながらその要素が皆無という悪い意味での裏切りをしてしまったのである。{/netabare}
もっと尺を用意して宇宙戦争の部分も掘り下げればロボット物としても面白い作品になっただろう。
そういう意味では続編となるOVA「めぐる航路、遥か」に大きな期待を寄せていたのだが……そのレビューはまたの機会にしたい。

投稿 : 2023/04/17
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サンキュー:

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