oxPGx85958 さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
ていねいな作りゆえにハードルが上がった
ていねいに、真面目に作られている「良心的」な作品。だが、それゆえに自分の中でのハードルが上がってしまうのを感じました。
● 物語について
ハードボイルド的な世界観はとても良かったんだけど、最終話での怒濤の解決がそれまでのクールさを台無しにしてしまったように感じます。甘いエンディング自体はいいんだけど、そこへの道筋が予定調和的かつ大味すぎて、物語全体がチープに思えてしまった。
● 声優の演技について
私は声優の行きすぎたプロっぽい演技が苦手で、素人声優の平板なセリフ回しの方が望ましいと思うことも多々あるんだけど、本作に関しては、多用されている非専業声優の演技がほぼネガティブに働いていたように思いました。
剛力(木村良平)、柿花(山口勝平)、ドブ(浜田賢二)、山本(古川慎)、呑楽(大塚芳忠)、黒田(黒田崇矢)あたりのベテラン声優陣による、アンダーグラウンドもののハードボイルド作品の脇役の演技が完璧すぎた。アニメ作品にありがちな過剰な演技に行かず、微妙なところを見事に突いてくる素晴らしい演技と演出。特に、古川慎が演じるキツネのマネージャーは、本作全体の屋台骨になっていたように感じます。
しかし彼らが完璧なせいで、そうでない人々の演じるキャラクターたちに現実味が感じられなくなった。それらのキャラクターたちにはエモーショナルな盛り上がりのあるシーンが多く用意されているから、余計に問題が大きくなったように思います。警官の兄弟、漫才師、YouTuber、ラッパーなどは、ストーリー上重要な役割を担わされているけど、いずれも「物語内で彼らに与えられている役割の意図はわかるけど、上手くいってないよね」という感想にしかならない。そんなことを一瞬も感じさせることなく、物語を直接体験させてくれる前述のベテラン陣とは対照的でした。
● 画面の余裕のなさ
これはていねいに作られている志の高い作品であるがゆえの不満なんだけど、映画的な豊かさがあまりなかったな、と見終わって感じました。
たとえば映画『タクシードライバー』で思い出すのは、鏡に向かって拳銃を撃つ練習をするシーンに並んで、ロバート・デ・ニーロが夜の街でタクシーを走らせるシーンだったりするんだけど、本作では主人公がタクシーを運転しているシーンがほぼすべて他キャラクターとの関係を示すための機能を持たされていて、画面としての豊かさがない。他のさまざまな場面でも同じです。
これはアニメ作品としてリアリズムを目指さずデフォルメ調に作ることを選んだゆえの結果なのかもしれない。でもこれが最終話での盛り上がりが人工的に感じられたことの一因であることもたしかでしょう。
実写作品がアニメ作品に対して大きなアドバンテージを持っているケースの一つとなったと思います。
とまあ、不満はあるものの、本作がいまのアニメ・シーンにおいて非常に重要な野心作であることはたしかです。