薄雪草 さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
兄ガチャなんて言ってられない!(妹の沽券に関わるんだもの!)
妹の兄へのフクザツな想いを「時かけ風」に表現してみたらこうなった的な作品。上映時の評価は賛否両論というよりも、かなり否定的なご意見が多かったと記憶しています。具体的に言うと、ホームビデオ的な日常ばかり見せられてつまらないとか、物語の繋がりが感じられなくて支離滅裂な印象だったとか、散々なものでした。
タイムリープという "妙手" は、使い方によっては「時かけ」の青春譜のようなドキドキ感やセツナサ感をブーストしてくれるし、「君の名は。」のセカイ系のような爽快感や全能感でステキな余韻を与えてくれます。
それなのに本作には「恋愛要素がまったくひとつもない」というのが細田さんらしいヒネリ技。それを紐解かずにぶった切るのなら、前述の否定的なコメントが寄せられるのも仕方がないかなと感じます。
ですが本作の "妙手" はそういう麗かなカタルシスを狙っているんじゃないんです。
設定では、未来ちゃんは14才という思春期を翔ける少女。そろそろ恋に焦がれるお年ごろ。そして4つ上の兄との関係にエラク頭を悩ませている・・・。と、そんな背景が伏線に隠されていることに思いを致すなら、本作の面白さがシンソコ楽しめるというものです。
そうでなければ "貴重な妙手" を使ってまで、わざわざ兄なんかにかまう理由など妹にあるわけないのです。
妹には「バカ兄!」って、無視を決め込んだり、悪態をついたりする選択肢が、手の中にあって当然のハズなのですから。
でも、そうとはせずに、お兄ちゃんのために "妙手" を使ってしまうというのが、未来ちゃんの心に、無類の兄妹愛があるっていうことなんです。
「愛は地球を救う」。ひと夏の24時間どころではない「未来ちゃんのバラ色のミライ」を救え!
例えば「お兄ちゃん、なぜにあなたはお兄ちゃんなの!」と、兄妹版「ロミオとジュリエット」ふうに。
あるいは「ほどほどに愛するということを覚えなきゃいけない。(男はつらいよ第44話)」の「寅次郎とさくら」ばりに。
そんな感じで楽しんでみてはいかがでしょう。
ということで本作は「分かる人にだけ分かる」という通好みの手合いになっていて、「時かけ」で魅せたジュブナイル特有のパッションへの期待とは、全く次元が違う情感を抱かせてくれる作品だと思います。
ですので、感受性をどうやって広げるかがキモになります。
~ ~ ~
もしかすると一人っ子さんとか、よくできたお兄さん(お姉さん)がいらっしゃる方には想像するに難いかもしれません。
とはいえ "よくできてない兄" なんてレッテルはきっと片腹痛いことでしょうし、くんちゃんがご自身の4才の姿を写しているという捉え方なら、ひどい嫌悪感を生むことでしょう。
本作への低評価・批判・酷評は、案外そのあたりに理由があるのではないかと感じています。
「いや頭の方じゃ分かっているけどね。 気持ちの方が、そうついてきちゃくれないんだよ、ねえ?(男はつらいよ、第6話)」
"支離滅裂" という評価を見聞するのは、このセリフの真意に気づいていてもあえてそう言うのか(図々しい!)、そもそも全く気づいていないのか(鈍感?)、あるいはハナからそういった経験がないか(・・・。)のいずれかでしょう。もしもそうならストンと落ちようがないのです。
前述のとおり「分かる人には分かる」エピソードばかりですから、自覚や体験がなければ、理解はできないし低評価になるのも無理からぬことです。
「妹にはいろいろ迷惑かけちゃってるなぁ。なにかと心配させちゃってるなぁ。」と、どこか身に覚えがある方でしたらストンと落ちるエピソードばかりなのですから。
~ ~ ~
それなら、どういう視点で観るのが作品理解を深めるヒントになるのかということです。
一つめは「オレは(もう記憶は定かじゃないけれど)くんちゃんのような悪童だった(かもしれない)。」と認めてしまうことです。
だって大人は分別を知るようになると、不都合な真実(自分 ≒ 悪童)にフタを被せる知恵を働かせるからです。下に妹・弟がいらっしゃれば尚更です。
でも本作の面白いところは、くんちゃんが4才、未来ちゃんが0才という設定です。
そもそも4才の自分のエピソードなんて、ほぼほぼ忘れちゃっているでしょう。パパもママも、仕事や赤ちゃんのことで精一杯。てんやわんやで光陰矢の如しなんです。
仮にあなたが悪童であったとしても、家族の立派な一員であることに変わりはありません。そんな時、せめて赤ちゃんに優しくするなら、それは平和をもたらす "勇者" です。
未来ちゃんは14年間を費やして兄を観察・分析し、ついに一つの決意を導き出しました。
愚痴をこぼすより自分から乗り込んでいこう!
私が未来から来たことは誰にも明かさずに、不都合のフタをこじあけて首ねっこを押さえよう!
これが未来ちゃんが導き出した、兄を勇者にする期間限定プラン(誰も覚えていない絶妙のタイミング)なんですね。
~ ~ ~
二つめは、3つのエピソード(ひいお爺ちゃん、お母さん、新幹線)は、実は、未来ちゃんが "仕込んだシナリオ" だと捉えてみることです。
だって彼女は優秀な "タイムトラベラー" なのです。過去や未来のエピソードをくんちゃんのリアルタイムに紐づけることなど "お茶の子さいさい" なのです。
つまり、未来ちゃんの脚本、演出、主演、そして "黒幕" というのが、本作に通底する世界観だと私は思っています。
たぶん未来ちゃんは、最初は自分の思春期を、もうちょっとマシにしたくて練りあげたアイディアだったんだろうと思います。
だけれど、思いもかけず、犬やお母さんやご先祖様が、くんちゃんをどんどん巻き込んでくれて、ファミリーの懐の深さや痛快さ、集団遊びの面白さを、ダイレクトに感じさせていくきっかけを作ってくれるんです。
くんちゃんはまだ4才になったばかりですから、頭でわかることではありません。でもくんちゃんの心と体に、どんどん化学変化が起きて、お母さんのハチャメチャな遊び心とか、ひいおじいちゃんのカッコよさだとかを土台に置きながら、目の前の新しい外界にチャレンジしていく負けん気や勇気(内面の強さ)を、気づかないうちに身につけていくのです。
~ ~ ~
それは未来ちゃんにとっては、はたして狙い通りだったのでしょうか。
いえいえ、それだけではやっぱり不十分なんです。
だって、未来ちゃんを兄の心の真ん中に置く "肝心かなめのプラン" が残っているからです。
というわけで、くんちゃんを、なんと18才のお兄ちゃんにバッティングさせ、"ある言葉" をかけさせるという大バクチを仕掛けるのです。
それはくんちゃんの内面世界に、大きな変化を引き起こすトリガーになるのです。
東京駅で迷子認定されたくんちゃん。自分の出自を証明するために、家族の名前を言わなくてはいけません。
「お父さん、なんだっけ??お母さん、知らない!!」。
くんちゃんが知っている名前は、妹の「ミライチャン」だけ。
くんちゃんが全身で否定していた妹が、実は自分を全肯定するためのキーマンになるという「初めての兄的パラドックス」に陥るのです。
くんちゃんの家族はずう~と3人がリアルです。(犬は別?)
ところが、いきなり4人になってしまうアップグレード。
何かにつけて、くんちゃんよりも妹の方が優先されるというアップデート。
家の中の呼び名は、外の世界ではまったく通じないというオフライン。
妹を受け入れることが、家に戻れる唯一の選択肢というシュールなミスマッチ。
彼は、いよいよ "兄として" 、ファイアーウォールに立ち向かう時を迎えるのですね。
ほんと、「オトコはつらいよ!」
~ ~ ~
兄ガチャなんて、そんな悠長なことは言ってられない!
だって、妹の沽券に関わるんだもの!!
もうちょっと遊び心があって・・・いくらかカッコよい男ぶりで・・・何かとわたしの気持ちを汲み取って・・・と、あれこれお兄ちゃんに願った妹。
そんなお兄ちゃん愛にあふれる?女の子が考えついたのは、ちょいと時間を行き来しては "兄を躾ける妹になる" という "イケてる作戦" 。
"ふたりのミライを夢想のなかに翔けまわった兄と妹の愛らしいお話" でした。