STONE さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
静的な雰囲気が凄くいい
原作は未読。
ジャンルとしては日常系の範疇に入る作品なのだろうが、いわゆるきらら系の日常作品などと
較べるとかなり趣が異なる。
独特な絵柄の作画、クラシックを中心としたBGM、口数の少ない主人公、閑散とした
地方都市が舞台と、全体的に受ける印象は静的なもの。
極力モノローグのない演出や主人公の心情を場面の色彩で表現する術なども素晴らしく、
古いヨーロッパ映画を観ているような感覚があった。
ただ内容に関してはネット上で炎上するなど、なかなか物議を醸しだした作品。
ネット上における批判と擁護のやり取りを結構見たが、批判に関しては法律違反に代表される
道徳・倫理的に基づいたものとリアリティに対するものが大きく目に付き、それに対する
反論では「これはフィクションだから、現実と同じように扱うべきではない」的な意見が
目に付いた。
この「フィクションだから・・・」という反論に対して、「フィクションにも作品ごとに
応じた守るべきラインがある」といった更なる反論があったりしたが、この「作品ごとに応じた
守るべきライン」はどこに線を引くかは個々によって異なるので、個人的には「この手の論争は
平行線にならざるを得ないかな」と思う。
この手の論争は他作品でもよくあることで、本作における道徳・倫理、リアリティ、
フィクションとしての許容性以外だと、ご都合主義やパクリ疑惑などでも同種の論争が
起きている感があるが、いつも同様の感がある。
本作に関しては、ネット上で話題になるところを考えると、この個々の線引きで違和感を
感じた人が多かったというところなんだろうなと。
個人的スタンスとしては作り手が意図してやっていたら、割と許容してしまう傾向にあり、
本作に関してもそんな感じ。
ただ雰囲気作りは上手いのに、コンセプトやテーマがあるとして、「ストーリー上でそれを
見せるのはあまり上手くないなあ」という印象はあった。
本作は構図としては主人公である小熊がカブとの出会いにより生活が一変し、それに伴い
自身も変わっていくという成長譚の要素を持っているが、小熊が寡黙なうえにモノローグが
ほとんどないため、おとなしい控えめな印象を与えつつ、彼女が何を考えているのか
分からない状態であったのが、中盤以降に礼子や恵庭 椎と話すようになると、その発言内容も
含めて唐突な変化を感じさせるものになってしまい、人によっては相当に違和感を持ちそう。
聞くところによると、原作はモノローグも多く、それも口が悪いのだそうで、モノローグを
削った演出は雰囲気作りには役立ったが、ストーリーの理解という点では仇になったのかなと
いう気がする。
キャラそのものとしては、小熊の内気でおとなしそうな印象とは異なる性格は面白かったり
する。
相棒?的存在の礼子も面白いキャラで、キャラデザインから察するにいわゆる美少女
なのだろうが、その性格、感性、趣味、センスはかなり男前な感じ。
クラスメイトの反応から礼子はクラスヒエラルキーの上位に位置しているようなのに対して、
小熊はどちらかというと仲の良い友人はいないような状態。
バイクやカブのことに関しても礼子が長じているが、そうした礼子に対して特に引いたような
態度を取ることもなく、対等な感じで接している二人の関係性も面白い。
メインモチーフのカブだが、元々は趣味性皆無の民生具で、出前用バイクというださい印象
だったのが一周回ってカッコ良くなった感があり、そういった出自からくる手軽さも含めた
カブの楽しさがうまいこと表現されている。
道具を使う趣味の場合、道具そのものを買ったり、カスタマイズすることも楽しみの一つ
だったりするが、本作も関連グッズを買ったり、カブをカスタマイズする楽しさも描かれている。
もっとも本来民生具であるゆえにカスタムパーツもカッコ良さより実用第一だったり
するものが多く、特に小熊の場合は経済的に余裕があるわけではないため、安さ優先だったり、
他目的用品の流用だったりするところが面白い。
こうしたカブやその周辺道具を始め、更に恵庭家絡みでは食べ物や衣類にも言及するなど、
作中では様々なウンチクが語られるが、この辺は原作者の趣味性が現れているよう。
作品コンセプト的にはカブの魅力を提案するといったような要素があるようだが、初期の生活が
ちょっと便利になる部分や中盤の荷物の運搬、そして燃費の良さが活きる長距離走行などは
カブの魅力の一端として理解できるんだけど、富士登山や人命教授はあまりカブの魅力には
繋がらなかったように思えるんだけど。
2021/07/17
2023/10/29 追記・修正