フリ-クス さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
名脚本ありきにして名演あり
言わずもがなの、大名作ですね。ラブコメの金字塔。
あにこれレビューも17000件超えてるし、
たいていのことは語り尽くされちゃっている感があります。
ですから
いまさら何を言うつもりなんだおまえは
とか思われそうですが、そこはほら、まあ、アレということで。
実を言いますとワタクシ、
この作品に出演していた某役者さんと、
Webラジオの仕事でしばらくご一緒していたことがあります。
で、収録前にぐだぐだな雑談をしているとき
とらドラ!って、どの段階で名作になると思われましたか?
と純粋な興味から聞いてみました。
全く間髪をいれずに
脚本(ホン)を読んだときですね
という答えが返ってきました。
う~ん……納得。
ちょっとここから脱線して、脚本のお話。
本編にはほとんど関係ありませんので、
ネタバレで隠しておきますね。興味のある方だけ、どうぞ。
{netabare}
恥ずかしながら僕も一応、
ラジオのお仕事でショ-トドラマの脚本を書いていた時期がありまして、
なんのかの言いながら100本以上、制作しています。
最初は全然ダメダメで申し訳なかったのですが、
コツがわかってくると、収録も含めてめっちゃ楽しかったです。
役者さんにも楽しんでいただけたし。
実際に自分でコンテンツ作って一番勉強になったのは、
『読んで』面白い文章と
『声を載せて』いい文章って違う場合が多い
ということです。
もちろん役者さんの技量にもよるわけですが。
たとえばシリアスなアクションドラマで、
怒ったヒロインの前に三下が立ちはだかったりした場合、
よくあるラノベふうの表現だと
「その見るに耐えない醜悪な顔を私の視界から一秒で撤去しなさい」
みたく、ぐちゃぐちゃした言い回しになるんです。
そういうのって文字だけ読んでると『個性的』っぽいんですが、
声をあてると、げんなりするほど軽くなります。
ただかっこつけてるだけで、肝心の『怒り』が全く伝わりません。
ちゃんとした役者さんに演ってもらうなら、
「……おどきなさい」
だけでいいんです。それだけで全てが伝わり、しかも迫力が出ます。
もちろんケースバイケ-スではあるんですが、
基本的に、きちんと『人のカタチ』をしている脚本なら、
言葉がシンプルであればあるほど、
役者さんが『言霊』を乗せやすくなるんです。
そのために役者さんは、
身を削るような修練を日々積み重ねているわけですし。
その点いまのライトノベルは全般的な傾向として、
台詞をいちいち過剰装飾したり、
あるいは心情を台詞で説明したりしすぎちゃっていますから
アニメ化するとき、脚本家さん大変だろうなあ
なんてしみじみ思わされるところであります。
{/netabare}
さて、本作『とらドラ!』は、
回を追うごとに四角関係、五角関係みたくこじれていく、
ちょっとぐちゃぐちゃ系のラブコメです。
ただし、その『こじれ』が本格化するのは17話以降です。
それまではどちらかと言うと、
ラブコメ風味の学園青春群像劇
みたいな感じで、恋愛問題は物語を進めるためのギミック程度でしかなく、
あまり深刻な感じでははありません。
じゃあそれまでの16話は無駄なのかと問われるとそうではなく、
誰が、誰を、なぜ、好きになったのか
という心のプロセスが、しっかりと描き込まれています。
ただ、正直言うと序盤は『むかしラブコメ』的な感じがしますし、
ヤクザ目だの手乗りタイガだの龍と虎だの、
いわゆる『つかみ』がいちいちこっぱずかしかったです。
少なくとも僕にとっては。
{netabare}
シリーズ構成としては、
1~4話 ベタベタのラブコメ。
5~10話 川嶋亜美が登場しての、ややひねたラブコメ。
11~16話 学園祭~生徒会長選挙と続くシリアス路線
17~23話 ぐちゃぐちゃどろどろドラマ編
23~24話 すっきり解決編
みたいな感じですね。
序盤をお気楽に初めて視聴者層をつかみ、
川嶋亜美を登場させて空気を変えつつラブコメでひっぱり、
慣れてきたところでシリアス系を二つぶっこみ、
それぞれの思いが複雑に交錯する重い恋愛ドラマに仕立てて、
ラスト二話ですっきり爽快に締める。
さすがです、岡田麿里さん。文句のつけようがない。
{/netabare}
露骨というか何というかこの作品、
全25話中、17話でオープニング曲が変わります。
ふつうは1クール終了時の13話か14話、
お話のキリとかの関係でも15話まで引っ張れば珍しい方で、
17話での曲変というのはあまり例がありません。
それまでの軽くPOPな曲調から一転し、
映像にも意味深で切ないカットが多用されています。
はい、ここからいよいよ本番ですよ
みたいな監督の意図が伝わってくる、見事な演出だと思います。
そして、シリーズ構成や音楽演出だけでなく、
全編にわたる秀逸な脚本に引っ張られて、
それぞれの役者さんが素晴らしいお芝居を披露していきます。
この脚本のどこがすごいといって、
心情が明確なのにそれを言葉でほとんど説明しておらず、
役者が表現すべき『幅』が、かなり大きいところがすごいんです。
{netabare}
生徒会長選挙後の大河とすみれの教室バトルや、
スキ―宿舎での実乃梨と亜美の口論など、
てんぱった『動』の場面でのお芝居はもちろんすごいです。
(ちなみに「いい面の皮してる」と言い放った亜美の顔、最高です♪)
ですがそれも、
そこに至るつなぎ、『静』の表現が巧みだから、
しっかりと役を作り込み、スムーズに『動』へ移行できるわけで。
あちこち名演だらけの本作なのですが、
その中でも珠玉のシーンをあえて一つだけ挙げるなら、
僕は迷わず最終話、
大原さやかさんの演じた竜児の母親、泰子を推奨します。
竜児が大けがをしたという嘘にだまされ、
駆け落ち以来一度も帰っていなかった実家に戻った泰子に、
母親が「竜児くん、元気にでっかく育てたねぇ」
と愛情たっぷりの声を掛けます。
その言葉を聞いた泰子は感極まって泣き出してしまいます。
脚本に書かれたセリフはたった一行だけ。
「……そだ、育てたあぁ~~~っ」
そのたった一行の台詞に、
17年もの間、女手一つで子どもを育てたつらさ・苦しさ・寂しさ、
それでも愛情深く子どもを育て続けたという誇り、
その苦労が認められたという喜び、
それを認めてくれた母親への氷解していく思い、
みたいなものが全て凝縮されています。
そして、それを演じきった大原さんがすごい。すごすぎる。
少なくとも僕は、何度聞いても鳥肌が立ちます。
泰子の心情が絡みついてきて、自然と涙が出てしまいます。
まさに、アニメ史上に残る名演の一つと言っても過言ではありません。
{/netabare}
おすすめ度としては、人にもよるという前提でのAランクです。
お気楽きゃぴきゃぴのラブコメが好きな方は、
後半、けっこうしんどい思いをさせられそうだなと。
女同士のガチバトルも、嫌いな人は嫌いなんじゃないでしょうか。
{netabare}
また、ゲレンデから落ちた大河を
なんで昼間のうちに見つけられないんだ、みたく、
ツッコミたくなるムリな描写・演出も少なからずあります。
{/netabare}
ですが、甘々なだけのラブコメはちょっと、という方は、
前半はともかく中盤以降は、
どっぷり肩まで浸かっていただけるのではないかと愚考いたします。
もちろん、お芝居・役者好きの方には『絶品』です。
間島淳司さん、釘宮理恵さん、堀江由衣さん、甲斐田裕子さん、
喜多村英梨さん、大原さやかさん、野島裕史さんなどなど、
それぞれ実力充分の役者さんが、
芝居というものの醍醐味を存分に味合わせてくれます。
ちなみに、川嶋亜美役の喜多村英梨さんは、
本作出演時には、まだ21歳でした。
子役出身とはいえ、それで釘宮さんや堀江さんとがっぷり四つですから、
まさに天賦の才を持つ方なのではないかと。
映像はとりたてて『きれい』という印象はありませんが、
さすが長井龍雪監督というか
いわゆる『視線の芝居』がものすごいです。
書き屋さんはよく「目が書けたら一人前」と言いますが、
その目そのものや視線の微妙な外し方によって、
個々のキャラクターの心情をものの見事に表現しています。
総合的には、好き嫌いは別にして『実によくできた作品』かと。
実を言うと僕はヒロインである逢坂大河のキャラデが『苦手』で、
いつ切ろうかと思いながら視聴していたのですが、
最後はかなり前のめりになりながら完走してしまいました。
見て損をする作品ではないと思われますので、
未視聴の方がいらっしゃいましたら、お試しあれ。
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ちなみに、この後半OP曲の『silky heart』、
堀江由衣さん出演のPVがありまして、
Youtubeなどで簡単に視聴することができます。
一流の楽曲と二流の映像作家が出会ったらどんなものができるか、
興味のある方はご覧になってくださいませ。
まあ、アニソンのPVって基本こんなのばっかりなんですが……
歌い手さんがかわいそうだ。
なんとかならないでしょうかね、ほんとに、マジな話で。