よ! さんの感想・評価
4.4
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:今観てる
深い
現在10話目まで視聴。最近何となく観始めたのですが、物語の深さに脱帽。
普段、過去の作品を視聴する場合、一期終了など、ある程度区切りの良い所まで観てからレビューしているのですが、久々にワクワクが止まらない、傑作の匂いがプンプンする作品に出逢ったのでレビューします。
いきなりですが、ファンタジー作品で成功している作品って、例外なく現実の考え方に則した部分がとにかく多いんですよね。
このアルスラーン戦記、良いですねぇ。
人々の生活を倍率の違った視点で見てみると、全く違ったものが見える。何が深いって、設定から視点から何かと色々と深い。
例えば奴隷制度。これは現実に歴史上過去に実際に存在した制度ですが、現代では人権を無視した荒唐無稽な制度というのが一般認識です。
この世界での奴隷制度は、あらゆる国で採用されている一般的な制度です。この世界では常識として認識されている奴隷制度ですが、初めは主人公であるアルスラーンも、当たり前なものと認識しています。ですがある事件をきっかけに、彼は様々な面から疑問を持ちます。
何故敵国の捕虜は奴隷になるのを嫌がるのか?素直に受け入れれば痛い思いなどしないのに、何故抵抗するのか?我々現代人からするとかなりぶっ飛んだ認識ですが、温室育ちの王子様といえば確かにそれらしい。
抵抗した結果、殺される捕虜達。その場面には大した時間は割かれていませんが、それを見ている我々には一瞬で非常に多くの情報が投げかけられています。
その情報とは、アルスラーンは世間知らずに育っており、奴隷の実態を正しく理解していない。故に奴隷制度は悪い制度とは認識していない。敵対している他国の戦士は高いプライドを持ち、捕虜になりその命を掌握されていても、奴隷に落ちぶれるなら死を選ぶ。それを見ているアルスラーンにはその選択も考えも理解出来ない。
その後、奴隷制度を徐々に理解して行くアルスラーン。ナルサスとの出会いで、彼は奴隷制度は無い方が良いと確信してゆく。この成長過程が良い。まるで息子の成長を見守るオヤジみたいな気分になる。
アルスラーンの視点は世界の一般常識という大雑把な視点から始まり、その視点は倍率を下げ、それまで見て来なかった世界の真実に肉薄する。いつしか奴隷側視点という等価な視点で物事を考えるようになり、奴隷制度に疑問をもち、これは廃止するべきと結論づける。
十分に考え、民意に沿った結論を出したつもりでいた所で、解放した奴隷から何故か怒りをぶつけられる。ここらがありきたりな物語には無いところ。こういう所が深いと感じる。
ちゃんと良い扱いを受けている奴隷も存在し、全て一緒くたに考えられる単純なものじゃないんだよ、いざどこにでも行けと言われても、一度奴隷という立場に落ちた人間が行ける場所なんて無いんだよ、というメッセージ。
更には自分の目から見て狡猾な悪党と映っていても、その悪党側の身内の人間にとってはとても頼りになる存在であり、良かれと思って取った行動が全て喜ばれる結果にはならないという現実。
アルスラーンとしては奴隷の立場に立って十分に考えたつもりでも、実際にはその理解度はまだまだ不十分で、物事はそんなに単純なものではないと学ぶ。
綺麗事は所詮綺麗事。全ての人を救うには、それぞれの問題にもっと細かで適切な対応が必要。これは現代の政治、行政にも通ずる。
こういう色々と考えさせられる物語って好きなんですよね。