「スーパーカブ(TVアニメ動画)」

総合得点
75.5
感想・評価
484
棚に入れた
1389
ランキング
802
★★★★☆ 3.5 (484)
物語
3.4
作画
3.7
声優
3.5
音楽
3.6
キャラ
3.4

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キャポックちゃん さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 3.5 作画 : 4.5 声優 : 3.5 音楽 : 3.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

細やかな心理描写

【総合評価☆☆☆☆】
 人間心理を細やかに描き出し、子供よりも大人に訴える力が大きい秀作である。
 主人公は、クラスで孤立している寡黙な女子高生・小熊(ファーストネーム。姓は不明)。アパートで一人暮らしをしており、両親について作中では触れられない。当初は自転車通学していたが、坂道がつらいこともあってバイクの利用を思い立つ。近所のバイク店でたまたま安売りされていたのがホンダのスーパーカブで、この名車を購入したことから、しだいに周囲とのつながりが生まれてくる。同じくカブで通学している礼子と親しくなり、さらに、かつてカブ乗りだった教頭からは、前カゴをもらったりクーリエ(文書運搬)のアルバイトを紹介されたり。
 何よりも素晴らしいのが、言動を通じて小熊の性格を浮き彫りにする描写力。彼女が友人を作らないのは、恥ずかしがりとか人間嫌いのせいではなく、物事を自分の力で計画的に進めようとする強い意志を持つから。彼女の性格がよくわかるのが、深夜のコンビニで、駐車場に止めたカブのエンジンが始動しなくなったときである(第1話)。男の人が「どうした」と声を掛けてくれたのに、助けを求めない。ふと思いついて取扱説明書の該当項目を調べ、自力で解決する。
 取扱説明書を精読する姿は、その後も繰り返し描かれ、パーツの取り付けやオイル交換の際の慎重な作業態度とともに、彼女の内面を的確に表す。
 こうした性格描写の中で私が特に好きなのは、風よけのゴーグルを手に入れるシークエンス(第3話)。スピードを増すと目を開けていられないので、ヘルメットに取り付けるシールドを買おうとしたものの、端末から見つけられる商品はどれも3000円以上と高価。迷っていたとき、近くで塗装作業中の人が装着した保護メガネに目を留め、歩み寄る。
 この状況を人間観察力のないアニメーターが作画すると、途中でおずおずする動作を挟みそうなものだが、本作の小熊は、まっすぐ作業員に向かい何の躊躇もなく声を掛ける。彼女の性格を考えれば、この動作が正解なのである。風よけを手に入れるという目標のためになすべき行動をプランニングし、その通りに遂行しているので、迷いがない。
 ホームセンターでゴーグルを入手した後、順調に進んだことが余程嬉しかったのか、カブに乗った小熊は一人でニッコリ(と言うよりニンマリ)するのだが、その表情は結構ブサイク。女の子の笑顔はいつも可愛いと思っているアホな男子がいるが、あれは意図的に口角を上げた作り物。一人ほくそ笑むときにはかなり変な顔になり、うっかり鏡を見てギョッとしたりする。
 無意識の動作に関しては、他のシーンでも、アニメーターがしっかりと描き込んでいるのがわかる。例えば、小熊は、呼び掛けられたとき声のする方に首を回すというナチュラルな動きを、ほとんどしない。彼女が首を回すのは、内発的に行動するか、親しい知人の声を聞き分けたときだけ。「他者の心中を忖度して相手に合わせる」ことができないようだ。友だちがいないのも当然に思えるが、これが彼女の性格なのである。
 日常的な細部もリアル。ある日の昼食時、小熊はいつものように、タッパーに詰めたご飯にレトルトのおかずを載せて口に運び、思わず顔をしかめる。中華丼などが冷めたままでも美味しいのに対して、カレーは、温めて流動性を増さないと、舌の上でルゥが滑らかに広がらず味わいが出ないのだ。こんな、思わず「あるある」と言いたくなる描写が楽しい。
 ホンダのスーパーカブという特定商品をフィーチャーしたアニメだが、この点を問題視するには及ばないだろう。カブは、ソニーのaiboや日産のフェアレディZなどと同じく、エンジニアの思いが詰まったものであり、商品と言うよりは夢の結晶に近い。そんなカブが人と人をつなぐ紐帯になることを描いた本作は、人間の内面を見つめる新たな視座を提供してくれる。

投稿 : 2021/07/09
閲覧 : 207
サンキュー:

9

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