栞織 さんの感想・評価
3.4
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
眼鏡をかけている事の呪い
このジブリ映画は劇場まで見に行きました。かなり期待して行ったのです、宮崎監督の漫画本も当時購入していたと思います。しかし今はほとんど関連書籍は売り払いましたし、DVDも残していません。その理由はこの映画の不気味さにあります。
まず見ていて驚いたのは、本気でゼロ戦礼賛の映画をあの宮崎さんが作ったという事です。もちろん氏が航空機を熱愛している事は、「死の翼アルバトロス」の頃から熟知はしていました。その中で、国産の名機であるゼロ戦が大好きなのは、別に日本人の男性なら不思議なことではないのです。しかしそれまで氏が共産主義を理想としている話をさんざん聞かされていましたから、いまさら最後にゼロ戦映画なのかという思いがありました。言うまでもなく、右翼主義者の好きなもののひとつがゼロ戦だからです。要するに、宮崎監督もいわゆる中庸の人になったのかという気持ちで映画館には行きました。
それで映画冒頭に気になる箇所がありました。主人公の二郎は航空機が大好きで、パイロットになる事に憧れています。寝ていてそのような夢を見る描写があります。しかしその後、適正検査で近眼なので航空機兵の道からははねられてしまいます。妹に比べて目が悪いことを、残酷に描く描写があります。その後その話は忘れ去られ、二郎は勉学にまい進し、自分が操縦できなかったゼロ戦を設計する事になります。そのあたりは「プロジェクトX」ばりの展開で、その手のものが好きな人はうれしかっただろうと思います。しかしラスト部分で、二郎の設計したゼロ戦に乗って、たくさんの航空志願兵が戦死したという結論が出てくるのです。彼らはもちろん視力はよかったのです。つまり視力の悪い二郎が、視力のいいパイロットたちを死に追いやったと言う事実が、逆説的に描かれている、これはそういう映画なのでした。
もちろんそれは戦争があったからという理由でしょう。しかしそういう題材が見え隠れするものを、あえて映画にしたのです。不気味だと思いませんか、私はそう思いました。戦争がなければ堀越二郎はただの旅客機を設計し続けたと思われます。しかしそうではなくて、それだからこそ映画にした。違うと言う人もいるかもしれません。二郎はそんな事を考えていたのではないと。しかしそのあやういやじろべえのような正義の均衡が、この「風立ちぬ」という映画なのだと思います。二郎は自らの眼鏡をかけている劣等感を克服し、ゼロ戦を作り、結局死人の数を増やしてしまいました。反語的にこれは反右翼的作品だったのかもしれません。そしてそれを、ただの庶民の恋愛映画に見せかけて作ったのが、宮崎監督のやさしさなのかもしれません。