かがみ さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「母なるものへの囚われ」からの解放
岡田麿里脚本にはしばし「母なるものへの囚われ」とでもいうべきモチーフが現れる。臨床心理学者、河合隼雄氏は不登校児におけるユング派のいう「グレートマザー」の元型作用を指摘しているが、岡田氏の自伝「学校に行けなかった私が『あの花』『ここさけ』を書くまで」はまさにこうしたグレートマザー的な臨床例として読めてしまう。
この点、グレートマザーは「育て慈しむ」という明の部分のみならず「呑み込む」という暗の部分を持ち合わせている。こうしたグレートマザーの暗の部分がいわば「母なるものへの囚われ」として、しばし岡田脚本を規定しているように思える。
本作のヒロイン、石動乃絵は祖母の死をきっかけに涙が出せなくなり、今は思い込みが激しく世界を色々と勝手に決めつけては周囲との諍いが絶えないという、まさに「母なるもの」に囚われた少女である。そして乃絵は主人公をめぐり、もう1人のヒロイン湯浅比呂美と三角関係となった末に失恋する。けれどもその時に彼女は失った涙を取り戻すのであった。
ここには「母なるものへの囚われ」からの解放としての前向きな失恋観がある。こうした失恋観は後に超平和バスターズ三部作においてさらに洗練されていくことになる。そういった意味で本作は岡田麿里的な世界観の一つの完成形を示す作品であるように思える。