nyaro さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 3.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
緻密な設定に裏付けられた上質なSF作品だと思います。本当に面白い。
問題はこれがSFかどうか、なんですよね。例えば「新世界より」も超能力を発現したあとの社会のシミュレーションです。「魔女の宅急便」はどうかといえば、あれも魔法がある社会における女性の自立みたいなテーマでしたが、あれをSFと言っている人はあまりいません。ヒーローアカデミアはどうでしょう。まどかマギカは?
いろいろ考えるときりがありません。魔法科高校はSFだろうな、と思ってみています。なぜかといえば「魔法」そのものの発現には具体的な説明がありませんが、魔法を取り巻く理屈、設定がしっかりとされているからです。
私が思うSFの定義は、核となるフィクションをストーリーと合わせて、設定そのものの緻密さと深みと世界観、そして論理性を楽しめるかどうかで判断すればいいと思っています。これがなければファンタジーでしょうね。
本来は、未来になると実現するだろう科学上の予想に基づく事件や物語を描く=サイエンスのフィクションなんでしょうけど、それをいうならタイムリープや重力制御などはほとんど魔法と同義です。そこまで厳密に考える必要はないと思います。しかし、あり得ない設定を軸に、その周辺でしっかりサイエンスする必要はあると思います。
本作においては、サイオンやブシオンといった粒子のような設定、エネルギー保存の法則との整合、魔法そのものをプログラムというかコーディングのように情報処理として扱っている、制御のためのデバイス、魔法の発展の歴史などの魔法についての緻密な設定があります。また、歴史や世界情勢、一般人との対立、軍隊組織、世論の状況や社会インフラ等々も明確に論理的に説明されています。またその設定が見事にストーリーに融合しています。したがって極めてレベルが高いSFと言えます。
また、ストーリーが多層的な構造になっているのも面白いところです。
核融合を魔法で実現させることで、経済的な有用性によって魔法師の社会的地位を向上させようという主人公の目論見。魔法師の社会における組織、家制度の対立と最強の四葉家内における跡目争い。兄妹の関係性とその他女性の人間関係。世界の軍事バランスにおける主人公の立場。異次元から侵入してきたパラサイト、情報収集を得意とする秘密組織、人間型アンドロイド、主人公のライバルとなる強敵との闘い等々。
これらの複雑な設定と伏線がかなり破たんなく、根底に流れる物語の幹となっています。ですので、俺TUEEEの代表格みたいな本作ですが、戦いの方向が単純に「敵」ではなく、これらの「問題の解決」なため、単純な勝った負けたではありません。
これらが読み解けない、あるいは読み解くのが面倒だ、説明がくどい、鬱陶しい、という人からはどうも人気がないみたいですね。
でも、ヒロイン深雪は究極の妹キャラですし、武道家のエリカ、主人公ラブのほのか、大企業家の娘しずく、ライバルの家の娘まゆみ、そして、米軍スターズの総隊長リーナなど、人物が魅力的です。男ももちろんいっぱいでます。エリカとリーナ推しです。
物語の構成もしっかりしていて、入学、対テロ戦、七高戦、横浜と話が進んでゆくうちに、上の複雑な設定がすんなりと頭に入ってきます。
初めの服部との戦いでループキャストを説明、ループキャストをコンピュータと組み合わせて連続使用することで実現する飛行魔法、連続使用を魔法師を媒介しないで実現するレリックによる魔法式の保存で核融合を実現する。
加重系魔法の3大難問という設定、魔法を重ねかけ出来ないという設定により、こういう構造を物語に組み込んでいます。これをあずさの課題という形でギャグみたいにさらっと説明していました。
日常もバトルもバランスよくあり、コミカルパートの比率も高く、面白く仕上がっています。
分解と再生という表裏になる設定もSF的です。エイドスを自在に操れる特殊能力と言い換えると概念的に統一できそうです。
達也のマテリアルバーストの仕組みは作中では説明されていません。が、達也は魔法で機械構造や分子(人体含む)を分解することと、魔法式を分解するということが可能です。つまり分解というのはどんなレベルであっても可能であると分かります。ここから、質量をエネルギーに分解する、つまりE=MC2を実行していることが読み取れます。通常のSF的には対消滅で実現しますが本作は魔法で実現しています(なお、現実での反応としては、核分裂の場合は反応前と反応後の原子核の質量差です)。
だから初めの標的は一滴の水滴で、次がもう少し大きい質量でした。
ここはわかりやすい様に、弾丸をつかみ取っている振りをして分解する、人体を切り落とす=分解して切っているように見える魔法を分子ディバイダ―と勘違いするシーンを入れたり、トラックを分解させていました。同時に遠くのものを読める目をもっていることを改めて物語で説明しています。これがそのままマテリアルバーストの説明です。
あの国際展示場内の出来事はこういう部分につながっていてほとんど無駄がありません。これが読み取れるかどうかはSFのリテラシーですね。
さすが30巻以上発売されたラノベ原作だけあって、元が面白いのはもちろんですが、非常に丁寧にアニメ化されており、満足でした。九高戦のヒロイン深雪の活躍がちょっと足りなかった気もしますが(衣装ももうちょっとなんとかしてほしい)、TVシリーズのアニメとしてはかなり出色の出来でした。本当に面白かったです。
最近気が付きましたが、23話で福を逆さまに飾る習慣、dao fu 福が来るという意味ですが、これがちゃんと背景にありました。まあ中国人が経営している中華料理店にはよくありますが、こういうところが演出されている部分に感心します。