フリ-クス さんの感想・評価
2.4
物語 : 2.0
作画 : 3.5
声優 : 1.5
音楽 : 3.0
キャラ : 2.0
状態:観終わった
ス-パ-カブを題材にした、まんが映画
もうずっと前の話なんですが、
故・出﨑統監督と荻窪で飲んだ時に、印象に残る話をいただきました。
いやさあ、いまでこそ『アニメは文化だ』なんて言ってるけど、
オレが始めたころなんて『アニメ』って言葉すらなかったからね。
当時は『マンガ映画』なんて呼ばれてたの。
ガキのためのもので、まともな大人は見ないよ、みたいなさ。
もうさ、実写の連中から一段も二段も低く見られててさ、
こんちくしょう、とか思って必死でやってたね。
実際、当時の制作環境というのは壮絶だったらしいです。
そういう偉大な先哲たちの、
まさに血のにじむような努力があって今の『アニメ』があるわけで。
さて、ネット上でなんのかのと議論になっていた本作ですが、
僕の印象としてこの作品は
日本が世界に誇るエンタメコンテンツ
なんて立派なものではなく、
まともさを求めてはいけない『マンガ映画』ではないのかな、と。
リアルさやまともさを求めない『マンガ映画』に、
道交法がどうしたこうしたなんて言っても仕方ないと思います。
なんかもう、それ以前の問題ですから。
ちなみに、原作には道交法違反であることが明記されていて、
本編でそれを端折ったことが炎上の原因みたいですね。
なに素人みたいなことやってんだ、制作。
さて、『マンガ映画』だ、とは言うものの、
最初の数話はカブに対する愛情にあふれた、いい作りになっています。
演出に若干の『?』はあったものの、
着眼点そのものがとても目新しく、
これはこれで面白い作品だなあ、と思って見ていました。
僕自身、カブは乗ったことありませんが、
原付であっちこっち遠出したこともありますし、
その自由さ・楽しさは、ちゃんと表現できているなあ、と。
本格的なバイク乗りの方は別の意見をお持ちかも知れませんが、
僕みたいな四輪屋には、序盤は許容範囲内です。
ですから、最後までそのペースでいてくれればよかったのですが……
{netabare}
他の皆さんがすでにたくさん指摘されておられるように、
プロテクターもつけず山岳登坂トライアル。
少し熱が下がっただけで鎌倉までロングツーリング。
雪道・雪原をカブで爆走。
レスキューも呼ばず一人で椎を救助に。
その椎を、自分の判断で病院にも連れていかない。
というのは、一歩間違えば命の危険すらある行動です。
そして、リスクに伴うだけの意味がない。
カブの製造元である本田技研の創設者、故・本田宗一郎氏は、
わしが死んでも、絶対に社葬なんかしないでくれ。
弔問客で道路が渋滞するのが目に見えとる。
自分の作った車が人さまに迷惑をかけるなんて、耐えられん。
という理由で自分の葬儀をさせなかったほどの人物です。
そして、誰よりも、
モ-タリゼ-ションの健全な発展を願っておられました。
少なくとも宗一郎さんは、
人の命を危険にさらしたり、
環境保全のため入山規制された高地で排気ガスをまき散らしたり、
約束を破って修学旅行中に乗り回したり、
そんなことをさせるためにカブを開発したんじゃありません。
物語終盤、やたらめったらカブをもちあげていましたが、
そうじゃない。
そんなことじゃない。
本当に大事にしなきゃいけない本田イズムは、そんなことじゃないでしょう?
{/netabare}
つまるところ本作は物語の中盤以降、
カブにまつわる豆知識や小ネタが尽きてきた段階で、
カブに注ぎ込まれたスピリットはどこ吹く風、
便利なオモチャを手にいれた女子高生が好き勝手に走り回るだけの、
『マンガ映画』へと墜落しちゃったわけです。
おすすめ度としては、最低評価手前のDランクです。
もちろん『マンガ映画』と割り切るなら、それはそれなりに楽しめます。
小ネタだのまったり感だのをのんびり味わいたい方は、
そんなに言うほど悪くないんじゃないの、と感じるかも知れません。
ただ、本当にバイクが好きな方や、
日本のモ-タリゼ-ションに興味・関心のある方は、
イラっとさせられること請け合いです。
また、同じまったり系でも『ゆるキャン△』や『ていぼう日誌』みたく、
ルールや安全性をきちんと守るから好感が抱ける、
みたいな作風が好きな方には、正直、まったくおすすめできません。
なお、ヒロインの子熊を演じている夜道雪さんは、
現時点では役者としての技量にかなりの難があり、
深刻なミスキャストだと思います。
少なくとも僕の耳には、
メイン三人の会話がこれっぽっちも『楽しいもの』に聴こえてきませんでした。
{netabare}
最初は、感情を表すのが苦手、というお芝居をしているのかなと、
新人ということもあって好意的に解釈していました。
ですが一向にキャラが上向かないし、
11話、椎の救出シ-ンがあまりにもひどかったので、
事務所のHPを覗いてボイスサンプルまでチェックしたのですが……
ちょっと、ひどいかな、と。
技量だけで言えば、大手事務所はおろか中堅以下クラスの事務所でも、
おそらく『預かり』にすらなれないレベルです。
小見川千明さんみたいな例もありますから、将来は全くわかりません。
ですが、いま現在の力量というのは、
メインをはったり人前で芝居を語ったりできる位置にはありません。
どういう経緯で抜擢されたのかは知る由もありませんが、
実力のみのオ-ディションではなかったことが強く推認されるところです。
{/netabare}
別に気にならないよという方は、それはそれで何の問題もありません。
ですが、お芝居に造詣をお持ちの方や、
あるいは真剣に役者を目指されている方などは、
けっこう不快な思いをされるのではと愚考いたします。
と、ここまで書いたところでふっと、
出﨑さんが生きていたらなんて言うかなあ、と考えてしまいました。
まあ、大体のところは想像つきますが。
つまんないもの『つまんない』と言ったって、
別になんにもはじまんないんじゃねえの?
だったら、おまえが面白いもの作ればいいだけのことじゃねえか。
あ~、なんかほんとにそう言われたような気がしてきた。
言う。あのおっさんは絶対そう言う。
僕みたいなしたっぱの若輩者にもフランクに接してくれた、
本当に気持ちいい、男らしい、
そして心から尊敬できる素晴らしいおっさんでした。
たぶんいまでも、
雲の上で絵コンテ書きまくっているんでしょうね。
ご冥福を、心よりお祈り申し上げます。