waon.n さんの感想・評価
3.6
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 2.0
状態:観終わった
感情が先か思考が先か
【introduction】
本屋で、目に留まった小説ってどういうものでしょうか。
作家の名前?
もちろん本を好んで読む人には好きな作家さんがいてその人の作品であれば、目に留まったり、もしくは事前に調べておいて発売されたらすぐ買ったりするでしょう。
私はどちらかというと、事前に調べずに本屋さんに通う中で発見する方が好きだったりします。そうやって本屋で遊んでいるのですが、そのなかで、久しぶりに表紙の絵で本を買ったのが、『君の膵臓を食べたい』でした。
タイトルの強さもそうですが、イラストに強烈に惹かれたんですね。
ラノベは表紙だっていいますが、この時の私は、小説を決める時にイラストで決めたのなんて初めての経験でした。
そのイラストを担当したのが、loundrawさん。
そして今回のViviという作品でキャラクターデザイン原案を務めました。
個人的には、キャラが良いというかレイアウトが天才だと思っているので、イメージボードを担当した劇場版名探偵コナンの3作品はうっとりするレベルです。
なので、今回の作品で名前を見た時は衝撃でした。後に調べたら『月がきれい』でもキャラクター原案をしていたんですねー。気づかなかったですがw
また、この作品のストーリー原案には『RE:ゼロから始める異世界生活』の長月達平。
こういった作品もいけるんだと、素直に感心してしまいました。とはいえ、彼の良さ。つまり状況を作り出す形の良さですね。SFとしての面白さというよりも、物語としての楽しさは確かにあると思います。
【Story synopsis】
衝撃的な始まり。
人間への攻撃(殺戮)を開始したAIたちその意図とするところは分からない。
ひとりの科学者がこの事態を収拾するべく、過去へとデータを送る。
そのデータの内容は、シンギュラリティ計画。
未来のデータ(情報)を持ったAIのまつもとは100年前へ戻り、最初に作られたAI、ViVIに接触する。
凄惨な未来を変えるため、計画を実行して欲しいと。
こうして、100年にもわたる壮大な計画が今スタートする。
【First impression】
ターミネーターという元ネタがあり、スピルバーグのAIという元ネタもあり、はてさて新しい面白さはあるんか? という疑いの目で見始めた感じですが、最後までしっかりと見てしまいました。
それには色々な要因……主にloundrawさんのネームバリューのような気がするんですが。
はてさてどうなるか。
【Review】
物語としては面白い部類で充分楽しめました。
ただ、何か尖ったものがあったかといえばそうでもない。友達にこんな作品があって~とか話すほどの内容ではなかった。
その原因は大きく分けて2つ。
一つ目はSFとしての楽しさがあまりなかった。
AIの暴走。という点においては先述してますが、ターミネーターというもはや何年前のネタだという位使い古されている。
また、AIと人間の境目やらAIが人の思いを獲得するというのはスピルバーグのAIにおいて描かれている。
電気羊は~もそういった要素を含んでいるだろうし。
また、歴史の分岐に関してはシュタインズゲートとパッと思い出すだけで類似作品を想起させることができてしまう。
。
これらを一気にまとめて描くことに挑戦したという点でストーリーをとても頑張って描いたなと感心することはできる。
新しい体験がなかったという感覚がどうしてもあります。ただ、これらの作品をまだ体験していない人にとっては新感覚であり、面白い仕掛けはあるので、良い作品だと思います。
SF好きな人がどんどん増えてくれたら嬉しいですね。
二つ目は個人的には正直演出が若干微妙でした。
演出と書きましたが、役職的にはおそらく絵コンテだろうなーは思います。
こいつらはAIである。そう印象付けるために用いられている演出がとても他のカットでの作画との親和性をみだしており、気になる、メッチャ気になる。確かに美しいんだけれど、その対比をもってきていないので、そこだけ異物感が半端ないんですよね。
物語に集中できないというところまではいかないんですが、すっごい、目立つ。ハーモニーを多用して演出的に失敗したといえるグラスリップが頭をよぎってしまいました。
戦闘の動きと見せ方は良いんだけれど、通常芝居が微妙だったりする感じです。そりゃAIだからなんだろうけれど、だったらそのほかの人間たちをもっとちゃんと演出しないと対比として弱い。こんなAIと大差のない人類ならAIの方が良いのでは……とか思ってしまう。
目指した未来はAIと人間の共存ではなく、AIの暴走を止めること。その原因を解決する事。そう映ってしまう。
テーマがあったはずなのに人間側の演出の薄さでバランスを崩してしまっているんですよね。
または、AIをAIとして描けていないのではないか。
感情って理解の前にあるものだと考えているんです。
結果の前に感情があるといっても過言ではないかもしれません。
何故か泣けたとか、カッとなって怒ってしまった。
無自覚な行動が人間には起こる。
さて、彼らAIは果たしてどうだったか。会話のテンポを演出の上で普通にしゃべらせてしまっている点がどうもAIらしさを失くしてしまっているように思えました。
小気味の良いセリフ回しには違和感を覚え、取ってつけたように絵でAIらしさを出してくる演出がより違和感を助長してしまっているように思えました。
結果を受けて考え、思い、想う。
想い、考え、理解し、思う。
工程の違いがテンポの違いが出るとなお良かったかもしれません。
気になった点がもう一個。
歴史改変を目的としたSFにとって改変されたあとの世界は改変される前の世界と同じなのか、とかも考えちゃうので、うーんとか思いますよね。
このもやもやポイントを綺麗に解消すると超絶気持ちいいんですが、そのままにするとモヤモヤが残る終わりになってしまうので気を付けたいポイントですね。この作品がどっちだったか、それは……正直分からんです。
観てみて感じて、考えて。
【postscript】
今期って実はSFで面白いのが他にもあって、『86』や『ゴジラS.P』なんですが、こちらの方は新しい体験としてしっかりとSFしていました。
特にゴジラは分からん! だからこそ、どうして? とかを考えたり、こうだったんじゃないかとか考えたりするのが面白いんですよね。
ちゃんとSF作家の円城塔さんを脚本に据えて作りこまれたゴジラというひとつのカテゴリーをSFの枠にもう一度置き換えた作品として仕上がっていましたね。
また『86』は新しい通信手段をデバイスと、戦場という型に嵌めこみつつ、現実とのリンクもしっかりとある、SFとなっていました。
SFとして楽しむならこの二つを見る方が面白い。
けれど、巧妙な物語を楽しむという点においてはこの作品の方が優れていると私は思います。