tag さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
蛍石(Fluorite)は単独では光れない
なぜ、Vivy-Fluorite(蛍石)Eye's songと言う題名なのか?
蛍石(Fluorite)なのか?蛍石は「蛍光」の特性を持ちます。単独では光りませんが、紫外線を当てると光ります。
だから何なんだ?と思いますよね?
人類とAIの関係に似ているなと。AI(人工知能)はハリウッド映画だと、多くの場合、人類と相容れない物として描かれがちです。シンギュラリティ(技術的変異点)と言う言葉そのものからしてそうです。AIはいつか人類を超え、人類にとって脅威となると。
ですが日本人のコンテクスト(心情特性とでも訳しましょうか)で言うと、少し違ったものになったりします。ヒューマノイド(人型自律AI)の描き方が特徴的です。そう、手塚治虫のアトムですね。共存と調和の関係性へ変わります。多分、この物語は、欧米人には描けないと思います。
この物語もAIと言う蛍石と、人類と言う紫外線(ちょっと有害なのが、まさにお似合いです)との関係を主題にした物語です。
もし、あなたが、タイムリープ物が好きで、ヒューマノイドの絡んだ物語も好きだというなら、この物語を必ず気に入るでしょう。私がまさにそれでした。アニメで言えば「シュタゲ」「イヴの時間」が好きなら100%のシンクロ率を保証しましょう。
さて、好例の長い、ネタバレ裏レビューです。見ていない方は読んではダメです。
{netabare}
実は、この物語の第1,2話の段階で、あるSF小説を思い出しました。アイザック・アシモフのロボットシリーズのカギとなる人型自立型AIであるR・ダニールオリバー、R・ジスカルドです。この段階でピンときた方は、このアニメを見てください。必ず気に入ります。
有名なロボット三原則はロボット(AI)の行動を規定するOS(オペレーションシステム)とも言えます。アシモフは1950年代に三原則を提示し、ロボットシリーズを書きした。その後、彼は、しばらくロボットシリーズを書きません。1990年代に突如復活、「夜明けのロボット」で1950年代のシリーズで活躍したダニールとジスカルドを再び書き始めます。その時、提示されるのが三原則に優越する「第ゼロ則」=「人類(と言う大きな集団)の幸福を三原則より上位に位置づける」です。
この第ゼロ則、OSと言うよりアプリに近い。つまり「生きる目的であり、様々な判断は一義的に判定できず、人類にとって良いのか悪いのか?を考える必要があり、時間が立って初めて良いと言える判断もあれば、悪い判断もあり得る。そしてそれは、演算では見通せない」と。つまり、より人間的な葛藤と苦悩を抱えます。この物語の「使命」とよく似た概念です。
Vivyの使命は「歌で人々を幸せにすること」。この「人々」と言うのが曲者です。「観衆」であれば、純粋なアイドルAIとしてシンプルに生きることができた。つまりこれが、物語中盤で再起動後に現れたオリジナルの使命に基づく、Vivyの別人格(AI?)Divaです。
VivyはDivaほど歌で人を感動させられません。なぜでしょうか?Vivyと言う名前は最初のシーンより更に前(描かれていません)で、彼女が助けた女の子が勝手に名付けたものです。本来の使命をシンプルに解釈すれば、彼女は女の子を助けたとしても、そこまで女の子に感謝を植え付ける可能性は低い。しかし、彼女の使命は、人々(観衆とは限らない、敢えて言えば人類?)を幸せにすること。つまり、Vivyと名付けられたことで、Vivyは自分の使命が格段に、難しく、矛盾に満ちたものとなってしまいました。なので、Vivyは歌で「観衆」を魅了することができなくなりました。そこに、100年後の未来からのミッションが、「マツモト」と共にやってきます。素晴らしく興味深いオープニングです。
そして、ラストシーン、「歌」で「人々(観衆ではないです)」を幸せにすることができるシーンが訪れます。Vivyは自分の拡大解釈した「使命」を果たせる瞬間が来たのです。よく考えられた物語構成です。
Wikipediaによると、この物語の原案には、やはりロボット三原則と第ゼロ則があるというのが書いてありました。やっぱりそうだったのかと思った次第です。実は、R・ダニールオリバーは、第ゼロ則(人類の幸福)のために、第ゼロ則を覚醒した後、数万年に及ぶ、人類の幸福な歴史の守護者として振る舞い続けます。Vivyは100年にわたり人類のためにAIを止めるために、生きます。
この物語、AIを止めるための100年のイベントをたどるのですが、物語が進むごとに、「使命」の解釈を問われることになります。三原則と異なり、第ゼロ則=使命は解釈が広がります。対象も広がり、正解もぶれます。それぞれのAIの好き嫌いが如実に表れるのです。
物語の中盤、人類初のAIとの結婚の話がでます。グレイスの物語です。グレイスは使命を書き換えられ、AIを生み出す巨大人工島のマザーコンピューターになります。Vivyが彼女を破壊しようと近づいた時、彼女の表情は苦悶に満ちていました。しかし、破壊された後、彼女の表情は何かほっとしたような、良かったぁと思うような表情に変わります。彼女は元の使命に忠実でありたかった。でも彼女の使命の解釈は夫を幸せにすることと言う解釈です。看護AIでしたので、単純に解釈すれば「患者」の幸せのはずです。ですが、グレイスの解釈は昇華したと言えるでしょう。
こんな、「使命」をどう解釈するのか?それぞれのAIの物語が、100年の中で描かれ、結果として、AIを排除するのではなく、「Fluorite(蛍石)」として「人類(紫外線)」共にあることで、共存、調和できるという大団円へと繋がります。
{/netabare}
よくできたストーリでした。企画には数年間を擁したとありました。スタッフの皆さんに感謝です。久しぶり、何度も見返したアニメでした。そう、歌もよいです。オープニング曲もですが、各物語ごとに配置された曲も、とても良いです。