栞織 さんの感想・評価
4.2
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
ただただ過酷すぎた時代としか言えない
やっとアマプラで視聴、受賞で話題になった頃は見ていず、DVD録画したものも長いこと見ずにいました。高畑監督の「火垂るの墓」と同系列の作品ということで、きっと胸にずっしりと来ると思っていたので、今まで敬遠していました。見てよかったとは思います。しかし見て楽しい作品ではなかったので、できれば忘れたいと言ったら怒られるでしょうか。それぐらい、メルヘンタッチな作画と相反して、非常に重い作品でした。
物語は広島に住む海苔加工業者の家に育ったすずが、乞われて嫁いだ先の呉市での嫁ぎ先の生活が描かれていきます。いわば見合い結婚みたいな話です。すずは絵を描くことが得意ですが、それで身を立てることはできません。あくまで一家庭の主婦として、嫁ぎ先で日々尽くしていきます。しかし嫁いだ主人の姉の娘を不注意で不発弾で亡くしてしまい、自身も絵を描く右手を失ってしまいます。それで実家に帰ろうかとしていたら、広島も原爆でやられてしまいます。それまでも呉市は悲惨な空爆で犠牲になっていました。焼け跡で玉音放送を聞き、激しく涙するすず。しかし終戦後、亡くした姪のような原爆犠牲孤児の少女を拾い、連れ帰り育てることにします。
あらすじを今書きましたが、かなりの忍耐を強いられる作品です。表面上はしかし、すずの声優ののんさんののんびりとした演技のナレーションが入るので、淡々と話を追っていくことになります。戦争の理不尽さ、当時の耐久性活の悲惨さが克明に描かれ、現代に生きる人間は圧倒されることになります。もちろん贅沢な現代生活について、罪悪感を感じるようになるのは、「火垂るの墓」と同様です。もちろんそういった描写に私も郷愁は感じることはありました。出てくる病院の建物やロケーションなどは、私が一番最初に入学した古い小学校の横の、旧日本陸軍の火薬庫だったという施設のものとよく似ていました。私などは、それを知っている世代だという事で、この作品をまだ実感を持って理解できる世代の一人だということです。
義援金を集めてまで製作された本作は、何も言うことのできないほど立派な意志によるものです。このような作品が作られたことは非常に素晴らしいことですが、なるたけ早く、過去の遺産であるような世の中にしていかなければいけないと思いました。戦争の根絶は無理であっても、このような社会態勢への後退は、決してあってはいけない事です。末筆になりましたが、自然描写や当時の事物や背景の描き方は、本当に素晴らしかったと思います。これだけの資料を集め、当時の記憶をよみがえらせることは、並大抵の苦労ではなかったと思います。