フリ-クス さんの感想・評価
1.5
物語 : 1.0
作画 : 2.5
声優 : 2.0
音楽 : 1.0
キャラ : 1.0
状態:観終わった
未成年者誘拐事件の記録
おどろおどろしいタイトルですみません。
巷では「犯罪だ-犯罪だ-」と騒がれている本作ですが、
10話まで見たところ、
法律以前に物語として破綻している
ので、まともに取り合うべきレベルの作品じゃないのかな、と。
法律の話はこっちに置いといて、
たぶんこの作品は、
やさぐれた少女が信頼できる大人たちと知り合って、
自分の足で歩き始める愛と再生の物語
みたいなものを書きたかったのではないかと思われます。
で、その目論見はものの見事に、ある種爽快なほど、外れています。
だって、一片の『リアリティ』もないんだもの。
木偶人形のようなキャラが、
常識を逸脱したご都合ストーリーの上で踊っていても、
共感とか感動とかムリ、無理だから。
{netabare}
かわいい女子高生を家に泊めたらヤるかヤらないか、という議論は、
最初から結論が『人による』に決まっているので考察から除外します。
描き方によって、どっちの方向でもリアルにも非リアルにもなるわけで。
だけどさあ……
家出の理由ぐらい、聞けよ
ヒロインの沙優を自分の部屋に住まわせると決定するまで、
主人公が一回もそれを聞かないんです。
聞いたけど教えてくれなかったというのではなく、マジで聞いてない。
そういうの聞くのはヤボってもんよ、が江戸の粋かも知れませんが、
犯罪者から追われている可能性も、
逆に沙優が罪を犯して逃げ回っている可能性もあるわけで。
主人公は沙優を『保護』しているつもりのようですが、
何から保護しているのかは『知らん』でOK。
そういう極めてシュ-ルな哲学が物語の根幹をなしちゃってるわけです。
もちろん、そういうのは『やさしさ』ではありません。
理由がわからなければ、
時間をかけて自分で考えさせれば解決する問題なのか
誰かが手助けしなければ解決できない問題なのか
どうしようもない、逃げるしか手がない問題なのか
誰にもわからないわけですから。
半年も家出を続けるほど悩み苦しんでいるのに、
その悩みを聞いてあげようともせず、
ただ寝床を提供してあげるだけで、解決は本人に丸投げ。
そんなものが『やさしさ』であろうはずがありません。
で、それが会社の同僚とか後輩とか上司とか、
つまりは状況を知った人たちに伝播して『共通認識』になります。
まったくもう、どいつもこいつも。
同僚程度ならまだしも上司は、
事前にわかってた事案で部下が逮捕されたら監督責任を免れません。
一応、沙優に理由を聞いてはいるんですが
「言いたくありません」の一言であっさり承認。いいんだそれで?
ただ、この巨乳上司さんは主人公に対して、
前から好きだったけど『今日じゃない』という『カン』で告白を拒否。
だけど周りに女の影がちらつきだしたら、
焼肉屋でメシ食いながら、処女あげてもいいよ宣言。
という病的に情緒不安定な人なので、別の心配が必要かも知れません。
まあ、みんなそれなりに『いい人っぽいこと』は言うのですが、
そもそも物事の捉え方の関節はずれちゃってるので、
なにを言ってるんだおまえは、としか思えません。
{/netabare}
で、沙優のお兄さんが現れるのですが、
この人も、かなりぶっ飛んだ思考回路の持ち主です。
{netabare}
家出していた妹と半年ぶりに再会したのに、
これまでどうしていたんだ、なんて聞こうともしません。
さらに、現在進行形で縁もゆかりもない男と同棲しているのに、
いい人そうだから
という理由で、その生活の一週間延長をOKしちゃいます。
いや、実家に連れ帰る連れ帰らないはともかく、男と同棲はダメでしょ。
相手にも迷惑だろうし、
金持ちなんだからホテルぐらいとってあげなさいよ。
{/netabare}
そして、いかれた人たちに囲まれて元気を取り戻した沙優は、
ついに家出の真相を語り始めます。
この話がまた、突っ込み所のみで形成された、すごい出来栄えなんです。
{netabare}
私の友だちで、結子って子が周りの女子からいじめを受け始めたんです。
[ええと……中学ならまだしも、高校で?]
結子が言うには、私が男の子をふっちゃったのが原因で。
[友だちなら、ふつうはそういう理由かくしますよね?]
私がきれいでいじめにくいから、結子が代わりにいじめられて。
[それ、真面目に言ってます?]
二人で一緒に頑張ろうねって言ってたんですけど。
[相手に文句も言わず、先生に相談もせず、何をがんばると?]
それで、ついに結子が私の目の前で自殺しちゃったんです。
いつもみたく学校の屋上で待ってくれてて、
私のせいじゃないよって言ってくれて、そのまま飛び降りて……
[いやいや、目の前で飛び降りって、ものすごいあてつけですよね?]
それで、私の家にマスコミの人が押し寄せてきて。
[いじめ加害者じゃなく、被害者の家に?]
お母さんに、あんたが殺したんじゃないのって言われて、キレて。
[自殺の理由が明確ですから、母親がそれ言う理由ありませんよね?]
兄が、母親と距離とった方がいいって三十万円貸してくれたんです。
最初はそれでホテルとか泊まってたんですけど、なくなって、
もうなんか投げやりになっちゃって、
最初に声かけた男についてって、その後は神待ち生活続けてました。
[要するに、お母さんが苦手ってだけのことなんですよね?]
んで、その話を聞いていたバイト仲間が
沙優ちゃん、頑張ってきたんだね。えらいよ。
って……いやいや、頑張らなかったからそうなったんだよね?
というわけで、関節はずれまくりで人のカタチとどめてません。
物語の内容ぶっちぎった明るく爽やかなOP・ED曲が、
あざやかにトドメ刺しています。
{/netabare}
おすすめ度としては、文句なしのEランクです。
テ-マとしては面白いし、キャラデも可愛いのですが、
それを使い回すだけの力量が作者に備わってませんでした、みたいな。
世界観、見渡す限り美しい、すてきなお花畑です。
悩み苦しみ、自分を粗末にしながら街を彷徨っている子供を見つけ、
あれこれ詮索せず、落ち着くまで泊めてあげる。
それ自体が『美しい行為』であることを、僕は否定しません。
だけどそれは、いまの日本では『犯罪行為』なんです。
{netabare}
そういうのは警察か児童相談所にもっていけ、がル-ルです。
そこできちんとした対応をしてくれる保証はありません。
大人の理屈でまるめ込まれ、
解決どころか納得すらしないまま家に連れ戻されて、
また同じことの繰り返しになることだって充分あり得ます。
そしてヤバいやつに引っ掛けられ、人生転がり落ちることもあります。
それでも、一般市民は困っている子供たちに、
100%の善意であったとしても、手を差し伸べちゃいけない。
なぜならば、それを法規制しないと悪人がのさばるからです。
法規制しないと、中高生が
「親が勉強勉強うるさい」ぐらいの理由で見知らぬ男の家を泊まり歩いても、
法的に手出しできないということになってしまいます。
そして『神まちJK』とか言われる子供たちが、
しょうもない人間たちの食い物にされているのは周知の事実です。
ロリコン親父が児童を連れまわすという犯罪も、現実に起こっています。
つまり、現在の法体系というのは、
悪意を封じるために善意も合わせて封じなければならないという、
苦しい矛盾の上に成り立っているんです。
この作品の主人公たちがそのことを理解し、
覚悟を決めて沙優をかくまっているのなら評価が全然変わります。
あるいは、なにも知らないまま沙優をかくまい続け、
逮捕されて裁判にかけられてしまうとか、
現在の法体系の矛盾を問題提議するような内容であったとしても、
映像化する意義は立派に存在したと思います。
だけど、そのどちらでもなく、
いい人に拾われてよかったね、ちゃんちゃん
なんてお話、わざわざ映像化する意味なんてないでしょう?
{/netabare}
感動してマネしたら、逮捕されちゃうんですよ?
ここからは趣向を変えまして、
この作品のどこが、なぜ、どういう犯罪になるのかということを、
可能な限りわかりやすく解説してみたいと思います。
本編のレビューとしてはほとんど関係ないので、
ネタバレで隠しておきますから、
興味のある方だけ読んでいただければ幸いです。
法律の専門用語をあえて外していますので、
厳密にいうと「少し違う」のですが、法科の方、ごめんしてくださいね。
{netabare}
この作品の主人公が引っかかる可能性が高いのは、
青少年健全育成条例
未成年者略取及び誘拐罪 の二つです。
前者の方はものすごく簡単で、沙優のような未成年者を
保護者のOKなしに、深夜に連れ出したり止めたりしたらあかん
というものです。
これはまあ、ほぼ確実にアウトですね。
ただ、つかまっても罰金だけで済む、わりと軽めの犯罪です。
問題は後者の『未成年者略取及び誘拐罪』の方です。
ええっ? 誘拐なんかしてないじゃん、同意の上じゃん。
と感じる人が多いかも知れませんが、実はこれ、アウトなんです。
そもそも、嫌がってる人を「おりゃあっ」と無理に連れ去るのは、
誘拐じゃなくて『略取』なんです。
こっちにおいで~、と
騙したり誘惑したりして連れていくのが『誘拐』なんですね。
で、この法律は『未成年者』がアタマについてるのがミソ。
誘拐されたのが未成年者の場合には、
その監護者(親とか保護者とか)の権利も、守られているんです、
ですから、たとえ娘さんと同意していたとしても、
お母さんが「あたしゃ認めてないっ、これは誘拐よっ」
と言い出したら、誘拐になっちゃうんです。
この罪が成立する条件というのは、以下の三つです。
① 相手が『未成年』であることを
② ちゃんと『知った上』で
③ その子を『略取または誘拐』して自分の元におくこと
この作品を例に取ると、
最初の夜は主人公が「帰れ」と言っているのに、
沙優が強引にくっついてきていますよね。
この場合、沙優が女子高生であることは、見ればわかります。
だから①と②の条件はクリア。
ただし主人公自らが誘ったわけではないので③の条件を満たさず、
一泊目だけは、ギリギリセ-フと言えなくもないです。
ただし、二泊目以降はぜんぜん話が違います。
沙優は何も言ってないのに、主人公が「ここに住め」と言ってます。
家出して困ってる相手にそれを言うのは『誘惑』に他ならず、
③の条件をクリアして、めでたく犯罪者の仲間入りです。
作品本編では巨乳上司が「それって犯罪と紙一重よ」なんて言ってますが、
もろ、バリバリの、どこに出しても恥ずかしくない、
りっぱな犯罪です。
この罪の刑罰は『3か月以上7年以下の懲役』と、めっちゃ重いです。
お母さんが訴えでたら、
アパートにパトカー横付けされて、その場で手錠をがちゃり。
留置場に放り込まれて、厳しい取り調べ。
家出の理由すら聞いてないのですから情状酌量の余地も少なく、
裁判で有罪判決受けて前科者、というのがふつうです。
よいこは、絶対にマネをしてはいけません。
ちなみに、この法律は『親告罪』といって、
沙優あるいはご家族などからの訴えがない限り、
逮捕されることはありません。
ただしそれは「法律的にOK」という意味では決してなく、
犯罪は犯罪なんだけど、警察が勝手に逮捕できないだけのことです。
訴えられなきゃ何してもセーフ、とは考えないでくださいね。
そして、もしも沙優とセックスしていたらどうなったか。
その場合は『未成年者略取・誘拐罪』ではなく、
わいせつ目的で誘拐したということで、
ワンランク上の『営利目的等略取・誘拐罪』になる可能性があります。
(厳密には違いますが、そう理解してください)
刑罰も『一年以上十年以下』と、さらに重くなります。
そして、この罪は『親告罪』ではありません。
家出JKひろってタダでヤれてラッキーとか思ってたら、
いきなりパクられてムショ暮らし、というのが冗談にならないんです。
ちなみに、覚せい剤を所持していた場合の刑罰も『十年以下』。
ヤれる家出JKを部屋に連れ込むっていうのは、
たとえ本人との合意があったとしても、
家の中に覚せい剤隠し持つのと同じことなんです。
{/netabare}
よいこのみんなは『神まちJK』なんか、
絶対に拾わないようにね。
万が一拾っても、手は出さない。おにいさんと約束だよ~っ。