薄雪草 さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
夢見る星くず
「金持ちが、天国に入るのは難しい。」
マタイ福音書19章です。
続きはこうです。
「らくだが針の穴を通る方が、まだ易しい。」
・・・穴があったら入りたい気分・・・。
「近墨必緇(きんぼくひっし)、近朱必赤(きんしゅひっせき)」。
傳玄(ふげん)の『太子少傳箴』です。
「朱に交われば赤くなる。」の元文・語源と言われています。
どんな気丈夫でも、より影響力のある人には吞み込まれるもの。
転じて、選ぶ友人で人生のQOLがあらかた決まる・・・(汗)。
「泥中の蓮(はちす)」。
仏教典の一つ、維摩(ゆいま)教に見えます。
ビジュアル的には、泥田に咲く蓮は、泰然として清凛としたさま、です。
転じて、渾然のなかにも秩然の心あり、となります。・・・(大汗)。
~ ~ ~ ~ ~
ほしのゆめみはチャットボット。
誰からも愛される "プラネタリアン" 。
星先案内人です。
来館者あっての彼女ですが、肝心のお客さまは誰一人として姿を見せません。
ですが、ゆめみのデータチップに蓄積されているのは、ありがとうの言葉と、幸せにあふれる笑顔ばかりです。
その青年は自分を "屑屋" と名乗っています。
物色するのはロボットに支配された無人の街。
銃撃に逃げ込んだのは、放棄されたプラネタリウム。
人間と見れば誰かれなく攻撃する。
忌むべきは、油断も信用もならないロボットたち。
ゆめみの心づくしにも、彼のポリシーは揺るぐことはないのです。
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プラネタリアンは、過去も未来も操れる"魔法使い" 。
しばしの陶酔を供するのが、何にも優さる悦びなのです。
長きに待ち侘びた、とっておきの投影プログラム。
"お客様に喜んでいただきたい。"
そんなささやかな夢を、うんと魔法に込めるのです。
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何を思ったのか、青年は力を貸すことに。
そしていつしか、ゆめみの魔法の囚われ人になるのです。
それは天上からの啓示?
それとも地上の厭戦からの逃避?
あるいは身上を無下としてきた背徳への懺悔?
とまれ、人類の罪を贖う十字架を、青年は背負ったのです。
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ゆめみは、バグを感知します。
躯体内に見つけようとしますが、それは館外にあったのです。
プラネタリウムの外は、お客さまが歓びを持ち帰る場所。
ゆめみにはたどり着けない、安息の家なのです。
使命を果たすために。
人との未来を紡ぐために。
ゆめみは、自らを鞭打ちます。
その姿は、あまりにも悲しき殉愛。
その願いは、あまりにも遠い殉教。
ゆめみに託されたのは、たしかに人の想いです。
では、人は、何を受け取ったというのでしょう。
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プラネタリウムには、流れ星の煌めきを。
プラネタリアンには、流れぬ涙の輝きを。
流浪と漂泊の旅路は、ついに託願へと至ります。
満天の星々から、地上の人類へ。
独りの人から、みどりごたちへ。
証は "ちいさなほしのひと" に付されます。
星をめぐり想いを巡らせてきた語り部と伝道師。
身を呈し、また窶(やつ)しても、友愛(とも)なる願いで繋がっているメッセンジャー。
同志なのです。
屑屋は、もうお客様なんかじゃありません。
「プラネタリウムはいかがでしょう。」
そう語れる資質を十分に持っているのです。