「銀河英雄伝説(TVアニメ動画)」

総合得点
89.2
感想・評価
948
棚に入れた
4066
ランキング
88
★★★★★ 4.3 (948)
物語
4.6
作画
3.8
声優
4.5
音楽
4.2
キャラ
4.5

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ネタバレ

padatal さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

110話見終わっての感想.....

110話を見終わるにあたって、あまりにつらく苦しい日々が長く続いた。気が重くて見たくないと感じながらも見ないわけにはいかず、重苦しい気持ちの中で見続けた。しかし最終回で、ラインハルトの平穏に満ちた眼、つまり彼の満足した死をみて、キルヒアイスやヤンが死んだ時のように泣くことなく、むしろよかったと思えた。ラインハルトの、敵だけでなく自分自身をも焼き尽くす炎、「神々しい」とまでビッテンフェルトに言わしめる覇気・鋭気は、自分の身を焼き尽くしたあとに穏やかに消えていったのだと。これがヒルダの言う「命数」であった。

(1) ずっとこの世界にいて何が辛かったかといえば、戦争(艦隊戦+白兵戦)・謀略・テロによる人々の死だ。
艦隊戦の戦術・戦略は面白くみられたが、ローゼンリッター、シェーンコップらの斧による白兵戦(特に「血のカスケード」など)は特に残虐で、見るだけでもきつかった。
しかし一番気が重かったのは、政治的謀略、デマの流布、人心の攪乱、(隠れた形での)暴力の煽動、テロ事件などによって、人をはめ、殺していく策謀・策動が進んでいくのをみていた時。どんなに良い意図で物事を進めていても、こうやって謀略をめぐらす人・集団・組織 (特に地球教という宗教的セクト) につぶされる。人間がつくる社会・政治の、それは歴史的常だということなのであろうが、それを知るのはつらく、心が苦しく、何度も押しつぶされそうになった(特にジェシカの死)。
民主共和制のもとでも、いい加減で責任感もない政治家がマスコミをうまく使って世論を操作し、人々の声を弾圧・圧殺していくという描写は、あまりに現実感があって、とても気持ちが落ち込んだ。
また、ヴェスターランドでの核攻撃による大量虐殺については、最後の方になり、ラインハルトの心があらためて自責の念で爆発するというシーンが描かれていた。ラインハルトの心がこわれたあのシーンはいろいろな意味で大変重要だった。
これに比べると、むしろ艦隊戦での攻防は、いわゆる軍記ものでの名誉ある死(ビュコックの死) であり、まさに「英雄伝説」的に受け止められるものだった。
ヤンも言っていたように、500年に渡って銀河帝国と自由惑星同盟の間に戦争が続いていたことは、このような政治的・軍事的状況の中でどれだけ人が死に、苦しんできたのかを物語る。これをずっと描きだすことが、作者が伝えたかったことなのではと思う。そして、最後に両勢力の間の戦争がなくなり、共存する平穏な日々が、皇帝となったラインハルト、そしてヤンとユリアンによってもたらされた(と一応思われる)という意味で、「英雄伝説」なのだと思う。

(2) 民主共和制と専制君主制を正面から現実的に論じている点。これが銀河英雄伝説が他のアニメとは一線を画する点だと思われる。
特にヤンの言葉が中心ではあるが、作中では何度も繰り返し、腐敗して衆愚政治となった民主共和制と、革新的で進歩的な専制君主制のどちらがよりましなのか、という質問が、何度も読者に投げかけられていた。
特に第2期ではヤンの民主制論がユリアンに対して繰り返し論じられ、時に説教ですかと感じられるほどであった。確かにヤンの言うことに間違いはないと感じる一方、作品全体の流れからいくと、開明的な専制君主制の方が、改革の速度も早く、統一性があり、公正な税制と公正な裁判、充実した福祉政策、積極的な公共政策、ある程度の自主性、表現の自由の認可のもとで、よりよい政治を行いうるのではないか、という方向に導かれたような気がする。ラインハルト自身が全く生活においてつつましく、贅沢を最後まで求めなかったということが、銀河帝国が自由惑星同盟よりも腐っていないことを表していたかのようだ。
とはいえ、作者は最終回において、ユリアンからラインハルトへの提案で、今後は憲法をつくり、国会を開設していくことで、専制君主制から立憲民主主義に移行していくことを提言している。ラインハルトはそれをヒルダに託し、立憲制への移行もまたよし、としている。
この意味では、作者は開明的専制君主から民主主義に移行していくという、ヨーロッパの歴史(あるいは日本の歴史) を念頭においていたのかもしれない。
いずれにせよ、ハイネセンという民主共和制の地が自治領として存続したことは、ヤンが帰れる場所ができたとことも合わせ、大変よい結末であったと感じた。

(3) 個人的にとても辛く思ったのは、ラインハルトのトラウマとストレスであった。
ラインハルトはアンネ・ローゼとキルヒアイスという二つの決定的なトラウマにより、その人生が左右され、そしてそのトラウマの煉獄の炎によって自らを焼き尽くしてしまったと感じられた。
まず、小さい子どもの時から母がわりの姉にわがままを言い、大事にされ、愛され、べったりと甘えてきた男の子が、10歳というまだまだ甘えたい、愛されたい盛りの年頃に大好きな姉を奪われてしまったことのとてつもない怒りと憤りと敗北感とトラウマ。
考えるに、ラインハルトはこの時に自分のすべての力、能力、知識を、大切な姉を取り戻す、姉を奪ったゴールデンバウム王朝の打倒、宇宙の支配へと完全に集中し、その力を伸ばすことにすべての力を全集中的に傾け、その中で自分自身を復讐的野心の炎でめらめらと焦がしていくことになった。つまりラインハルトの「命数」は10歳から削れていったのだと思う。だからこそラインハルトは本当の実力をつけ、ミッターマイヤーやロイエンタールを従える力をつけることができた。(まだ外伝はみていません)
そして、20歳の時のキルヒアイスの死だ。・・・・これはもうつらすぎて、思い出すだけで号泣しそうだ・・・。
「キルヒアイスが生きていれば」の言葉を何度作中で聞いたかわからない。キルヒアイス、本当にいい人だった。
しかしここで注目したいのはキルヒアイス自身というより、ラインハルトのとてつもない自責の念である。
対等の友、「マイン・フロイント」としてのキルヒアイスの前では、10歳の時の屈託のないただの少年に戻ってしまうラインハルト。なんでも甘えて、それでも許してくれるキルヒアイスのもとでは、表情や口調まで、まるで違ってしまい、まわりの将らがひいてしまうほどだった。
そしてそのキルヒアイスをヴェスターラント事件の件で「上から」叱責し、銃をとりあげた結果として死なせてしまったラインハルト。自分の甘えによって、10歳から20歳までの人生の月日をともに歩んできた、かけがえのない友の取り返しのつかない死を招いてしまった。この自責の念の大きさを第2シーズン以降、繰り返し繰り返し見ることになるのが、本当につらかった。
特に暗殺未遂事件でヴェスターラントを思い出し、心がこわれてしまったラインハルトの絶望たるや…..。あの時にフロイライン・マリーンドルフがラインハルトの手にかかった赤ワイン(ラインハルトには、キルヒアイスの血に見えていた) を拭いてあげたのは、きわめて象徴的なシーンだったと思う。
その後もキルヒアイスのことを思って自責に苦しむ一方、ヒルダという新たな、おそらく甘えられる存在を得て、正直私は本当にほっとした。
とはいえ、4年間にもわたって、親友を自ら死なせるというとてつもないトラウマを抱えたラインハルトは、どれだけのストレスを抱え続けていたかと思う。これほどの強いストレスの持続があれば、統合失調症のような精神疾患になりそうなところであるが、ラインハルトの場合幸か不幸か、それが自己免疫疾患という身体の病気に展開したわけである。なのでラインハルトが自己免疫疾患で早世したことは、その「命数」がストレスによって急速に失われていたことを考えると、きわめて納得することができた。
ラインハルトは、自分の人生の中で被った強いストレスのもで、まさに自分の身を焼きながら、ゴールデンバウム王朝を打倒し(アンネ・ローゼ)、そして宇宙を手に入れた(キルヒアイス) 。その強い意志、覇気、鋭気にうたれるとともに、それが同時に彼自身の命を削るという犠牲のもとになりたっていたのだとの感慨をもった。

投稿 : 2021/07/26
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サンキュー:

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