「結城友奈は勇者である(TVアニメ動画)」

総合得点
77.9
感想・評価
1410
棚に入れた
6914
ランキング
588
★★★★☆ 3.7 (1410)
物語
3.7
作画
3.8
声優
3.7
音楽
3.7
キャラ
3.8

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

キャラの魅力が十二分に伝わる作品でした。

『新日常系』というジャンルを提唱しただけあって、この作品のストーリー構成は変身ヒロイン物としてはかなり独特だ。このジャンルで長尺のバトルシーンがない話を“日常回”と呼ぶのは皆知っているだろう。本作はその日常回が全12話のおよそ半分を占めている。それが面白いか?と訊かれれば、答えはYESだ。

【ココが面白い:メリハリのついた日常と非日常】
勇者たちの目的は敵を倒すことではなく“神樹を守ること”。「新世紀ヱヴァンゲリヲン」と同じく1つの拠点に留まって防衛し、敵を迎え討つタイプだ。
その神樹と呼ばれる神様の木は敵の襲来時に警報を鳴らし、一般人が敵に襲われないための“樹海”という独自結界を貼る。現実世界から断絶されたバトルフィールドで、勇者は人知れず激しい戦闘を行わなければならない。
逆を言えば、敵が来ない日は勇者たちのOFF日でもある。神樹による防衛は絶対であり敵の奇襲は無い。人類を守るために日夜パトロールする必要も逐一雑魚敵を駆除しに出撃する必要も無い。然るべき時に然るべき仕事をすればいい彼女らは自由時間に日常を謳歌することを設定から許されている。
だからこそ1:1の日常と非日常という極端な配分に違和感は覚えず、むしろスイッチの切り替えのようにメリハリの効いたシナリオに仕上がっている。
新入部員との交流や歌のテスト対策など、本当に丸々1話敵と戦わない話が何話かあり、その時だけこの作品のジャンルは「まんがタイムきらら」ばりの日常・青春モノだ。
1作品で2ジャンルが楽しめて、各キャラクターもバトルヒロインと一般女学生の両面で充分表現されている。「戦うからこそのバトルヒロインだけど、日常を過ごすシーンも見てみたい」という潜在的な欲求に上手いこと応えた意欲作と言える。

【そしてココがすごい!:死よりも辛い“満開”と“散華”】
日常シーンが多いとは言っても本作は飽くまでも変身ヒロイン物。地上波では深夜帯、カラーリングのピンクが主人公で黄色が先輩枠ということもあり、観る人が大体あの「魔法少女まどか☆マギカ」と比較することは避けられない(あちらは厳密に言えば魔法少女モノだけど)。となれば当然、キャラクターの凄惨な死や変身システムの闇といったダークな部分に期待が寄せられる。本作はそれにも十二分に応えつつ独自性溢れる設定を披露した。“満開”と“散華”である。
{netabare}勇者に選ばれた娘は死ぬことはなく、どんなピンチでも“満開”という技を使って窮地を乗り越える。その代わり、満開を使えば目が見えなくなったり声が出なくなったり味を感じなくなったりと五感や身体機能に関する後遺症を引き起こしてしまう。
味覚が無ければ甘いジュースや美味しい料理が味わえない。声が出なければ友達とカラオケにも行けない。戦いの後遺症──“散華”という非日常要素が何気無い筈の日常を蝕む描写で誰かが死なずとも鬱になる。いや、各キャラが殺されながら活かされてると言ってもいい。
とくに言えるのが先代勇者・乃木園子。彼女の姿は劇中、最も痛々しい。全身に包帯が巻かれ、見る聞く話すがやっとの状態。そして地上波版に限るが、手足を通してる筈の袖や裾がペタンコな寝巻き姿を見て四肢欠損というおぞましい想像を促してくる。
ネタバレすると後で治るのだが、それは最終話で描かれた嘘から出た実(まこと)というやつだ。そんなことを登場人物の誰もが知らないが故に「喪った身体が戻ることはない」という前提で行動する。そのどれもが各々の立場を考えれば納得できるものばかりで、納得するからこそ後半は見てて辛い。辛い展開の中に趣があり、話を追いたくなるのはまどマギ他、名作アニメとの共通点だと言える。{/netabare}

【キャラクター評価】
結城友奈
主人公にしては少し地味。というより他の部員のキャラクター性が中々に濃く、友奈はそんな勇者部に溶け込んでいる感じ。
代わりにそんな濃ゆい部員たちが傷ついたり、暗かったり、あるいは道を踏み外そうとした時に一番魅力的な活躍をする。{netabare}中でも「ヤベぇなこの娘」と思ったのが味覚が無い時に出されたご馳走にいの一番に手を付けて、食感や喉越しで味わう描写だ。
皆が味覚の無い自分を気づかって食事に気後れするのを察しての素早い行動。第1印象の楽天家とは遠く離れた究極の気づかいに心を打たれた。
{/netabare}
東郷美森
身体障害者として登場するも、それを補って余りあるハイスペックの披露や日常を楽しむ描写で不思議と可哀想だとは思わない。通う学校や合宿先の旅館も福祉設備・サービスが充実していて移動に困難なシーンがないという徹底ぶりでデリケートなキャラ設定を上手に包み込んでいる。
{netabare}その分、この作品の雰囲気は東郷の精神状態に傾倒しており、序中盤は国防・ぼたもち・軍歌・カボチャetc……で笑いを取る一方、彼女が敵に回った10話以降は、明かされた様々な新設定と一緒にのしかかるとてつもなく重い展開であり見所の1つと言える。{/netabare}

三好夏凜
本来このテのツンデレは戦闘で独断専行が過ぎてピンチに陥ったり、強敵を前に挫折したりする。それを主人公ないし彼女の相方となる娘に助けてもらって絆を築くのが定番だろう。そんな御約束をこの作品では日常的な青春ストーリーに置き換えることで、必要なシナリオに“癒される雰囲気”や“キャラの可愛さ”といった付加価値をつけている。
{netabare}第3話では敵をアバンで片づけて、彼女の転入と入部、そして勇者部への迎合を描いている。初めての部活動の失敗から無断欠席という逃避を選んだ夏凜の借り部屋に勇者部が集まり誕生日を祝う、という優しいエピソードが彼女のツンデレを100%楽しめるようになっている。
「誕生日なんて祝われたことないからどんな顔すればいいかわからないじゃない!///」
アスカ・ラングレーかと思ってたらとんだ綾波レイちゃんである。{/netabare}
ちなみに「ちょろイン」とも言われてるが、デレるまでは丸々1話かけているのでそれは間違い(まあ最初の台詞で「ちょろいっ!」なんて言うから付けられたのだろうが……)。

犬吠埼樹
夏凜の次に主役回をもらえた子。4話では苦手な音楽の授業で歌のテストを控えており、勇者部全員でサポートする。バーテックスは現れず、只の尺埋めの日常回だと思っていたが……余談だが樹役の黒沢さん、かなり歌が上手いぞ
{netabare}先輩たちから貰った寄せ書きを機にあがり症を克服し、逆に歌手となる夢を持った樹。そんな彼女の散華した部分がよりにもよって声なのだから嘆かずにはいられない。だが本人の泣く描写は全く描かれず、大赦の嘘を信じて声が戻る方法を模索していたのだから、そこに健気さも心強さも覚える。
そして貰った寄せ書きに「勇者部に入ってよかった」と書くあの描写──何度見ても泣ける自信がある。{/netabare}

犬吠埼風
サバサバした性格に加えて第1~2話で知ってて他の部員を樹海とバーテックス絡みに捲き込んでしまってるなど、劇中のみではややいい加減な印象を抱いてしまう不憫な役。皆さんどうかPCゲームの方も手に入れてほしい。悪いのは大赦って奴の仕業なんだ!
{netabare}勇者や樹海について色々な知識をもらっていたものの、満開と散華については伏せられており、「そうと知ってれば皆を捲き込むことなんて絶対しなかった!」と激昂する9話の風先輩は本作の最高潮と言える。いやほんと、あのバカデカい剣が止めに入った夏凜や友奈に躊躇なく振り下ろされるのだから、あれは息を呑んだわ、うん。
そんな描写はあれど勇者部の仲間のことは大事に思っており、だからこそ大赦とのやり取りを1人で抱え込んでしまっている。
上手く立ち回れないのは頭脳面の問題で、本人は視力の散華を機に中二病患者の様に振る舞って場を和ませようとしたり、まだツンツンな夏凜を邪見にせず絡みにいったりと良い先輩している。{/netabare}

【総評:キャラの魅力が十二分に伝わる作品でした。】
{netabare}“戦い続けることでどんどん身体が不自由になる”という新しいダーク要素を引っ提げることで当時ちょっとした話題になることができた本作だからこそ、最終話で「全員の身体が元に戻りました。めでたしめでたし」とやられるのはどこか納得がいかないし「ご都合主義だ」と言われてしまうのも仕方がないと思う。私も初見で観たときは「うーん……」と唸るしかなかった。
だがそれはそれとして、このジャンルにしてはメインキャラクターの魅力を十二分に引き出すことが出来たのではないだろうか。{/netabare}
ヒロインアクションアニメに求められるのは女の子キャラクターの“勇ましさ”と“可愛さ”、そして“色気”だ。勇ましさの方はバトルシーンで魅せられるものの、そこで露骨に可愛さや色気まで出してしまえば真面目に戦っているようには見えなくなってしまう。毎度、人類の存続が懸かる世界観でその戦闘描写は×だ。
かといってプリティ&セクシーな日常シーンを入れようとしても他作品の、常に敵が暗躍するような道中では状況とキャラクターの心情が正に「遊んでる場合じゃない」という風にもなり、良くて1話の内のAパートのみと少なくなる。「可愛い」と「カッコいい」は相反するものなだけあってその両立は難しいようだ。私自身色んな変身ヒロイン物や魔法少女モノを観てきたつもりだけども中々、単作のみでは満足感に欠ける作品しかない。
そんなジレンマを神樹様の加護という鉄壁(まあ乗り越えられてるが)と5話で敵を全滅させたという大団円を描くことで払拭し、キャラクターの笑顔と日常系の雰囲気、スタイルの良い娘の官能的な主張といった要素をバトルアクションときっちり折半した本作は真の意味でのヒロインアクションアニメと言ってもいい。1クールで日常も非日常も両方しっかりと描写して『この日常を守るために戦うんだ』というバトルヒロインの行動理念に強く感情移入できるよう作られている。正に短く太い1クールのプリキュアだ。
{netabare}加えて、仲間想いの良い娘たちが非日常に翻弄されるダークな展開が確かに面白い。トコトン酷い状況に彼女らを追い込む割に命までは摘み取るようなことがないので、初見でも顛末がどうなるか知るというよりも「全員救われてほしい」「元通りの日常に帰ってほしい」と願って話を追うようになる。最終話は強引でもそれに応えた形だ。
ある意味で童話やおとぎ話にも近いのかな、と現在は思う。「千と千尋の神隠し」もひとしきり神の世界を冒険した後は1つの回答で父母を取り戻して帰ることが出来ているのだし。ジブリの大半が大団円を迎えることを知っているからこそ金曜ロードショーで再放送される度になんとなく観ることができる代物だ。
ゆゆゆも最終話がああだからこそ2周目3周目は道中の鬱展開になんとか耐えられる。何度も観れるからこそ何度でも勇ましいバトルシーンと女子力溢れる日常シーンを振り返って楽しむことができる。そんな強みがもっと沢山のオタクに評価されることを常日頃、私は願っている。{/netabare}

投稿 : 2021/05/10
閲覧 : 528
サンキュー:

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