「氷菓(TVアニメ動画)」

総合得点
90.4
感想・評価
8361
棚に入れた
35405
ランキング
53
★★★★★ 4.1 (8361)
物語
4.1
作画
4.4
声優
4.1
音楽
3.9
キャラ
4.1

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nyaro さんの感想・評価

★★★★★ 5.0
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

小市民を見て、本作はキャラが原作改変かなあと気が付きました。

「小市民」を見て「小市民」は潔く小佐内を原作通りに描いたのに対し、本作はそういえばかなり原作改変をしたなあと気が付きました。話の筋は99%は原作準拠です。ですが、その中に含まれる暗いドロドロしたものですね。これを非常に上手くデオドラントしたなあと思いました。

 まず、姉妹の話ですね。原作だと最後に仲良くしているシーンはありません。これは姉妹にあこがれる千反田が実際の兄弟姉妹はそんなにいいものではないと気が付くというオチになります。
 映画の話の入須先輩が最後のほうでホータローに謝罪のように取れる言葉を言いますが、これも原作にはないものです。つまり、入須は実はもっと冷酷な印象になります。もちろん「氷菓」事件自体がまったく救いのない話です。
 
 この2つの事件の悪意を消したことで非常に作品全体がマイルドな印象になりました。

 で、主要メンバーです。バレンタインや文化祭の話で分かる通り里志の知識欲はコンプレックスであり、彼は自分の居心地のために摩耶花との関係性を自分の思う通りにコントロールしています。それは摩耶花を認めたうえで自分との釣り合いと言っていますが、なぜ答えがだせないのか。この里志の自問自答って好きかどうかって入ってないんですよね。その辺どうとらえればいいんでしょうか?彼はそれを自分に問うているのかどうかですね。
 ホータローへの対抗心がなくなったら、ひょっとしたら摩耶花の申し出を受けるかもしれませんが、その時には摩耶花は里志に魅力を感じるかどうかも含めてわかりません。

 摩耶花は文化祭でわかるとおり、正しい事しか言えない面倒くさい女です。あのキツイ態度は自己評価の低さかなとも思われます。
 あとはフロル「11人いる」萩尾望都作品のコスプレというところに意識高い系であり、はっちゃけられない性格も表現していました。エスパー魔美のコスプレは原作にはあったかな?

 千反田ですね。彼女が大事です。彼女は豪農の娘で、おにぎりを手早く握れ、米を研ぐのが上手いです。描かれている特徴が好奇心以外は全部「米」に関することです。逆に言えば、旧家の因習にとらわれて自分の将来を縛られていることに窮屈さを感じしかもそのことをあきらめています。千反田の自室の描写などはアニメ版でも匂わせていたのかな?つまり、女子高生らしく生きられないということです。

 そして、ホータローの能力を見極めた上で自分への協力を求めます。この辺のマインドにしたたかさを感じます。そして他言を許さないところでプライドの高さも感じます。あの閉じ込められたときもそうですね。

 つまり、彼女は天然であっても芯に地域を支える惣領の娘としての自尊心と閉塞感があることがわかります。「遠回りする雛」は結構これが読み取れる形でした。ホータローなどが直答できないレベルのお嬢様。そして、ホータローなどよりよほどしっかりした役割を果たしている。恋愛の話に見えますが、ホータローは千反田を見下していたのが、逆転した瞬間ですね。演出で灰色がピンク色になるところに目を奪われますけどね。ここはある意味で「小市民」との共通点になります。だから…ですが、私はこのままではキャラに忠実であろうとすれば、原作者はホータローは千反田との破局を書かざるを得ないと思います。

 彼女が解放されるときは、つまりホータローがいらなくなる時です。もっとハイレベルの世界に行くでしょう。「俺が経営的戦略眼…」が愛の自覚であると同時に絶望的な差を感じた瞬間でした。里志と同様にそれが口に出せないところがポイントです。「灰色」「省エネ」では彼は千反田に追いつけません。姉はホータローが堕落するのが分かっていて誘導した気がします。

 ホータローの姉ですよね。ホータローを海外から遠隔操作し入須の思惑を見抜く。その交友関係、古典部にいたという事実からカンヤ祭の件などとうにわかっている気がします。バックナンバーの件もあるし、ひょっとしたら千反田を裏でそそのかしている可能性もちょっと考えますけどね。それはどこにも書いてありません。ありませんが、入須のところで2人のつながりをちょっと匂わせていました。つまり、千反田を利用してホータローを変える作戦だったのかなと思います。

 という感じで、それぞれの事件の裏の動機・思惑とは別に、ここのキャラクターを紐解いてゆくと、本当はものすごく内面のドロドロした話になっている気がします。「手作りチョコレート事件」「遠回りする雛」で一旦本作原作は区切りです。
 つまり、この2作が原作者が描きたかったことでしょう。となると、4人は成長とともに離れていく関係性のように見えます。古典部という枠が無くなれば、一緒にいる理由がない4人になる気がします。あとは2人の男たちの成長がどうなるかで、能天気な高校時代の恋愛からの結婚の将来も描けるでしょうが、描き方を素直にとると大学、社会人と4人が一緒にいられるとは思えません。

 京アニ版の本作も、ストーリでは忠実ではあります。ですが、何かそういう裏を感じさせないような演出だったかなと思いました。

 この辺の裏を考察すると、アニメ版の氷菓はライトにエンタメにしましたが、本当は「小市民」同様そんなに軽い日常系の推理だけの話ではありません。つまり、キャラの性格を巧妙に隠してキャラの奥にある闇を感じる作品を明るいエンタメにしたことで、その点は原作改変だなあと改めて「小市民」を見て気が付きました。




以前のレビューです。22年4月

「2重構造の日常の謎にバラ色を探すホータローの青春。一番好きな推理小説です。」

 推理ですので、謎の解答については触れていません。本当は本作の素晴らしさを語るには謎解きについて書きたいですが、ネタバレで隠すことはできますが、推理小説のネタバレをアップするのは止めておきます。

 この作品は特にメインになる話において日常の謎解きの下に真の謎がある、と言う構造です。ヒューマンドラマが隠れています。さらにホータローが千反田に対する距離が縮まって行くプロセスが描かれます。

 つまり、推理ではありますが、ホータローがバラ色の高校生活…それは千反田でした、というラブコメでもありました。更にホータローが主体性を獲得して行き自ら行動して行くという成長が見られました。
 ラブコメとしての水準は非常に高いです。主人公の心の変化をここまで丁寧に面白く描いた作品は数少ないでしょう。

 ここに見えない登場人物、姉の存在があります。恐らくですがホータローの学園生活について思うところがあったんでしょうね。海外からでもホータローを遠隔操作できる強者でした。前半は活躍しますが後半はフェードアウトします。

 桁上がりの4名家とかもうまいですよね。名家という存在でさりげなく舞台が田舎で因習があることを表現していたし、名家のつながりが交友関係やストーリーの要素になったりします。

 なお、1話目について、前後半別れた話で導入のような軽い話ですが後半の女郎蜘蛛の会…これ、重要です。千反田との距離感についてこれが喫茶店のシーンにつながり、そして最後は遠回りする雛につながってゆきます。

 刑事事件にもならない日常系推理ではありますが、謎の中には、本人たちにとっては自分事で大きな意味を持つ事件もありました。

 氷菓は千反田、映画はホータロー、文化祭はマヤカそしてサトシのプライドの問題でもありました。もちろん遠回りする雛はホータローの「自覚」でした。バレンタインはサトシとマヤカです。
 優れた推理とこの主人公たちの内面と恋愛感情の部分を言葉で説明しないでストーリーで見せたところがいいですね。ホータローのバラ色の生活を含めて、重層的な意味を描けた本作は本当に素晴らしいと思います。


 映像・アニメ表現に関しては、キャラデザ・作画は最高です。原作のイメージ通りで、しかも破綻が一切ないと思います。ヒロインの髪、瞳の輝き、雪や桜の表現など効果的で美しかったです。
 主人公、ヒロインその他、声優も雰囲気がぴったりあっていあました。

 幻想的な映像表現で遊びの部分もありましたが、そのレベルが高くてともすれば映像的には地味な本作について上手く処理したなあという感じです。

 演出では、もともと高校生にしては大人びすぎているキャラばかりの中で、マヤカの性格作りが原作に比べてきつすぎるかなあ、というところがありました。

 アニメ版になってマイルドな性格になった登場人物もいて、原作の意味が若干変わっているところはありますが、見ている側からするとよい改変です。もし、原作を読むなら比べるといいかもしれません。

 キャラでは十文字先輩の見た目としゃべり方が素晴らしいです。短時間しかでませんが、育ちの良さをちゃんと表現できています。
 もちろんヒロイン千反田のキャラデザ、ぶっとんだ天然ぶりも素晴らしです。ヒロインのエロシーン(温泉回と水着回)もあるといえばありますが残念ながら全然エロくありません。これは意図的な演出の気もしますが。11.5話の水着回でかろうじて…いや、やっぱりエロくはないですね。


 総評としては、推理小説を題材にしたアニメはいろいろありますが、出色の出来です。青春ラブコメとしても、かなりの水準です。アニメの出来、演出、ストーリー…5年、10年後に見ても古さを感じないでしょう。

 なお、自慢になりますが、遠まわりする雛、ふたりの距離の概算、いまさら翼といわれても、は初版本を持っています。それくらい本作は原作時代からのめり込んでいました。

 以前のレビューを大幅に修正しました。

投稿 : 2024/09/26
閲覧 : 478
サンキュー:

20

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