薄雪草 さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
憧憬と、残影と。
全体的な印象はSFチックな世界観。
でも、確かなのは母娘の情愛の物語。
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「意志の自由」という概念があります。
簡単にいうと「やる・やらないの選択の自由、意思決定の自由」です。
この自由を積み上げていくと、やがて一つの形になります。
人生です。
では、ちょっと考えてみてください。
あなたはどちらを選ぶでしょうか。
後悔ばかりだと言える人生と
後悔すらできなかった人生を。
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記憶という概念があります。
人によってピンキリなそれは、世の中においてもピンキリなのかも知れません。
前者を謳えば、 "過ぎてしまえばみな美しい" 。
後者を叩けば、 "憎まれっ子世に憚る" 。
いずれも文化人の粋な口上ですが、どうしたって生者からの視点なのです。
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死人に口なし。
本作は、死者の記憶に有意性を認めようとするトンデモなSF設定です。
つまり、脳死状態の人間から "データの吸い出し" を行なうというもの。
立場によっては、夢のようなテクノロジー。
過ぎてしまっても、永遠の "美しい口づけ"にまどろめます。
視点を変えれば、悪夢のようなナイトメア。
憎まれっ子は、とわに "世に憚る" 墓石に刻みつけられます。
現実的には脳の移植など、ハイエンドにも不可能。
ドナーとして提供することも、ローエンドにもあり得ません。
せいぜいホルマリン漬けとなるのが科学的良心なのかもしれません。
それを実験としてやらかしてしまったのが本作。
言ってみれば、良からぬ臭いに鼻を曲げるようなお話。
つまり、筋の通りようのない与太話なのです。
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なるほど、そうなのかもしれません。
SFとしても、荒唐無稽に過ぎて、思わず愁眉に歪むのです。
でも、目を向けるべきは、当事者の心情なのです。
憧憬と残影が魅せる人情噺として読み解くなら、たちまち愁眉を開くのです。
母にとっての子育ては、親育ちの日々でもあります。
"とつきとおかの先天の縦糸"
"成人式までの後天の横糸"
あまたの結び目をこさえることが、母の母たる実像。
なるほど、だからその子の名は織音、母の名は里美なのですね。
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「こんにちは赤ちゃん、私がママよ♪」
たったひと息のフレーズに、その夢をかけるのが母の全てなのです。
なのに、自作した子守唄の続きが、一瞬で途切れてしまう。
子どもへの想いが縁りあわせられないのなら、後悔などとは到底のこと口にはできない。
慙愧の念に苛まれ、遺憾の思いにも堪えられない。
たとえ不測の事故であってさえ、言い訳になんてできない。
それほどにわが身を恥じ、そして責めるのです。
親となれば。
親と、なれねば。
この当事者性にどこまで寄り添えられるかが、本作を評価する分岐点だと私は思います。
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どなたにも、後悔のない記憶などないでしょう。
後悔ばかりの記憶。
後悔だけの人生。
それでも、その観測は、その苦しみは、今を生きている証拠です。
母の記憶は、奇跡のチャンスを得て、わが子を地球へと産み落とす。
この子が、自らの意志で立ち上がり、歩めるようにと。
その人生を、美しく織り上げてくれるだろうと。
自らの自由意志で、自らの躯体を焼き尽くしても、その思いには一片の後悔もないだろう。
そう、私も願ったのです。
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本作は、Yahoo!JAPAN GYAO!で、ご覧いただけます。
配信期間は、未定となっています。(無料です。)