nyaro さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
構成、キャラ、ストーリー、テーマ、演出のすべてが高水準。
多分通しでは10回目かそれくらいの視聴回数です。
本作の優秀なところは、ストーリーとキャラ描写の秀逸さと構成です。まず「悔しくて死にそう」を1話で麗奈、12話で久美子に言わせたところです。このフレームがまずがっちり物語のボディとなっています。
その上、エンタメとしての面白さが演出やエピソードで盛り込まれています。
まず主人公、久美子のモチベーションです。自分を変えたいという希望からユーフォ以外の楽器を選択したい、吹奏楽部に入りたいわけじゃない、知り合いのいない北宇治高校に入りたい。
おそらくは先輩との陰湿なやり取りとかで嫌になった、あるいは長期間継続していたことにより自分が何が好きなのかを忘れてしまった。
ユーフォニウムという主役ではない楽器に自分を重ねていたのかもしれません。アスカ先輩曰く「地味」な楽器であり久美子です。だからこそ後々美少女麗奈と花形トランペットが活きてきます。
先輩との競争の部分で、久美子の中学校時代の回想と麗奈の再オーディションのところを合わせて、2人の性格を上手く描写していました。久美子は基本的に争いを好まないことが良くわかります。ただ、上を目指すということは争いがあるということだと気が付きます。
麗奈が2回の久美子からの「有難う」になぜ心を動かされたか。久美子は性格が悪い=本音を隠さずに言ってしまう。それが「黄前さんらしい」ということ。その久美子からの感謝は本気だということでしょう。
行間を勝手に読んでみると、麗奈は性格的に人からお礼を言われたことがないだろうというのがわかります。更にいえば、中学校の時に久美子に言われた「本気でいけると思っていたの」がずっと引っかかってその言葉に対抗するためにガムシャラに練習したのだと思います。推薦を蹴って、先生を追いかけたことですら久美子の言葉も左右しているのかもしれません。
そのこだわりの相手である久美子からお礼を言われた、つまり認められたことが、麗奈にとって何よりうれしかったんだと思います。
白ワンピはもちろん自分の弱さを知って欲しいからでしょう。その弱さというのは、やはり誰からも承認されないことがきつかった部分もあったのだと思います。
久美子は嘘を言わない。その久美子は自分の演奏を認め、努力を認めてくれる。そういう承認が欲しかったのかなあと思います。
自分は特別になるために、空気を読む付き合い。SNSでの付き合いに捨てる無駄な時間はない。そういうもの抜きに本当の自分を理解してくれる友人になれる気がしたのでしょう。
この2人の出会いによって、久美子は自分も特別になれるかもしれないという可能性に気が付きます。過去の自分を変えるために遠方の高校に来た久美子が覚醒します。
白ワンピの麗奈の懸命の告白をポカーンと聞いている久美子の表情に「やっぱり久美子は性格悪い」と嬉しそうに言うのは、上滑りの言葉だけの肯定ではなく、麗奈の決意に驚いていることを隠そうともしないところでしょう。
一方久美子が、この時なぜ命を落としてもいいと思ったかです。麗奈の一世一代の魔法に魅入られたというのでしょうか。もちろん、麗奈の言葉に魂を揺さぶられたということでしょう。
田中あすかです。実は麗奈と対になるキャラで、麗奈の弱さに対し、自分の目的のためには他をすべて切り捨てる冷酷さを持っています。彼女のコミカルなキャラは実は分厚い仮面であることはすぐに読み取れます。この田中あすかの内面が見えて行く描写もなかなかの迫力でした。
そして、大橋の涙で久美子の「くやしくて死にそう」です。麗奈に触発されて本気になったからこその涙です。麗奈を本当に理解した瞬間でもあるのでしょう。真夏の練習風景があったからこそです。
とまあ、長くなったのでこれくらいにします。本作は一つ一つのエピソードや場面、キャラに意味が感じられます。それを見せるためのストーリー、構成が本当に素晴らしくて、エンタメ性、感動、そしてテーマ性が高レベルでバランスよくまとまっていて、しかもキャラが魅力的で萌えられるという、ちょっと類例を見ない水準の出来になっていました。
思想的な深さではないですが、青春の一場面を切り取って一生懸命取り組むことの素晴らしさを描いた素晴らしい作品になっていました。
以下、2回目のレビューです。
{netabare} 本作の第8話の衝撃というのは7年経った今でも忘れられません。百合というよりは麗奈の独白の力強さ、でも久美子に告白しなければならないほんの少しの弱さ。その2人が初めてお互いの本質に触れて、心を通わせた結果2人の合奏でエンディング。
このシーン。もちろん映像的な美しさ、麗奈の白ワンピ、音楽、脚本、演出等々優れたところを上げればキリがないのですが、当時の仲間がすべて、SNS最高に対する力強いアンチテーゼ。部活とか努力とかそういうものを改めてクローズアップしたテーマ性。素晴らしかったと思います。
1シーンで切り取ればアニメ史上最高に私の心に響いたと思います。これは大げさではなく多分神社のふもとから演奏するカットまで全部脳内で再生できると思います。
そして、ここから触発された久美子の成長と宇治大橋のシーンへ続く物語は、なぜこの時期にこんな話が作れたのか本当に不思議でした。完全に当時の時代の価値観に逆行してましたよね。
泣くというんではないんですよね。悲しい訳でも同情や共感でもなく…ただ、青春時代の努力の果ての挫折の話に感動したんですよね。
実は初めて見たときは、まあギャグは面白いし女の子たちが個性的だなあとは思っていましたが、それほどのめり込んだわけではありません。でも8話を見た後にすべてが変わりました。
見直した時、やはりストーリー全体でもキーは麗奈という少女ですね。美少女だからではありません。このキャラが冒頭のイヤなキャラから、どんどん内面が見えてきて心を開いていく過程ですね。これが本当にうまかった。まるで謎解きのような感覚も覚えました。
それに呼応して成長してゆく久美子との対比でなんというか成長できる友情というのを押しつけがましくなく、非常に自然な形で見せてくれました。百合という人もいるしそういう演出意図もあるとは思いますけど、私は世間の評判を聞くまで全然百合だとは思いませんでした。
唯一、嫌いなセリフがありました。「殺してもいい」「本当に殺すよ」のシーンですね。これは作りすぎです。京アニの悪い癖ですね。このセリフさえなければ完璧だったのになあ、と思います。
構造としては前回レビューした通りスポコン野球アニメなんですけどね。ただ部活内のもめごととか、副部長とか、受験との葛藤とか、姉とか…その青春時代の心の動きを見事にとらえていました。
細かく言えばキリはないのですが、この作品の真価は8話以降の後半を見て、2回目を初めから集中して見ると分かる…と言えると思います。
ただ、私は続編は必要なかったかなあ…
今回他の作品の評価に比べ厳しかったので評価を5にしました。{/netabare}
以下 初回のレビューです。ちょっと視点をずらして書きましたので今回素直に再レビューしました。
京アニ的スポコン野球アニメ
{netabare} 昔は強豪だったこともあった、万年1回戦敗退の野球部。
外野に全国級のスラッガー(田中あすか)はいるが、真面目なだけのキャッチャーで部長(小笠原晴香)と130KM/H後半くらいの珠は投げられる(中世古香織)がなんとか部を引っ張っている状態だった。
そこに若くて優秀だが過去にいろいろあった新監督(滝昇)が赴任してきて、同時に監督の赴任のうわさを聞いた150KM/H級の超高校級投手(高坂麗奈)が強豪校への野球推薦を蹴って入学。
1年生の新入生、外野経験者だが本当は内野がやりたい経験者(黄前久美子)、中学野球で活躍したいぶし銀のショート(川島緑輝)、高校デビューのライト補欠(加藤葉月)が加わる。
甲子園を目指すという部員たちに、監督は試しに紅白戦をやらせるがあまりの体たらくにブチ切れ、対外試合を禁じられそうになる。仕方なく、外野、内野、投手に分かれて練習を始めるが…
という話を吹奏楽に置き換えたものです。
つまりこのアニメは、スポコン野球アニメなのです。吹奏楽だから目新しく感じますが。
ただ、プロットはこのようにありふれていますが、ここはさすがの京アニ、ストーリー、エピソードで非常にうまく仕上げています。
特に第8話の麗奈と久美子のエピソードは、ずっと繰り返しリピートして大げさでなく100回以上は見たくらいの仕上がりです。別に百合だから、ということではありません。構成が上手かったのか、ありふれた部活ものがここで一気にレベルが上がります。
麗奈の覚悟、久美子の覚醒、SNS全盛時代の仲間に対する問題提起と何かに打ち込むことの美しさ等々を非常に美しい映像と音楽で見せてくれます。
第8話を見るためだけでも、このアニメは見る価値があると思います。また、ヒロインの声優の演技でも話題になりました。話題以上だと思います。{/netabare}