かがみ さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「遠回り」の肯定
ゼロ年代における想像力を規定していた「大きな物語」なき現代における「小さな物語」同士の関係性をいかに記述するのかという問いに対する一つの洗練された答えが「つながり」という想像力であった。こうした「つながり」の想像力に全面的に依拠したジャンルが、ゼロ年代後半に開花した「日常系」と呼ばれる作品群であった。ゼロ年代における日常系の代表作「らき☆すた」「けいおん!」「ひだまりスケッチ」などから明らかなように、日常系が現代サブカルチャーにおける新たな想像力の地平を切り開いた点は疑いない。
ただ一方、日常系の描き出す「つながり」はもっぱら限定されたコミュニティ内部における女の子同士の甘やかな交流であり、ともすればその「つながり」は再び閉じたセカイに回収されてしまうという脆弱性を孕んでいた。
こうしたことから、2010年代を代表する日常系作品の多くにおいては「つながり」を内に閉じずに外に開き続けるための回路が導入されている。例えば「ご注文はうさぎですか?」「NEW GAME!」「こみっくがーるず」などは「お仕事」という回路を通じて、あるいは「アニマエール!」「ゆるキャン△」「恋する小惑星」などは「アウトドア」という回路を通じて「つながり」をコミュニティ外に開き続けることにある程度成功しているといえる。
本作もまたこうした2010年代型日常系作品の系譜に連なっている。高校受験に失敗し、中学浪人を経験して1年遅れの高校生活スタートさせた一ノ瀬花名は、高校で新しく出会った友人たちとまさに日常系的日常を過ごす一方、浪人について知られたくない恐怖感と、浪人を隠している後ろめたさに悩まされている。すなわち本作の「つながり」には「秘密」という他者性が走っており、この他者性が一つの切断線として本作において「つながり」を内に閉じずに外に開き続けるための回路として作動しているように思える。
こうして本作は日常系の伝統的テーマといえる「日常の価値の再発見」を一見、無駄に思える「遠回り」の中に見出すのである。また本作では伝統的日常系が重きを置いていた特異性肯定と同じくらいに「日常のマネジメント」というべき一般性適応にも重きをおいており、ここには日常系というジャンルが持つ可能性の萌芽をまた一つ見出すことができるのではないかと思う。