フリ-クス さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
ダメ社会人、若作りして高校に一年間潜入せよ
27歳というのは、けっこう人それぞれな年齢なのではと思います。
サッカ-選手にとっては、ピークとも呼べる最高の時期。
アイドルにとっては、次の路線を確保しないとヤバい時期。
ミュージシャンや役者は、この辺で売れてないとお先がかなり厳しい時期。
一般的なサラリーマンだと、
会社も仕事もわかった気になって、
いっちょまえの口を叩いている時期ではないかなあ、と。
少なくとも僕はそうでした。
若気の至りっちゅうかなんちゅうか……穴、穴はどこかにありませんか?
もちろん、ちゃんとしたレールに乗れている人ばっかでもありません。
バイトしながら売れない役者を続けている人、
夢いっぱいで結婚して早々に×がついちゃった人、
引きこもってゲームしたりアニメ見たりばっかしている人……
それでも人生は流れていきます。
bra! La-la, how the life goes on.
さて、この作品は、
そんなふうに若くして人生につまづいちゃった人を、
ありていに言えば『鍛えなおす』お話です。
{netabare}
タイトルは『ReLIFE』となっていますが、
タイムリープで人生をやり直す、という大層なものではなく、
ただ見かけを若くして高校に放り込むだけです。
イメージとしては、
おまえ、まだ若いくせに不景気な面しやがって。
ちょっくら変装して高校行って、
そのたるんだ性根、鍛えなおしてこいや。
という感じです。
いや、もちろんそこまでガラ悪くはありませんが。
主人公の海崎新太は、
ブラック企業を早々に辞め、再就職を目指すもうまくいかず、
コンビニバイトで食いつなぐ『負け組』フリータ-です。
で、リライフ研究所という怪しげな組織の被験者に選ばれ、
一年間の生活費はこっちで面倒見てやんよ、
ちゃんと一年お努めしたら再就職先も紹介してやんよ、
その間に関わった連中の記憶は全部消してやんよ
という、怪しげな契約条件で、
見かけだけが10歳若返るという怪しげなクスリを飲み、
知らない高校の三年生に編入させられます。
いや、もちろんそこまでフランクでもありませんが。
設定だけだと荒唐無稽でリアリティのかけらもなく、
駄作の匂いがぷんぷんしてきます。
だけど、面白い。
何がどう面白いかと言って、
「社会人が年齢を偽って高校生になったらどうなるか」
というイフものとして、ものすごく丁寧に作り込まれているんです。
高校生のスポーツテストの標準値がさらっと映る演出なんか秀逸で、
思わず「オレ、何秒だっけか」と自分を思い返してしまいます。
で、それに挑まされる主人公が、
27歳のなまった身体でトホホな結果になってしまうところなんか、
まあ、そうなるわなあ、と全幅の納得をしてしまいます。
最初の精神性も、納得のダメさ加減。
周りの高校生に対してはまだしも、
たった三つ年下、25歳の担任教師に対しても、
「そんな若いのにしっかりした仕事についてえらいなあ」
なんて、上から目線の何様発言。
27歳なんてまだまだ若造の部類なんだけど、
勝手に自分が『おっさん』になった気分になるあたり、
いかにもなメンタルの落ち込みっぷりです。
うんうん、こりゃあ鍛えなおし甲斐あるわ、と、ここでも納得。
で、仲良くなったクラスメイトとすったもんだを繰り返し、
少しずつ、縮こまっていた心がほぐれていきます。
もちろん、そこにあるのは当たり前の高校生活です。
朝から登校して授業を聴き、学食でご飯を食べ、試験に頭を悩ませ、
時に誰かをうらやんだり、意地を張ったり、好きになったり、
当事者にとっては何も珍しくない、流れていく日常。
だけどみんなの心が動いている。動き続けている。
そして、ついに主人公の心が動き始めます。
目を逸らし、心を閉ざして逃げ回っていたトラウマ、
ブラック企業に就職し、
稚拙な正義感から先輩へのいじめに反発して、
逆に自殺するまで追い詰めてしまったという忌まわしい過去。
その過去を正面から受け止めて、
それでも前を向いて歩きだしていけるほどに。
放映された本編は、この辺で残尿感たっぷりに終わります。
そこまでか、
そこまでして売りたいかOVA。
そして、OVAとして発売された完結編で、
主人公のリライフは、
大成功のうちに残酷なフィナーレを迎えます。
高校生として関わった全ての人の記憶から消えてしまうこと。
この、最初からわかっていた中二病的なフィナーレが、
なんと切なく残酷であることか。
物語の最後は、予定調和的なハッピーエンドです。
いろいろとツッコミたくなる終わり方なのですが、
あのまま主人公を投げっぱなしにしておくと切なすぎるため、
うんまあ仕方ないんじゃね、ぐらいの許容範囲に着地しています。
僕は個人的に、この作品の裏テ-マというかメッセージは、
『いまを大切に、懸命に生きる』
ということであると解釈しています。
高校三年生という時は二度と来ないんだからもったいない、
という意味のことを主人公は何度も語ります。
この辺は、ただのノスタルジーで深い意味はありません。
だけど、27歳という時も、二度とは来ないんです。
37歳になったときに、27歳だった自分をどう思うか。
47歳になったときに、37歳だった自分をどう思うか。
57歳になったときに、47歳だった自分をどう思うか。
そういう視点をもったときに初めて、
人生こんなもんだと達観し、
心を動かすことをやめてグダグダ生きていい時なんてない、
ということに気づかされるわけです。
自分で書いててブ-メランめっちゃ痛いですが。
ですからこの作品は、
17歳とか27歳とかそういうのに関係なく、
全ての年代の方へ贈られたエールではないのかなあ、と。
{/netabare}
おすすめ度で言うならば、
細かい設定や展開のアラが気になって仕方ない方は、
正直、あっちこっちでつまづいちゃうかな、と。
そうじゃない方、
まあ細かい枝ぶりはさておき、木じゃなく森を見ようじゃないか、
そういうタイプの方ならば、
身につまされながらも楽しく視聴できる
ちょっと切ない青春グラフィティに仕上がっております。
{netabare}
ちなみに僕は、
この作品で初めて上田麗奈さんという役者を知りました。
小野屋杏という、
ふつうに演ったら埋没してもおかしくないキャラが、
彼女の力でめちゃくちゃ立っていたんです。
茅野愛衣さん、戸松遥さんという実力派がメインをはり、
さらに二人とも脚本に引っ張られて素晴らしい芝居をしていたのに、
負けないどころかシ-ンによっては圧してすらいました。
すげえ奴いるなあと注目していたら、
『グリッドマン』や『エルメロイ』で次々当たり役を引き、
いまや引っ張りだこの人気役者です。
音鑑さんが彼女を使いたがる理由は痛いほどわかります。
彼女が一人いるだけで芝居の幅がぶわっと広がり、
作品の奥行きが出せますもの。
その反動として、出演作品の多くが役不足だったり、
まるっきり無理のあるアーティスト活動なんかさせられたりしてますが、
そこはまあ、当世の有名税ということで。
役者としての実力は、この世代では間違いなくトップクラスです。
少なくとも僕ごときが、
気軽に『うえしゃま』なんて呼んでいいレベルではありません。
さ・ら・に、どうでもいいことですが、
他の皆さんがレビューで書いているとおり、
本作のEDは、週替わりで10年前のヒット曲が流れています。
当時のラルクって、こんなペラペラの音だったんですね。
ちょっとびっくりです、なんか新鮮。
{/netabare}