フィリップ さんの感想・評価
3.9
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
語り継がれること
アニメーション制作:スタジオKAI、
監督:及川啓、助監督:成田巧、
シリーズ構成・原作:Cygames、
キャラクターデザイン・総作画監督:椛島洋介、
キャラクターデザイン:辻智子、総作画監督:藤本さとる
制作協力:P.A.WORKS、音楽:UTAMARO movement、
ようやくアプリ化も決まった上での2期。
今回は1期から時代が少し遡り、
トウカイテイオーとメジロマックイーンの
ふたりを中心に据えた全体の構成だった。
これが上手くはまった感がある。
1期後半の思わせぶりなキャラの登場から、
私はキタサンブラックが主役の物語も
あり得るのかと予想していたら、
そちらは、サトノダイヤモンドとともに子供として
登場させて、主役のふたりを応援させる展開。
テイオーが主役だと、知っているファンの年代が
かなり上になるので、どうなのかと考えていたが、
世間の反応を見ていると、知らない人たちに対しても
引き込むだけの実際のドラマチックな史実が
はまったということだろう。
また史実通りだと、テイオーとマックイーンは、
1度しか直接対決がないのだが、
その辺りの物語の組み立ても巧みだった。
お互いが意識するライバルとして、
最初から最後まで1本の筋を通したことで、
物語がとても上手くまとまっていた。
1期に比べると、2期のほうの感情表現が豊かで、
感動的なシーンを作り出す仕掛けが多く盛り込まれている。
例えば、故障で走れなかった菊花賞を
テイオーがスタンドで観戦して、
仲間がテイオーを意識して走るレースの描き方。
ライスシャワーとミホノブルボンの
ライバル関係とお互いを想う気持ち。
ツインターボがテイオーを意識するオールカマー。
テイオーがマックイーンに対して表明する不屈の宣言。
キャラの気持ちと実際のレースを組み合わせ、
それぞれのドラマを作り上げたのは優れていた。
ゲームを意識してより多くのキャラに焦点を当てたのも、
制作側の思惑としてよく分かるし、一貫している。
史実でGⅠを勝てなかったが、
多くの人の記憶に残っている馬を揃えたチームカノープス。
これを大きく取り上げたのも
ゲームを意識した構成で、ナイスネイチャや
イクノディクタス、マチカネタンホイザ、
ツインターボなどの面々にそれぞれ見せ場があった。
個人的には「鉄の女」と呼ばれ、GⅠ2着が2度も
ありながら、51戦もしたイクノディクタスのファンだった。
賞金5億円突破を果たした初の牝馬として知られる。
牡馬のマックイーンが牝馬のイクノディクタスのことを
大好きだったのは有名な話で、同じレースに出走するときなどは、
マックイーンがレースに集中するように
主戦の武豊がいつも気を遣っていたそうだ。
1期であまりにもマニアックな表現をしていたため、
そういう細かい描写もつい望んでしまう。
アニメでも描かれた1993年の宝塚記念は、
マックイーンが勝ち、イクノディクタスが2着。
レース時は、大好きなイクノのこともきっちり負かしている。
ちなみにこのレースの馬券を取ったのだが配当は安かった…
その前の安田記念でイクノが2着に来て高配当だったレースは、
イクノをずっと追いかけていながら取れなかったという。
何とも競馬あるあるの話なのだった。
私の場合、いちばん心を動かされたのは
ライスシャワーとミホノブルボンの
ライバル同士のストーリーだった。
序盤から天才少女として注目されていたミホノブルボンや
メジロマックイーンを追いかけ続け、
地獄の特訓と狂気もはらんだ精神状況によって
菊花賞や天皇賞春を勝つ話は、
物語的にも競馬ファン的にも心に響くものがあった。
特に実際の天皇賞春では、これまでの最低体重の430kgという
牡馬としては、異例ともいえる極限状態で挑んだ。
そのシーンをライスの執念として表現したのは見事だった。
{netabare}レースではマックイーンを徹底マークして、
最後には勝ち切るという見事なヒール役を演じたのだ。
世間から疎まれる存在としてライスシャワーを
描いたのは秀逸だった
アニメでは、勝利したあとの寂しさを漂わせ、
ミホノブルボンとの関係性も表現することで、
より深みを感じさせる物語となっていた。{/netabare}
ただ、残念だったのは、やはり2期はゲームのための
アニメ化であって、全体の構成という部分では、
1期より落ちることだった。
個人的にはライスシャワーを登場させるのなら、
せめて2度目の天皇賞春まで描かないと、
物語としては完結しないと思っている。
マックイーンに勝った天皇賞春以降が、
ライスシャワーにとっての本当の試練なので、
そこを省くのはあり得ない。
長いスランプを経験して、イチかバチかの戦法で
二度目の天皇賞春を制覇したことで、
それまでヒール役でしかなかったライスシャワーが、
大衆から受け入れられ、愛される存在になったのだ。
テイオーの話なので、ライスは関係ないといえば
それまでだが、ブルボンにしてもライスにしても
テイオーの話が薄いため、場つなぎとして
登場させたようにしか見えないのは不満点だった。
史実通りではなくてもいいので、
この2頭については、もう少し何らかの決着をつけて欲しかった。
また、レースシーンは1期に比べると、
圧倒的に迫力不足。これもゲーム用のCGを流用しているためか、
仕方がない部分だろうが、構図面では面白くない絵作りだった。
とは言え、ライスシャワーやミホノブルボン、ツインターボなどを
テイオーと絡ませたのは、上手い構成だったと思う。
全体の物語やキャラの描き方について、
ゲーム化という縛りを考えると、
アニメスタッフは最良の仕事をしたのだろう。
それは分かるのだが、イクノディクタスやライスシャワー、
ミホノブルボンに思い入れのある者としては、
つい愚痴りたくなってしまうのだった。
1期に比べると、競馬についての細かいネタは、
ほとんどなくなってしまったが、
キャラにクローズアップして、
それぞれの想いを表現するという部分では、
1期を上回っていたと思う。
テイオーの最後のレースは、
オグリキャップに並ぶほどの競馬の名シーン。
いつまでも語り継がれるだろうひとつの場面を
アニメの表現によって昇華させた。
(2021年4月18日初投稿)